38.二人も護衛がつきました

 一日休んでいたら、翌日にはかなり回復したの。クリスお義兄様は、外交上の付き合いがあって忙しい。代わりに、ディーお義姉様がお見舞いに来てくださった。


「お騒がせして申し訳ございません」


 恥ずかしいと思いながら謝れば、ディーお義姉様はからりと笑った。明るい表情で教えてくれたのは、お酒について。ディーお義姉様は寒い地方の出身で、幼い頃からホットワインなどで体を慣らしてきた。ご両親から体質が遺伝して、かなり飲めるらしい。


 逆にクリスお義兄様はお酒に弱いそう。飲んでも顔が青くなるだけで、突然倒れてしまうとか。そのため、外交や晩餐でもグラスを持つけれど、ほとんど口をつけない。


「だから外交では、私が飲むのよ」


 体質だから仕方ないのよ、とディーお義姉様は困ったような顔をした。


「マリーは飲めるけれど、あまり強くないみたいね。頬が赤くなったら、飲むのをやめた方がいいわ」


 クリスお義兄様の時と違い、顔が真っ赤だったと言われた。成人前でまだ飲んだことはないけれど、兄弟なのでシリル様も飲めない可能性が高いとか。


「気をつけます」


「男性も女性も、地位が高いと狙われちゃうから。ベッドに連れ込まれたら、言い訳ができないわ」


 ベッドどころか、異性と二人きりで部屋にいるだけで問題です。恐ろしい方法で、交渉してくる人もいる。しっかり肝に銘じておかないと。


「それとは別なのだけれど……」


「この話は僕からするね」


 黙っていたシリル様が口を挟む。今回私を運んでくれたスタンフォード辺境伯が、隠居して王都に移り住むんですって。そこで私の護衛を務めたいと申し出があった……え?


「スタンフォード辺境伯、から申し出があったのですか?」


 様をつけてはいけないので、一瞬言い淀んでしまった。驚く私に、追加情報が届く。


「話を聞いたクロウリー辺境伯も、嫡子に跡を譲って護衛をしたいと言い出した。あの二人は何を張り合っているんだ」


 むっとした口調で、唇を尖らせるシリル様はご機嫌斜めだ。でも私は嬉しく感じた。他国からきた姫を守るなんて、気持ちと器の大きな方々なのね。そう感動していたら、ディーお義姉様は微妙な表情で目を逸らした。


「なんとなく理解したわ。マリーがこんな感じだから、心配で放っておけないのよ。孫を心配する祖父の心境じゃないかしら」


「……祖父役ならいい」


 ディーお義姉様の呟きに、シリル様の機嫌が少し上向く。


 ここへラーラがお茶を運び、話は一時中断となった。


「それで、お二人はいつから?」


「明日だよ」


「明日ですわ」


 声を揃えた二人に、申し訳ないけれど笑ってしまった。息がぴったりだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る