王女の嫉妬とお仕置き調教

神殿を出て、しばらく歩いた頃だった。


森の奥、湿った夜気の中で——背筋を撫でるような視線を、俺は確かに感じた。


「……いるのか?」


振り返ると、月明かりに浮かび上がったのは、ひときわ艶やかな黒髪。

ゆらりと、マントを翻して現れたその姿は、間違いなかった。


「リリス……王女殿下……?」


「——ずいぶんと楽しんでいたわね。巫女と、神殿で」


その声音は、冷たく張り詰めていた。

けれどその奥底には、抑えきれない激情の熱が渦巻いていた。


「ち、違う……いや、違わないけど、あれは神託で——」


「ふふ。言い訳なんていらないわ。だってもう、身体中に“あの女”の匂いが染みついているんですもの」


彼女が一歩近づくごとに、夜が濃くなる気がした。


「私の“可愛い番”が、他の女に触れられて、悦んで……そんなもの、王女として許せるわけないでしょう?」


「番……って、俺は——」


「……黙りなさい」


その一言と共に、リリスは魔導式の鎖を放った。

赤黒い光が迸り、俺の両手首に冷たい枷が巻き付く。


「えっ、ちょ、なにこれ——」


「“王命”よ。私の所有物に、勝手な行動は許さないわ」


そして彼女は、妖しく微笑んだ。


「さあ……お仕置きの時間よ、可愛い裏切り者さん」


リリスに連れられて辿り着いたのは、城の離れにある“王女の私室”。


けれどそこは、装飾も少なく、妙に薄暗く、鉄の鎖や鏡が壁に仕込まれた——まるで儀式場のような空間だった。


「……なあ、リリス。これはちょっと……」


「“様”をつけなさい?」


くいっと顎を上げ、リリスが命じる。

その瞬間、彼女の指先から走った雷撃が、俺の胸元を焼いた。


「いっ……!」


「言葉遣いから教え直さないといけないみたいね。いいわ、徹底的に“調教”してあげる」


高貴な顔立ちに似合わぬ言葉。けれどその瞳は、明らかに悦びで潤んでいた。


「跪きなさい。私の、騎士兼、慰み者として」


俺の身体は、なぜか逆らえなかった。

屈辱感よりも、どこか疼くような快感が背筋を這っていた。


「ふふ……その目。いい顔になってきたわね」


リリスは黒のドレスを脱ぎ捨てると、下に何も身につけていなかったことを、俺に見せつけた。


「ずっとこうしていたのよ。貴方を想いながら、誰にも見せずに」


その声が、熱を帯びる。


「他の女に抱かれた身体……私のもので、上書きしないと、ね?」


ベッドに押し倒された俺の上に、リリスが跨る。

その腰がゆっくりと沈み、俺を包み込んだ瞬間——


「っ……く、あっ、あああ……っ!」


王女としての威厳などどこへやら、リリスは悦びの声を惜しげもなく吐き出した。


「これ……よ……これが、私だけの、モノ……っ。他の誰にも……渡さない……!」


彼女は獣のように腰を打ちつける。


絶え間なく、貪るように、俺のすべてを奪おうとする。


「もっと……奥まで……っ、私の中、抉って……刻みつけて……貴方は、私のものよぉ……!」


「リリス、もう——」


「名前呼ばないでっ……! “お姫様”って、呼びなさいよぉ!」


恥ずかしげもなく叫びながら、リリスは絶頂を迎えた。

その瞬間、彼女の瞳から一粒、涙が零れた。


しばらくして、彼女は俺の胸に顔を押しつけながら、ぽつりと呟いた。


「……怖かったの。貴方が、他の誰かのものになるのが」


それは、王女ではなく、ただの一人の少女の声だった。


「巫女は、運命を見通す力がある。“彼”は誰かを孕ませ、世界を変えるって……言っていたから……」


「だからって、無理やり……」


「無理じゃないわ。私は貴方が好き。狂うほど、独占したいほどに」


その言葉の重さに、俺は何も返せなかった。


「……どうやら、面白くなってきましたわね」


闇の中で、第三の影が蠢いていた。


しなやかな足音。揺れる尻尾。黄金の瞳。


「淫魔の巫女に、嫉妬深い王女……ふふ。次は私の番、ですわね」

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