第3話 VSキラークイーンと世間の評価①

魔物。


魔物には10段階にランクが区切られている。


SSSランク、SSランク、Sランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランク、Gランクである。


ランクとは魔物の危険度の指標であり、標準がDランクとされている。


危険度といっても基準は多々あり、代表的なもので言うと強さ、知能、数、性質、生息範囲などによって厳正に決められている。




そして今目の前に相対しているキラークイーン。


この魔物はBランクであり、強さと知能、そして数を併せ持った魔物である。




私は今そんな魔物との戦闘を繰り広げていた。




「くっ」




キラークイーンは毒針の嵐を繰り出してくる。


私にとってこの毒針は特段速度のある攻撃ではないため、容易に躱すことが出来る。


しかし、飛行能力を持つ魔物との戦闘は、一騎打ちにおいてどれだけ奇襲を成功させるかが勝敗を分けるカギとなる。


そして、私はそういう意味では不利に立たされていた。




キキキキキ。




キラークイーンは私を小ばかにしているかのように鳴き声を鳴らす。




こいつ、私を馬鹿にして・・・・・・。




挑発を受け、拳を握りしめる。


現状、『身体強化』をもってしても届かない高さにキラークイーンはいる。


しかも、余裕をもって飛んでいるのではなく、ぎりぎり届かない高さを飛んで私をおちょくっているのである。




むかつく。




キラークイーンはキキキキと笑い声をあげているが、視線を逸らすようなことはしていない。


笑いながらも警戒心を解いていないのが分かる。




私は地面を蹴り、一直線に飛び上がると同時に鎌を振るう。




キキ。




キラークイーンは羽を素早く動かし上昇し、鎌を交わす。


と同時に今度は6本の尾を散らして操作し、上空で身動きできない私を狙う。


私は空中で体をひねり躱そうとするが、散らして多方向から伸びてくる尾をすべて躱すことは出来ない。




「いっ!!」




いくつかの尾の針が体を掠り、確かな傷を付ける。




くそっ!!


徐々に落下していく。


落下していくのを確認したキラークイーンは、直ぐに高度を落として再び、キキキキと鳴き声を上げる。




着地した私は一旦距離をとる。


そして、直ぐに傷跡を確認する。


キラークイーンの尾にも毒針がついている。


そのため傷跡は変色し黒ずみ始めていた。


じわじわと熱を持ち始め、鈍い痛みと痺れを与えるキラークイーンの毒。


掠り傷でこれだけの影響。


キラークイーンの毒の強さを再認識する。




私は笑みを受けべる。




『自己再生』発動。




一瞬淡い光が包み込み、瞬時に消える。


そして、再び傷跡に熱を感じ始める。


しかし、今度の熱は毒によるものではない。


自己再生によるものだ。


傷跡に目を向けると黒ずみが消えていくのが分かる。


痺れも消え万全な状態に戻る。




私は特別らしい。


スキルを2つ持っているからだ。


『身体強化』と『自己再生』。


2つを同時に使うことは出来ないが、この2つのスキルが私をここまで生かしてくれた。


普通は1人1つのはずなのになぜ私には2つもスキルを使えるのか、それは分からない。


しかし、一つ言えることがあるとするなら、これは悪いことではなく私を守るためのものであるという点だ。


きっと神様が私を守ってくれているのだろう。


感謝しなければ。




気を取り直して、キラークイーンに目を向ける。


相変わらずキキキキと鳴らしている。


きっと毒で苦しんでいるとでも思っているのだろう。


けど残念。


掠り傷程度の毒なら私のスキルで無効化できる。




私は大きく飛び上がり、鎌を構える。




キラークイーンはキキャッと驚くような声を上げる。


そして闇雲に毒針を降らせる。


しかし、闇雲なせいで狙いが定まっていない。


冷静に見切り、直撃する針だけを確実に弾いていく。


近づいてくる私を前に、ようやくキラークイーンは羽を広げ、回避行動をとる。




来た!


キラークイーンを仕留める千載一遇のチャンス。


確実に仕留める!




私は左手を懐に潜り込ませる。


取り出したのは4本のナイフ。


指で挟んで掴んでいる。




キキャキキャ!!




キラークイーンは冷静さを失っているようだが、もう遅い。




私はナイフをキラークイーンめがけて投げつける。




キキキキ。




キラークイーンは何とかしようと尾を振り回す。


ナイフを弾くことには成功し、キキキキと鳴き声を上げるキラークイーンだが、ナイフはあくまで囮。




私は持っていた鎌を投げる。


鎌は回転しながら無防備なキラークイーンめがけて突き進んでいく。


そしてキラークイーンが反応する間もなく、鎌はキラークイーンの前方に突き出た腹を切り裂き、そのまま羽を切り裂いた。




共に落ちていく私とキラークイーン。


しかし、すでに勝敗は決している。




私は綺麗に足から着地するのに対し、キラークイーンは奇声を浴びながら背中から落ちる。


手足をバタつかせているキラークイーン。




無様ね・・・・・・。



私はキラークイーンを視界に納め、鼻で笑う。


動けないキラークイーンの横を通って鎌を取りに行く。




攻撃はない。


それどころではないのだろう。




鎌を手に取り、再びキラークイーンに目を向ける。




キラークイーンはすでに体勢を整え終わり、私に目を向けている。


羽は切り裂かれ、飛べる状態ではない。


落ちた衝撃で尾も潰れ、毒針を射出する腹も半分切られ、半分潰れてしまっている。


つまり、キラークイーンはすべての武器を失い戦う術を持たないということになる。




これではまるで四つん這いね。




ただ這っているだけに見えるキラークイーンを冷笑する。


そして身動きすら取れないキラークイーンの首を切り落とした。























終わってみれば圧勝ね。




掠り傷は負ったが、『自己再生』で完治している。


ようは無傷の勝利だといえよう。




私はキラークイーンの首を切った鎌に目を向ける。


刃こぼれはない。


ランクBの魔物を切ったとは思えないほど軽い首であった。




こんなものなのね。




今の私はランクBの魔物でさえも無傷に近い形で仕留めることが可能。


強くなったことを実感した。




気付けば夕焼けが空を包み込んでいた。




もうこんな時間か・・・・・・。




私はキラークイーンとキラービーの討伐の証をはぎ取り、その場を後にした。























空が薄暗くなり始めたころ、私はようやくトレストの街、北門へ帰ってきた。


北門は深淵の森に向かう為の門。


現在はそれ以外の目的で利用する者がいない為、常に待たされることなく通過することが出来る。




「通行証を」




門番である警備兵に通行証を見せる。


見せるのは冒険証。


冒険証は身分証の代わりとなる。




私はトレストの街に入っていった。























トレストの街は嫌いだ。




それが私の本音であった。


どこにいても視線を感じる。


繁華街を通り、まっすぐ冒険者ギルドを目指す。


屋台が至る所にあり、大いに賑わっている。


だというのに私が通過するたびにその視線が集まる。


好奇の目に晒され、居心地の悪さを感じていた。




私は早歩きで屋台場を抜ける。




暫く歩き続けるとようやく目の前に冒険者ギルドが見えてきた。


冒険者が多いため、大きな建物となっている。


外からでも冒険者の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。




入りたくない。




そう思いながら、私はギルドの扉を開けた。























カーフェが早歩きで屋台場を抜けている間、とある若い青年が隣にいた青年に話しかけていた。




「おい、あの子めっちゃ美人じゃないか?」




知り合いではない。


しかし、酒が入っていて気分がいい青年はその問いに答える。




「ああ、あの子か。あの子は美人だけどなんか目つき悪いんだよなあ」




彼はカーフェのことをよく知っていた。


だからこその本音であった。




「おい、おまえあの子のこと知ってるのか?」




「当たり前だろ。この町では有名だ」




この町にいてカーフェの事を知らない人など、来たばかりの人だけだ。


だからこそ、仕方なく返事をする。




「へえ、どんな風に?」




「あの子は領主の奴隷で森の討伐を強制させられてるんだよ」




「まじかよ!可哀想じゃねえか!」




「だよなあ。あれこれもう5年くらいやってるよ。全く見てらんねえよ」




「そんなにやってんのか?」




「ああ、ずっと見てきたから覚えてるさ。毎日ボロボロになりながら血だらけで帰ってきてた。その上話しかけに行っても周りを寄せ付けない様子だし。なんというか、意図的に関わらないようにしてるっていうか余裕がないっていうか、そんな感じがすんだよなあ」




おそらく皆が同様の感想を抱くだろう。




「まじかよ。ギルドは協力しているのか?」




「分かんねえ」




「分かんない?」




「ああ、ギルドのやつらと一緒にいるところ見たことねえんだよ」




ギルドの連中とは人悶着あったらしい。


内容は知らないが、ギルドの連中は皆人がいい。


その連中がこぞって嫌っている様子を何度も耳にしたことがある。


何があったのだろうか?




「はあ!なんだよそれ!?」




「おい、俺にキレんなよ!まあ、そんな感じで領主のもんだから、あまり手を出せなくて見てることしかできねえんだよ」




「・・・・・・」




「・・・・・・どうした?」




「あの子。人生楽しくないんだろうな」




「そうだな。俺たちに出来るのはあの子に感謝することだけだ」




深淵の森から魔物が出てこないのも彼女のおかげだといえる。




「そうだな」




2人の青年はカーフェが歩いて行った先に目を向けた。




幸あれ。


それが市民からの願い。


これが「赤い死神」カーフェの市民からの評価である。























ギルドの扉を開けた瞬間、シーンと静まり返る。




冒険者は皆顔を顰め、私に目を向けてくる。


私はゆっくりと受付に足を進める。




冒険者の中を素通りし向かっていくが、どこもかしこも顔を顰め不機嫌を露わにしている。




「仲間殺しの死神が・・・・・・」




1人の冒険者の声がふと聞こえてくる。


怒りを覚えているような言い方。




「おい、やめろ!殺されるぞ!」




仲間らしい冒険者が、口を押えていた。




私は気にせず、無視をする。




「おかえりなさい、カーフェさん」




「マスターは?」




「ちょうどレアードさんたちが帰ってきて今ギルド長室にいます」




「分かった。私も行く」




「畏まりました。それでは先に討伐の品を頂きます」




私はマジックポケットから魔物の討伐の証を取り出す。


受付のテーブルいっぱいに討伐の証が置かれる。




出した瞬間、感嘆の声が聞こえてくる。


冒険者の者だ。




「こ、これは、本日もご苦労様です・・・・・・」




量の多さに思わずたじろぐ受付員。


しかし、さすがは受付員。


直ぐに我に返り、他の者に分配していく。


そして、笑顔で私をギルド長室に案内するのであった。

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