第20話 安堵【side 夜翔】

沙音のまつ毛が、かすかに震えた。


「……!」


夜翔は椅子から思わず立ち上がりかけて、ぐっと堪える。


「沙音……?」


その呼びかけに、ゆっくりと瞼が持ち上がる。だけど、焦点はまだ合っていないのか、ぼんやりと天井を見つめるその瞳には、今まで見たことのないものが含まれているように見えた。


「……よ…る……と……?」


か細く、乾いた声で名前を呼ばれた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。夜翔はゆっくりと近づき、沙音の手をそっと握る。か弱い力だが、そのに確かな力があった。


「ここにいるよ。……ずっと、そばにいた」


いつもの声ではなく優しく、言うようにした。


沙音は、目をゆっくりと夜翔のほうに向ける。瞳の奥に、揺らぐ不安と、それでも見つけられた安堵が浮かんでいる。


「……夢かと、思った。……また、戻れないって……」


その言葉の裏にある恐怖が、夜翔には痛いほど分かる。だからこそ、強くは言えなかった。ただ、指を重ね、そっと応える。


「……戻ってきてくれて、ありがとう」


沙音は、小さく笑った。涙が一粒、こぼれ落ちる。


その隣で、岬がそっと視線を外す。


「……じゃあ、俺は外で待ってる。二人で、少し話してこいよ」


静かに病室を出て行く岬の背に、夜翔は感謝の視線を送った。


残された二人の間に、ようやく静かな時間が流れ始めた。

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