第19話 自分自身

静寂が病室に流れた瞬間、ぼんやりとした霧のようなものが引いて、もとの自分に戻ってきたような感覚に陥る。


目覚めてから自分じゃない誰かの感情がふわふわと漂っていた。昔の記憶も戻った所為なのか、頭が混乱していたのかもしれない。でも、あれは──あの気持ちは偽りではなく、前世の私……凛夜のだったと思う。


その瞬間、恥ずかしさと気まずさがドッドと押し寄せて来た。


思わず夜翔に向けていた視線を逸らす。手は繋がれたままで余計に恥ずかしさのような気まずさのようなものが胸をざわつかせる。


夜翔は、何も言わない。ただ、私を見守るようにして静かに、視線だけが私に注がれる。


その沈黙が、今はとても苦しく感じた。

何かを話してこの沈黙を破りたいのに、何を話せばいいかわかんないっ……。


「……さっき……」


声を出そうとして、喉がひくりと詰まる。

夜翔は、その後の言葉を聞こうとしているのか、耳を澄ましているのはこっちにも伝わる。


「……さっきの、私じゃなくて……ううん、私なんだけど、違うっていうか……」


思ったように伝えることが出来ない………っ


「あれは……凛夜の影響、だと、思うの……」


私が何を言いたいのか、なんとなく伝わったのか夜翔からは予想もしない言葉が返された。


「……凛夜じゃなくて、沙音だろ。今は」


その一言は、どんな言葉よりもスーと心の中に響いた。


「……ごめん、なさい。記憶は戻ったけど…まだ、夜翔の番になるか、どうかは……今は、わかんないかも……」


言葉が途切れるけど、それでも……自分の考えをちゃんと伝えようっ…と思った。


「……ああ、わかってる」


苦しそうな顔で言った夜翔の表情にズキリと胸が痛んだ……気がした。



言葉にできなくても……今は曖昧でも……。

少なくても、今この瞬間は──私は“私”として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る