淫魔の姫君と夜の契約

王都の空は、いつになく重かった。

灰と朱が混じる夕暮れのなか、主人公――レオンは、王城から離れた旧塔へと足を運んでいた。


「ここで待っているわ。あの娘がね」


そう耳打ちしてきたのは、淫魔巫女エルミアだった。

微笑を湛えたまま、何かを諦めたような、どこか祝福するような顔で。


石畳を登りきった先、古塔の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは――


「ようこそ、レオン様」


銀の髪を腰まで垂らし、深紅の瞳に妖しい光を宿す少女。

漆黒のドレスが薄絹のように肌へ張りつき、乳房と腰のラインをなぞる。


「私はクローデリア。淫魔族の“姫”であり、次代の女王候補。……あなたに、契約を申し出に来たの」


塔の中は、まるで別世界だった。

宙に揺れる紅い灯。妖花が咲き誇り、甘やかな香が漂う。


「契約……だと?」


「ええ。淫魔族は、“精”を力に変える存在。あなたの力は特別。私たちがあなたと結ばれることで、淫魔族全体が――新しい段階へ進めるの」


「……だが、なぜ俺なんだ。淫魔なら、もっと強大な魔術師や王侯とも契約できるはずだろう」


クローデリアは一瞬、目を伏せた。


「――だって、あなたは、私を“見て”くれたから」


声は、微かに震えていた。


「私たちは、見た目でしか評価されない。快楽の道具、精を搾る器……でも、あなたは、巫女の心も、王女の想いも、ちゃんと受け取ってる。だから……私も、あなたに縋りたい」


その言葉に、レオンは返す言葉を失った。


「“契約”の儀式は、私たちにとって“交わり”のこと。……受け入れてもらえる?」


クローデリアはゆっくりと腰を沈め、ドレスの裾を自ら捲り上げた。

脚が、太腿が、そしてしっとりと濡れた花芯が、妖しく火照っていた。


「……その答えは、体で確かめてくれればいいわ」


レオンはゆっくりと手を差し出す。

触れた肌は驚くほど熱く、指先が這うたびにクローデリアは微かに震えた。


「んっ……あ……やさしいのね、あなた……」


まるでそれが、心を撫でられるような感覚だったのだろう。

最初は妖艶に誘うような声音だったのに、次第に彼女の吐息は甘く、幼く、そして必死なものに変わっていく。


「ちがう……もっと……私を、乱して……あなたで、私を満たして……!」


その夜の儀式は、快楽と赦しの契約だった。


クローデリアの身体は、すべてをさらけ出し、

レオンはその奥に眠っていた“孤独”を、一つずつ抱きしめるように愛した。


「……契約、完了。あなたの精は、私の中に……」


クローデリアが眠るように囁いたその時――


塔の外、遠くの影で、リリス王女がその光景を見ていた。

嫉妬に歪む視線。だが、涙を浮かべた瞳は、どこまでも切なかった。


「また……誰かに、奪われたのね」


誰にも見せないように、静かに、そして確かにその場に爪を立てながら――

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