第8話 VS デスモンキー②
死を覚悟し目を瞑る。
しかし次の瞬間、耳に入る音は私の想像とは全く異なるものであった。
ドガガガガ。
小さな地鳴りが起き、僅かに揺れる。
何かが起きた事を予感した私はゆっくりと目を開ける。
!!
そこに映っていたのは、突き出た地面。
自分を中心に、花開く様に地面から岩が飛び出していた。
槍の様に細く鋭利を形作った岩が無数に飛び出し、私に群がるデスモンキーの軍勢を一突きにしていた。
デスモンキーの腹部に突き刺さり、腹部及び口から血を吐き出している。
始めは口をガクガクと動かしていたが、やがて口を開けたまま動かなくなる。
私はそんな姿を目の当たりにして、目を見開く。
「無事か」
突然聞こえる耳馴染みのある声。
私は思わず視線を横に動かした。
「レアード・・・・・・」
私の視線の先に映るのは、レアードであった。
⭐︎
「レアード・・・・・・」
掠れる様な弱々しい声が出る。
しかし、その瞬間、咳が出て血反吐を吐く。
レアードは先程からの険しい表情を変えずに、近づいてくる。
「もういい。無理に声を出そうとするな」
私の状態を気にしてくれているのか、静止する。
レアードはしゃがみ込み私に目線を合わせる。
そして、私の身体全体、隅々まで目線を移す。
今の私は血だらけの満身創痍。
レアードの表情が徐々に怒りに変わっていく。
拳を握り締め、懸命に堪えている様に見える。
「「カーフェ!」」
レアードを押し除けて今度はリリィとカインの姿が視界に入る。
リリィは顔を青ざめ、私の顔に付いた血を拭いてくれる。
カインも売りの冷静さを消しているのか、慌てた表情で怪我の具合を確認してくれていた。
!!
しかし、このやりとりをいつまでもさせてくれる魔物ではない。
デスモンキーは突き出た岩の隙間を抜けて接近してくる。
私は目を見開き、必死に声を上げようとするが、咳き込んでしまい声を上げることができない。
すると、私とレアード達"希望の守り手"を守る様に竜巻が突如出現した。
竜巻は、飛びかかってくるデスモンキーを弾き飛ばし、壁の役割を果たしている。
「レアード」
声が聞こえ、私達全員が視線を向ける。
白い隊服を着た2人組。
見たことがある。
確かギルドの受付をしているところを見たことがある。
ここで昨日のギルド長室での出来事を思い出した。
ギルド長は腕利きを用意すると言っていた。
彼らがそうなのだろう。
私達は彼らの次の言葉を待つ。
「レアード。一時退きますか?」
レアードは立ち上がり、彼らに視線を向ける。
「いや、ここで対処する。現状カーフェがこの状態じゃあ、下手に動かすのは危険だ。それにカーフェがこの状態だ。Aランク冒険者がこんな状態なのに俺らが逃げられるとは思えねぇ」
レアードの発言を聞いて、彼らはようやく私に目を向ける。
ゆっくりと身体全体に目を向けて、その後しゃがみ込み目線を合わせた。
そして、徐に口を開く。
「しっかり話すのは初めてですね。私の名前はエイト。こちらはクトリと言います。あなたのことはギルド長から聞いています。単刀直入にお聞きしますが、『自己再生』は使用出来ますか?出来るのなら今すぐ治癒を開始してください」
私はエイト、そしてクトリに目を向ける。
クトリは私と目を合わせ頷く。
それを見た私は、目を瞑る。
『自己再生』発動。
上手く発動できた事を確認したのち、目をあける。
彼らに頷くとエイトとクトリは立ち上がり、吹き荒れる暴風の壁に目を向けた。
視線の先では、デスモンキーが果敢に突破を図ろうと飛びかかっていた。
竜巻に飛び込むたびに、身体を切り裂かれデスモンキーの身体を真っ赤に変えていく。
だというのに、デスモンキーは構う事なく突撃を続けていた。
痛みを感じていないの?
木に背中を預けた状態で竜巻全体に目を向けていた私にはデスモンキーの行動が無謀に思える。
この竜巻はおそらくエイトのスキルなのだろう。
風を操るスキル?か何か。
風に関係していることは間違いなさそうだ、と、感じる。
すると、竜巻で切り裂かれ飛び立った血が、エイトの頬に当たった。
頬に当たった血を拭ったエイトは、何に驚いたのか目を見開いていた。
??
エイトの仕草を見て、何かを感じ取ったのか、クトリがエイトに近づいていく。
「エイト?どうした?」
そばで同じく竜巻に目を向けていたレアード達もエイトに顔を向けている。
「竜巻の内側に奴らの血が飛んできました。この竜巻は中に入らんとするものを弾き飛ばせる様に外側に力が向けられています」
つまり、どういうこと?
あまり頭が回っていないため、まともに考えることができない。
クトリとレアード、そしてリリィは同じく理解出来ていないのか首を傾げている。
しかしただ一人、カインだけは顎に手を当てて考え込んでいた。
そして、何かに気付いたのか急に顔を上げる。
「突破されそうなのか?」
私達は驚いてエイトに顔を向ける。
「ええ、それも残念な事に破られる寸前です!」
その言葉を発した瞬間、事態は一変した。
⭐︎
キシシシと鳴く声を聞いて顔を向ける。
そこには顔の半分をこちらに向けて笑っているデスモンキーがいた。
しかも一匹だけではない。
顔を上げれば至る所に今にも竜巻を抜けて内部に入り込もうとするデスモンキーの姿が見える。
「構えろ!くるぞ!」
レアードの言葉と共に竜巻が消し飛んだ。
と、同時に拘束が解けたデスモンキーは我先にと私達に飛びかかってきた。
「させるかよ!」
目の前にレアードが前に出て、腕を前に突き出す。
その瞬間、レアードの目の前の地面から無数の岩の針が突き出す。
その針はどんどん範囲を広げていき、着地する寸前のデスモンキーを串刺しにしていく。
さらにレアードは右腕を横に広げると、地面から岩が伸び上がり大剣を模造すると、それを手に取り、針を越えてきたデスモンキーを叩き潰していく。
そんな中、全ての攻撃を躱し接近してくるデスモンキーも多くいた。
危ない!
そう思ったのも束の間、レアードに近づこうとしたデスモンキーは手足を無くし、地面に倒れ込む。
何が起きたの?
デスモンキーも同様に目を見開き、そして悲鳴をあげる。
他のデスモンキーは仲間の悲鳴に目もくれずレアード目掛けて飛びかかっていくが、同様に切り刻まれていった。
何が起きたか分からなかったが、レアードが視線をカインに送っている。
よく見ると、カインはなんとか見えるギリギリの速度で移動しデスモンキーの四肢を切断していたのだった。
そんなレアードとカインであったが、敵はAランクのしかも軍勢。
二人を掻い潜って死角から攻撃を繰り出そうと企む奴がいた。
危ない!
再び、叫び声をあげそうになるが、今度はデスモンキーの頭部を何かが貫く。
デスモンキーは何が起きたのか分からないままに倒れていく。
地面に目を向けるとそこには矢が刺さっていた。
その矢は血一滴さえも掛かっていない様に見える。
矢の延長線上に視線を移すと、少し離れた木の影にリリィ姉の姿が見える。
三人を見ていると信頼しあっている様で、最低限のアイコンタクトだけで庇い合い、助け合っているのがよく分かる。
こんなに強かったんだ・・・・・・。
レアード達の戦っている姿を見たことなかった私は、彼らの個々の実力と連携の高さに驚く。
何より、驚いたのは連携の高さ。
観察眼をここで鍛えてきた私には分かる。
これは互いの実力を発揮できる戦い方なのだろう。
互いを信頼しあっているからこそ、やりたい事に集中できる。
仲間がカバーしてくれるから。
だからこそ、すごいと感じるし、とても心強いと感じていた。
そして、ギルド員の二人。
エイトとクトリ。
この二人も流石だ。
エイトは風を操り、デスモンキーを誘導している様に見える。
おかげでレアード達が戦いやすい戦場変えている様に感じる。
そして、その誘導をよりやりやすくしているのがクトリ。
クトリのスキルは分からない。
けど、クトリが手を前に突き出すと、目の前のデスモンキーが急に方向転換していく。
ある程度離れると、再び近づいてくるが、クトリが手を突き出すと再び離れていく。
これは幻術の類だろう。
だが、これにより、これだけ多勢に無勢の状態でも戦う数のコントロールを可能にしていた。
けど・・・・・・。
いつまでもここまま続くことはない。
デスモンキーは知性の高い魔物だ。
だからこも臨機応変に対応しなければならない。
そして、それは少ししてから、目に見える形で現れた。
数を減らすだけで一向に倒せない事にようやく気付いたのか、デスモンキーは突撃を止め、後退を始めた。
始めは退くのかと思ったが、それは間違いだった。
レアードが手を前に突き出し、針の山を作り出す。
徐々に範囲を広げていく。
しかし、後少しで当たるというところで針が止まる。
ギリギリ当たらないところまで下がったデスモンキーは笑みを浮かべ、遠距離攻撃に出る。
速度のあまり、ほとんど見えていないが、おそらく石と魔物の骨だろう。
それを無造作に投げ込んできた。
即座に行動に出るレアード。
レアードは地面に手を叩きつけると、視界が変わる。
割れる音と共に地面が捲り上がり、壁を作った。
今私の視界には土の壁が見える。
ぬかるんだ地面ということもあり脆そうに見えたが、案外そうでもなく、デスモンキーの投石を受け止めていた。
ここからではよく見えないが今度は遠距離戦に変わる。
視線の先ではレアードが壁を維持し、カインは待機。
リリィは矢で応戦し、エイトは風の斬撃を飛ばしている。
クトリは腕を突き出しているので、サポートをしているのだと考える。
相変わらずものすごい量の投石を受け止めている。
大雨が屋根を叩く様に、石が壁を壊さんと音を鳴らしていた。
懸命にレアード達が戦っている最中、私は自身の状態を確認する。
身体の傷は殆どが塞がり、最も傷の深い脇腹も完全にはいかないが、ほとんど治りかけている。
出血が多いため、貧血気味であったが、それもスキルで回復しつつある。
身体が本調子に向かっているのを確認した私は立ち上がる。
立ちがった私に気付き目を向けるカイン。
私はカインの隣に並んだ。
「傷は大丈夫か?」
「大丈夫。それよりも、ごめんなさい。迷惑をかけちゃって」
「いや、僕達こそ助けるのが遅れてすまなかった」
「迷惑かけた分は戦いで返すわ」
「顔色も良いし、本当に大丈夫そうだね。なら、頼りにしようか」
カインは小さく笑みを浮かべる。
私も笑みを浮かべ、気合を入れる。
すると会話を呼ぶ声が聞こえた。
「カインあいつらの動きがまた変わった・・・・・・ってお前もう大丈夫なのか?」
後ろを向いて私に気付いたレアードが驚き、そして真剣な表情で口を開く。
「ええ、もう大丈夫よ。ここからは私も戦うわ」
「組んだこともまともにねぇお前に俺らと合わせられんのかよ」
「大丈夫。私達は家族でしょ?」
しばし睨み合いが続いたが、レアードが折れため息を吐く。
「あいつらの動きが変わった。遠距離だけじゃ無理と見て、今度は二手に分かれるみてえだ。カインとカーフェは奴らの右側面に回って、戦力を削ってくれ。左側面はエイトとクトリに任せる。戦力を分ける形になっちまうが、向こうも分けてきてる。そろそろ大胆な手でこっちから攻め込むぞ」
「「了解」」
私とカインは木々を利用して気づかれない様に移動する。
側面に回り込む間、デスモンキーの動きをしっかりと補足することができた。
デスモンキーはレアードが言っていた通り、前衛と後衛に半数ずつ分かれた様だ。
前衛はレアードの土の針を躱しながら徐々に土壁に近づいていた。
横から見ると土壁の悲惨さがよく分かる。
石が大量に叩きつけられて、もはや何らかのアート?の様に思えてくる。
側面に到着し、隙を伺う。
この作戦は連携が大事だ。
私達だけが出ていっても袋叩きに合うだろう。
左側面のエイトとクトリに合わせないといけない。
「これからどうすればいい?」
連携をしたことがない私はこの場面での動き方が分からない。
このタイミングでの質問は同じなことではないだろう。
「エイトが暴風を放つはずだから、それに合わせて飛び出そう」
「分かったわ」
私は鎌を構えて、準備を整える。
デスモンキーはゆっくりと土壁に近づいていく。
それを見るたびに、思わず身体が動き出しそうになる。
そして、デスモンキーの前衛の前列が針の山を完全に突破し、飛び込もうとするタイミング。
その絶妙なタイミングでようやく爆風が吹き荒れる。
「よし!」
カインと共に飛び出す。
そして、一直線にデスモンキーの前衛後列に飛びかかっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます