1章 君を私が最強にする
スレド・オールディルの日常
『ネロ。お前を俺のパーティーから追放する』
人生の転落はこの一言から始まった。
全くお笑いだ。
追放されたネロ・アートルムの方では無くて、追放したこの俺、スレド・オールディルの人生が転落するのだから。
「スレド。お前のパーティー、解散したらしいな」
「え~ザッコ。スレドお兄ちゃんあんなに粋がってたのに」
アイツを追放したきっかけは何だったか。
そう、占い師に言われたことを鵜呑みにしたのがきっかけだ。
『パーティーで一番弱い人間を追放しろ。そうすれば魔王は倒される』
だからパーティーで一番弱かったネグロを追放したんだ。
魔法も使えない。
剣の扱いも並以下。
加護の一つも持ってない。
そんな人間を一人追放しただけで何かが変わるわけないと思ってた。
「結局、お前は追放したネロ・アートルムに頼り切っていたんだ。パーティーがS級に成れたのも彼のおかげなんだろう。それを追放した今、他のメンバーがお前についていく義理は無い」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ兄貴!!アイツの能力はちゃんと調べたんだ。ネロにそんな力は存在しない」
「え~でも~、私そのネロって人と一緒に戦ったことあるけどさ~。なんかバフが掛かるって言うの??そう言う力は確実に持ってたよぉ」
「はぁ?」
「まぁ、スレド兄ちゃんはザコだからぁ……気づけなかったんじゃない?」
ネロを追放した瞬間、俺達は敗北を続ける羽目になった。
今まで雑魚だと思っていたモンスターに蹂躙され、同じS級のパーティーに蔑まされる日々。
「この世には未知があふれている。お前が追放したネロに人間では解明できない力が宿っている可能性もあるかもしれない」
「だったらー」
「だが、パーティーリーダーとしてちゃんと向き合っていれば理解できたんじゃないか?」
パーティーが勝ち続けているのは全部俺の指示のおかげだと思ってた。
そうじゃなきゃいけなかった。
だってそうだろ?
俺だ作ったパーティーがS級に成れたのが全部ネロのおかげなら、俺は何だったんだ。
俺一人だとみるみる転落するなんて……まるで俺が凡人以下みたいじゃないか。
そんなもの許されるはずがない。
許しちゃいけない。
だって俺はあのオールディル家の人間。
スレド・オールディルだぞ。
オールディルの血は天才しか生まない。
そう聞いて育てられてきた。
兄貴はギルドマスター。
妹は単独でS級パーティーに匹敵する化け物。
だって言うのに、俺だけが何もないなんて。
俺だけが凡人だなんて、そんな現実受け入れてたまるものか。
「お前はもう少し、身の丈に合った生活をー」
「うるせぇ!!兄貴は黙ってろ!!」
気が付けば俺は走り出していた。
あてなんて何処にもないのに。
「ぜってぇ見返してやる」
◇
家を出てから数日が立った。
あれから碌に飯が食えていない。
パーティーメンバーは皆、俺の元からいなくなった。
新しくメンバーを集めようにも、誰も仲間になろうとしない。
一人でこなせる依頼は薬草集めぐらいなものだ。
そんな凡人のする雑業をするなど俺のプライドが許さなかった。
金が無い。
腹が減った。
風呂も入れていない。
俺の人生、どうしてこうなった。
「ネロのせいだ……あいつが居たから……あいつが力を隠すから」
いつの間にかあたりは暗くなっていた。
もう自分がどこを歩いているのかすら分からない。
「ネロのせいだ……ネロのせいだ」
ふと前を見る。
そこに、奴は居た。
「ハハ……女を侍らせて人生順調ですってか?」
俺の人生を狂わせたネロ・アートルムがそこに居た。
色んな女と談笑しながら歩いている。
許せない。
俺がこんなに惨めな事になっているのに、お前が幸せな生活をしている事が許せない。
弱い癖に。
力もない癖に。
一人では何もできない癖に。
血筋も何も持っていない癖に。
「殺してやるよ」
気が付けば剣を抜いていた。
体は妙に軽い。
今ならきっと10秒でアイツの所に行ける。
奇襲をかけて、首を切って、その幸せな人生を終わりにしてー
「ストーーーーープ!!!!」
「は?」
俺が走ろうとしたその瞬間、知らない女の大声が聞こえた。
気が付けば女の影は眼前に。
「んが?!」
その女は助走をつけて、俺の体を押し倒した。
「今事を起こすのはまずいって言うか、バッドエンド突入待ったなしっていうか」
「何なんだテメェ!!いきなり突っかかってきて」
「君の人生を逆転させるにはまずこのイベントを無かった事にしなきゃダメなの。だから抑えて」
「はぁ?」
この女、今何って言った?
俺の人生を逆転させる?
あれか?
要らないアイテムを押し付けてくるタイプの占い師か?
「テメェの面なんか知らねぇよ。俺の人生と何の関係もないだろ」
「私も実物を見るのは初めてなんだけど……思ったよりイケメンだぁ」
「は?」
「ん゛ん゛。ちがくて……実際に見た事は無いけどさ。スレド、君の事は知ってるの」
こいつ、ナチュラルに俺の名前を。
いや、焦るのはまだ早い。
ただでさえ、ネロの件で悪いうわさが立ってんだ。
俺の名前を知っててもおかしくねぇ。
「俺の何を知ってるって?言ってみろよ」
「君の名前がスレド・オールディルであること。最近君のパーティーが崩壊したこと。ネロ・アートルムを追放した事がその原因になっている事」
「んなもん、噂好きな冒険者なら知っててもおかしくないー」
「家族と喧嘩中な事。今家出をしてる事。兄妹を見ているとコンプレックスが刺激されてどうしようもない事。寝る前に星を見つめるロマンチストな一面がある事。その話を元パーティーメンバーにしたところ『似合ってない』とドン引きされた事。昔、10歳年上の女冒険者に告白してこっぴどく振られた事」
「な?!」
「あとはー」
「待て待て待て!!もういいい!!いったん黙れ!!」
赤の他人が知るはずもない情報を女は当たり前の事の様に話した。
「と、まぁこんな感じで全部知ってるんだ。私の特殊能力……じゃなくて、この世界風に言うと……そ、そう。加護!!」
「んな加護聞いた事ねぇよ!!」
何なんだよこいつは?!
なんか途中ブツブツ小声で意味の分からねぇ事つぶやきやがって。
「しかもそれだけじゃない。ネロ・アートルムを追放した後、君のパーティーが弱くなった理由も知ってる。私が介入しない未来で何が起こるのかも分かる」
女がゆっくりと立ち上がる。
妙な服を着た、黒髪の女だった。
少なくとも、この街で見かけるような装いじゃねぇ。
「テメェは一体何者なんだ」
「おっと、自己紹介まだしてなかったね……最初の印象は大切だし」
女がさっと髪をいじり始めた。
わざとらしい咳払いを何度かした後、ようやくその口を開けた。
「私はアサノ。アオイシ・アサノ。貴方を助けるため、そして貴方と結婚するため、遠い遠い場所から来たんだよ」
正直言って、頭のおかしい女だ。
邪教徒でもおかしくない。
だけどこの女は言った。
【ネロ・アートルムを追放した後、俺のパーティーが弱くなった理由】を知っていると。
それは今の俺にとって一番必要な情報だ。
だったらこいつを利用する以外の選択肢はねぇ。
「詳しい話を聞かせろ」
「OK。じゃぁこっちに来て。プレゼントも用意してあるんだ」
そうして俺は女の後を着いていった。
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