第16話 パーティー構成会議


 魔力が抜けて疲れ切ったムルヒナとシャインスライムを牧場に送り届けた後、僕たちはメルカが働いているあの食堂に移動して、これからの作戦を話すことにした。


「ちょっと困っちゃったね。この子を隠さなきゃいけないとなると」


 床に置いたケージを見下ろしてノエルが言う。

 ケージの中には、配合によって誕生したばかりのボナウル――ミライがいる。

 ケージは布で覆われていて、中が見えないようになっていた。


「何が困るの?」


 僕は水で満たした木桶をゼルの前に置きながら聞き返した。


「だってそうじゃない? これでシオンはEランクのモンスターをテイムできるようになったけど、テイマーズギルドの方はそうもいかないよ」

「もしかして、昇級条件の話ですか?」


 ピラフをスプーンにすくいながらメルカが言った。


「確かに昇級選定大会への出場条件は、そのランクのモンスターを1匹でも配合で生み出していることですから……。野生のEランクモンスターをテイムして行っても、出場資格は得られませんね」

「そういうことか」


 テイマーズギルドでテイマーとしてのランクを上げるには、昇級選定大会という大会で実力を示す必要がある。

 それに出場するには、今メルカが言った通りの条件を達成しなければならないのだ。


「せっかくEランクモンスターを配合できても、それを誰にも見せられないんじゃ……ってことか」

「そうだよ。今シオンがやってるのって、レベル上げの合間にできる収集クエストくらいでしょ? これから先、それだけじゃお金厳しいと思うよ?」


 うーむ、と僕は具なしのピラフを口に運びながら眉間にしわを寄せる。

 ジャスミンさんの反応を見る感じ、普通のFランクテイマーに比べたら稼いでる方だとは思うんだけど……それでも日雇い労働と大して変わらない。

 ゆくゆくはノエルに牧場代を払ったり、メルカに配合代を払ったりすることを考えたら、お金が全然足りない。


「それに、住むところも……いつまでも牧場にお世話になってるわけにはいかないし」

「Eランクになったら、討伐系のクエストも受けられるようになる――そうしたらレベル上げの効率も上がるし、モンスターとの出会いも増えるよ」

「普通に狩りをするのと何が違うの?」

「討伐系のクエストが出されるのは、想定外の大量発生をしたモンスターとか、本来の住処とは違うところに現れて生態系を壊しているモンスターとかだから、普通は出会えないモンスターとたくさん出会えるってこと」


「あと、育成ついでにお金も稼げて一石二鳥だし」とノエルは言う。


「特に珍しいモンスターの捕獲クエストなんかはシオンにぴったりだよ。縁結びの加護で簡単に見つかるんだもん」

「想像通り簡単に頼れるものでもないけどね。縁がなかったらそれまでなんだから」


 僕の加護は、あくまで縁があるもの同士を結びつける力。

 そのモンスターとの縁が僕になかったら、ラバンだって特に反応はしないだろう。

 それでも、普通に探すよりはずっと効率がいいだろうけど。


「これからのことを考えたら、ギルドランクを上げるのは絶対条件。Aランクとかになったら、お貴族様と同じような暮らしができるって言うよ?」

「あんまり想像つかないな……。豪華なお屋敷とかに興味ないし」

「ギルドランクを上げる理由は……金銭的な面以外にも、あります」


 遠慮がちな様子でメルカが言った。


「BランクやAランクの上級テイマーになって貴族のパトロンを得たり、叙勲して一代貴族になったりすれば、その貴族が所有しているモンスターの配合レシピを知るチャンスができます……。テイマーとして上を目指すなら、決して避けては通れない道です……」

「僕の加護があっても?」

「そうです……Cランク以上のモンスターの配合レシピは、ほとんどが貴族によって独占されています。それらすべてをシオンさんだけで調べきるのは、不可能だと思います……」


 確かにその通りだ。

 ゼルを最強のモンスターに育て上げるまでの過程で、それらの知識が必要になるのは間違いなさそうだ。


「じゃあ、ひとまずの目標は、この子以外のEランクモンスターを配合で生み出すことかな」


 そう言って、僕は布をかぶせたケージに手を添えた。


「でも今、テイムできてる子たちにはみんな出てないんだよね、推奨配合相手が」

「でしたら、おすすめのモンスターがいます。シオンさんは、ゼルさんを中心にパーティーを組むんですよね?」

「もちろんだよ」


 ガブガブと木桶の水を飲んでいるゼルの角の間を、軽く撫でる。


「Eランクに〈竜神の祝福〉という種族スキルを持っているモンスターがいます。このスキルは、パーティー全員をドレイク種で固めていると、パーティー全体を強化してくれるんです」

「種別強化スキルだね。確かに、最初に目指すのはそこか」

「はい。種別強化スキルを持つモンスターをパーティーに入れて、それに対応した種別で3体すべてを固めてしまうのが、パーティー構成の王道です」

「そのモンスターは何て言うの?」

「イグニスと言います」

「イグニス……」

「尻尾に炎を灯したトカゲ型のモンスターです。火山地帯に生息しているので、この辺りでは捕まえられません」

「そもそも配合で生み出さないと、昇級大会の条件は達成できないしね」

「はい」


 ノエルの言葉にメルカは頷いた。


「この辺りで捕まえられるモンスターだけで、その子を配合できるっていうこと?」

「できます。少し手間はかかりますが……〈生育の風〉があれば問題ないと思います」


 メルカはメモ帳を取り出すと、そのページを一枚破ってテーブルの上に置いた。

 そして白紙のメモに、ペンでサラサラと絵を描いていく。


「イグニスの配合レシピは、スカームとヒートパピーです。ヒートパピーは炎属性の子犬型モンスターで、フレアスライムとドグマル、もしくはガルムルで配合できます」


 メモには、首の周りの毛がふさふさとした可愛らしい子犬が描かれた。うまい。


「フレアスライムは、西にある通称スライムの森で見つかると思います。水辺から離れた岩場を探してみてください」

「うん、それならどうにかなりそうだね」

「スカームは洞窟や砂漠などに住むヘビ型のモンスターです。これは東の丘陵地帯の奥にある荒野に生息していますが、そこでテイムするのはおすすめしません」


 メモが裏返され、そこににょろにょろしたヘビの絵が描かれる。


「って言うと?」

「テルガルムをはじめとしたDランクのモンスターがうようよしているからです。今のシオンさんだと、あっという間にやられてしまいます」


 テルガルム……。

 僕は一瞬だけ見た、あの未来の光景を思い出した。

 鋭い爪に、抵抗する間もなく引き裂かれる、あの死の未来……。

 あんなやつがうようよしているところにのこのこ入っていくのは、確かに現状では自殺行為だ。


「なので、配合で生み出すしかありません。スカームの配合レシピは、Fランクのドレイク種モンスターと、Fランクの土属性モンスターです。この辺りの初心者エリアですと、ドレイク種はチドラしかいないので、チドラと、南の渓谷にいるコロックやドロドールを使うといいと思います」

「どっちも、もうテイムしてあるけど……」


 うーん、と僕は考える。


「最終的に、パーティー3体全員をドレイク種にしないといけないんだよね。だったらゼルとそのイグニスに加えて、もう1匹必要ってことになる」

「そうだね」


 ノエルが頷いた。


「イグニスを生み出すのにチドラを使うってことは、3匹目のパーティーメンバーのためにも、もう1匹チドラをテイムしておかないと……」

「そうですね……。どんなドレイク種をパーティーに入れるにしても、現時点ではチドラから始めるしかないですから」

「うん。でもまたレベル10まで育てるのか……」

「そこがこのプランの本来難しいところで……ドレイク種は成長が遅いので、イグニスを生み出すまでにすごく時間がかかってしまうんです。イグニス自体も素早さはあるものの耐久力がなく、配合したてだとすぐにやられて強化が切れてしまいます。なので、正直Fランクのテイマーにはあまり人気がありません」

「でもシオンには、この子がいるから大丈夫! ってことだよね?」


 布をかぶせたケージを見下ろして、元気づけるようにノエルが言った。

 メルカは深く頷く。


「そうです……。ドレイク種は育てるのに手間が必要な代わりに、きちんと育てれば身体も魔力もトップクラスの強さになります。Eランクの昇級大会くらい、きっと余裕です」


 なるほど。僕のアドバンテージをしっかり活かすってことだ。


「よし! じゃあ早速今日、新しいチドラを仲間にしてくるよ! それとフレアスライムをテイムして、他の必要なモンスターのレベルも上げる! ……あとは3匹目をどうするか、かな。できれば回復魔法が得意な子がいいなと思ってるんだけど」

「だったら――」


 それから僕たちは2時間も食堂で話し込んで、無愛想な女将さんに追い出された。






 それから1ヶ月ほど経った。


「昇級選定大会、Eランクの参加申請ですか?」

「はい」


 意外そうな顔をするジャスミンさんに、僕は頷いて見せた。

 すると、ジャスミンさんは言いにくそうな顔をしながら、


「昇級選定大会に参加するには、Eランクモンスターを配合で生み出す必要があります。恐縮ですが、まだテイマーとなって1ヶ月ほどのシオンさんでは……」

「それだったら大丈夫です。この子がいますから」


 そう言って、僕はカウンターの下に隠れていたその子を抱き上げる。


 大きめの犬ほどのサイズがあるその子は、尻尾に火を灯したトカゲのような姿をしていた。

 体表の鱗はオレンジ色で、お腹の方はクリーム色をしている。

 眠ったようにまぶたを閉じているけど、これがこの子のデフォルトの表情だった。


 その姿を見るなり、ジャスミンさんはぽかんと口を開けた。


「イグニスじゃないですか! もうEランクのモンスターを!? 」

「まあ、ちょっと運が良かったみたいで」


 そう言って、僕は曖昧に笑って濁しておく。


 実際、配合を3回も繰り返すのはかなり骨の折れることだった。

 もっと高レベルなモンスターのいる狩場に出入りできるようになれたら楽なんだろうけど、今の僕にできるのは、せいぜい南の渓谷地帯でドロドールを狩り続けることくらいである。

 ここまでたどり着くのに、あの泥人形を300匹は倒したんじゃないだろうか。


 ……まあ、イグニスだけだったらもうちょっと楽だったんだろうけどね……。


「それならば問題ありません。次の昇級選定大会にエントリーしておきます」

「ありがとうございます」

「次のEランク大会は2日後です。大変だとは思いますが、できるだけレベルを上げておくことをおすすめします」


 きっと、イグニスの配合ができたばっかりだと思ってるんだろうな。

 実はもう、この子のレベルは13になってるんだけど。

 僕がつけた名前はイース――今の僕のパーティーの、立派な柱だ。


 ジャスミンさんに軽く頭を下げて、僕はテイマーズギルドを出る。

 外で待っていたノエルが僕に気付いて、弾んだ足取りで駆け寄ってきた。


「無事にエントリーできた?」

「できたよ。次は2日後だって」

「よーし! じゃあそれまで特訓だ!」


 僕よりも気合が入っているノエルに微笑んで、それからその後ろにいる子の肩を軽く叩く。


「君もよろしく頼むよ」


 そう言うと、その子は答えるように、ぐるる……と喉を鳴らした。


 リバグリーンという名前である。


 後ろ足が発達した、緑色の鱗を持つドレイク種モンスター。

 直立するとメルカと同じくらいの背丈になり、小枝のような角がちょうど目の前に来るので、ちょっと危ないなと思うことがある。

 特徴的なのは、背中から伸びている薬草が連なったような翼である。

 野生のリバグリーンは、その翼を仲間に食べさせることで傷を癒すそうだ。


 この子が、僕の3匹目のパーティーメンバー。

僕がつけた名前はリグル。

 イースと同じくらいの手間暇をかけて育て上げた、Eランクモンスターだ。


 この子と、イグニスのイース、そしてゼルの3匹で――

 僕たちは、Eランク昇級選定大会に挑む。

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