37.独占欲がこんなに嬉しいなんて

 冷たいタオルを首や額に当てるシリル様の手が心地よくて、ベッドの上で大人しく横になった。言葉で求める前に、シリル様は状況を説明し始める。


「マリー、今の状態は二日酔いだ。医師の診断も得たから間違いない。水分を多めにとって、休養するのが一番だよ。食事は食べられそうなら、軽いものを用意させる」


 状況はわかったので、頷く。小さな動きでも気持ち悪いわ。


「動くと眩暈がして気持ち悪いと聞いたから、手で合図をくれ。はいなら握る、いいえなら緩める。できるかい?」


 きゅっと握る。シリル様は昨夜のことも教えてくれた。


 夜会でシリル様に出されたのは、桃のジュース。私が受け取ったのは、白ワインを桃のジュースで割っていた。成人前のシリル様はともかく、成人済みだから平気だと思ったみたい。私も飲めないと思わなくて、普通に受け取って警戒しなかった。


 ソールズベリー王国は、ヴァイセンブルク王国より寒い。特に向こう側の海岸に近い地域は、とても冷えるそうなの。港が氷で埋め尽くされると聞いても、想像できない。そのせいか、体を温める強い酒が好まれるそうよ。


 桃で割った白ワインは、さほど強くなかった。次に水だと思って飲んだお酒が、海側の寒い地方で好まれるお酒だったの。透明だから間違えたわ。一気に飲んだことで、急に回ったのね。


 ラーラが水を持ってきたけれど、もう酔いが回って呂律も怪しい。倒れかけたところで騎士が助けようと手を伸ばすも、王弟妃の私が拒む仕草を見せたため、思考停止。スタンフォード辺境伯が駆け寄って、私を運んだみたい。


 その頃には意識がなくて、慌てて医師を手配したと付け加えられた。申し訳ないわ。桃の甘さで喉が渇いて、確認するより前に飲み干してしまったの。


「ごめんなさい、シリル様」


「まったくだよ。僕がなぜ怒っているか、わかるかい?」


「……みっともない姿を晒したから?」


「違う、可愛かったから許す……じゃなくて、僕が抱き上げられなかったことだ」


 さすがに無理じゃないかしら。成人女性にプラスして骨組みやらドレスやら重装備よ。騎士でもなければ無理だわ。スタンフォード辺境伯は鍛えているから、大丈夫だったんだと思うし。


 細いシリル様の腕を見て、絶対に無理と確信した。引きずって移動も厳しいわ。


「僕は明日から本格的に鍛えることにしたからね。次は絶対に誰にも君を触らせない」


 驚いて目を見開き、すぐに口元が緩んだ。なんて嬉しがらせを仰る人なの。私を守る王子様を夢見るほど子供ではないのに、目の前で宣言するシリル様は立派な王子様よ。正確には王弟で、すでに夫だけれど……また惚れ直しちゃう。

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