第32話 嫌われている?

「ちなみにさ」

「ん?」

「沙音のフルネームって白城沙音だよね?」

「うん?」


名前?


「あ、うん!そうだよ!」


その言葉に、部屋中が一瞬で静まり返った。


何で知っているんだろう……?

沙音は驚いたように顔を上げた。


「え?なんで知ってたの?」

「有名だよ。ヴァンパイヤを基準に作られた入試をそれも首都で合格したんだから」

「え……?そんなにすごいことだったんだ……」

「は…?」


リュカの目が見開く。

よく見ると、後ろにいた夜翔も驚いていた。


今度はリュカが驚く番だった。


「え?なんで?合格は知ってたんでしょ?」

「うん。でも、それ以外なんも言われなかったよ?」

「興味はなかったの?」

「うん……そんなには…」


今度はリュカが壮大なため息をついた。


「……沙音はなんでこの学校にしたの?」

「えっと、おすすめされて」

「誰に?」

「お兄ちゃんたちに……」

「へえ、沙音ってお兄ちゃんがいるんだね」


びっくりしたように言うリュカ。


「うん。おすすめされたのはいいんだけど……なんか、勝手に応募されて」

「で、合格したんだ…」

「……うん。合格を取り消すことはできないって言われちゃって……」

「……それは、災難だったね。でも、俺的には沙音に会えたから嬉しいかな」


“俺”……切替をしているのかな……?


「珍しいですね。リュカ先輩が気にかける女子なんて」


ふと、背後から水音のように静かな声が降ってきた。

振り向くと、そこには──淡い水色の髪に翡翠ひすいの瞳を持つ少年だった。


真琴まこと……」


リュカが小さく名前を呼ぶ。

真琴と呼ばれたその少年は私を見るなり、自己紹介をした。その目の中にはまるで、評価するような冷たいものがあった。


「綿津見真琴《わたつみまこと》。……幹部の一人です」


その翡翠の瞳は一瞬だけ沙音をなぞるように動き、わずかに細められた。


「あ、白城沙音です」

「………知ってます。首都の特例合格者、ですよね」


そう言った真琴の瞳が、ほんの一瞬リュカをかすめる。

その一瞬にだけ、翡翠色の瞳が濁ったように見えた気がした──


どこか淡々としていたけど、その声に込められた温度が低く感じる。


「よろしく、お願いします…」

「……そうですね。リュカ先輩が“気に入った”なら、無下にはできませんし。俺もそこまで心狭いつもりはないですし」


……リュカ先輩に、いつまで気に入ってるかはわかりませんが


そんな雰囲気を真琴は言外に込めていた。



……一つ一つの言葉にトゲがある気がして……心がちょぴり痛くなった。

もしかして、ちょっと嫌われている……?

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