第五章 過去改変の産物

第33話

 牢を破壊し、蹲るノルンの手枷を外してやる。

 恐かったろうに……何よりも自分が見ている前で、姉妹のように育った親友が酷い目に遭うところを見続けていたのは、どれ程悔しかっただろうか。


「……最後にはハッピーエンドで終わるんです。諦めなければ、絶対に救いはあるんです。かつて貴方……ある人に言われた言葉なんです」


「ああ、そうだな。ノルン、それにクレア、お前達には辛い思いをさせた。本当にすまない」


「いいえ、私は初めて……助け出されるという貴重な経験をさせて頂きましたわ」

「……そうか。では、残党を狩りつつ帰還する。クレア、お前は服を探すと良い」


 目の毒なので。クソ、お前らこんな美女を寄ってたかってひん剥いてどうしようとしていたのか事細かく説明してみろってんだ。もう殺したが。




 残党を狩りながら、最初に感じた弱い気配の殆どが、動かず一つの部屋に固まっていることに気が付く。

 なんだ……戦力外のような微弱な気配しか感じないが、この騒ぎでも動かない……?

 眠っているのか?


「……クレア、ノルン。他にも捕えられている人間でもいるのか?」

「いえ、ですが数名、下働きのように使われている子供を見かけました」

「子供か」


 気配の元をたどると、まるで大きな猛獣でも閉じ込めるような檻に、子供がギュウギュウに押し込められていた。


 だが、そこに恐怖や怒り、それどころか救いを求めるような眼差しすらなく、ただ伽藍洞の瞳でこちらを見上げていた。


「……なんだ、この子供達は」

「恐らく、誘拐されてきた子供達だと思いますが……」


 檻の扉を破壊して開けると、子供達が静かに外へ出て、俺の前にずらりと整列した。

 その数一二人、そして無言のままこちらを見つめている。


「お前達はどこから連れ去られて来た。言ってみろ」

「……」


 無言。まるで人形のようにただ立っているだけの子供達。

 見れば、普通の人間に獣人、それに亜人、エルフだろうか? 様々な種族がいる。


 それに年齢もバラバラだ。本当に小さい五歳くらいの子供から、一五くらいの娘まで、粗末なズタ袋に穴だけあけたような服を着せられている。


 しかし何も答えないな……。

 だがその時、年長と思われる娘が黙って歩き出す。

 それについていくように他の子供達も歩いていく。


「なんだ……あれは」

「これは……一種の洗脳なのでしょうか」

「後を追いましょう。あの子達を保護しなければ」


 子供達を追いかけていくと、その子達はまるで機械のように、水桶を持って近くの川に行き、そして水を汲んで遺跡の中にある台所のような、竈が作られた場所に移動した。


 そのままお湯を沸かして自分達の身体を洗い、そして残りの水も沸かし、今度は沸かしたお湯に近くにあった葉や草、植物の根を放り込み、煮込んで食べていた。


「あ、懐かしい。私達も食べたことあるよね。美味しくないけどお腹が膨らむから、子供の頃こっそり食べてた」


「……あまり思い出したくはないですわね……しかしこれは……」


「どうやら、決まった時間、もしくは檻を開けられると自動的にこの行動を取るように教育……いや、洗脳されているようだな。この子達を全員、西の砦に移送するぞ、いいな」


 なんだよこれ……異常だぞ、ただの野盗の頭目じゃなかったのか……?

 それとも……人身売買か? 従順な奴隷を仕立て上げて好事家に売る……か?




 幸いと言って良いのか悪いのか、子供達はこちらの言うことに従順で、誰一人はぐれること無く騎士ギルドが設営したテントに戻ることが出来た。


 まずはここで休ませ、しっかりと食事を摂らせるのが良いよな。

 お世辞にも栄養状態が良いとは言えない状況だ。


「クレア、お前は砦に向かい、状況報告を頼めるか? 出来れば移送用の馬車や医者、治癒術師を一緒に連れてきて欲しい」


「了解致しましたわ。では、早速向かいます」

「ノルン、お前は子供達の監視を頼む」


 二人に指示を飛ばし、俺も今出来ることはないかと、医療道具を手に診察を開始する。


 子供達の身体は正直、虐待とも呼べるような痣だらけで、こんな道具では満足な治療も出来そうにないが……目立つものだけならなんとかなりそうだ。


 そうして子供達の切り傷やらなにやらを応急処置していると、ノルンが真剣な顔をして、一人の子供、この中では一番の年長と思われる子供を連れてきた。


「……団長、この子は早く治療した方が良いかもしれません。この子……獣人です」


「……ただの人間だと思ったが、耳が切り落とされているのか」


「はい。恐らくですが、尾の方も……」


 獣人は、種族によって異なるが、頭頂部に耳がある種族や、人間と同じ位置から種族ごとの耳が生えている者がいる。


 この子は後者のようだが……見れば、生々しい切り口があり、今も血が滲んでいた。

 これはどういうことだ? 売るのなら、種族の特徴を消すようなことをしないはずだが……分からない。


「分かった、先に消毒と包帯をする」


 傷口を消毒してやると、やはりしみるのか、小さくうめき声をあげるが、やはり言葉は失われているようだった。魔法か薬で精神を抑制されている……?


 もしかして……過去にアリスが洗脳目的で誘拐された時のように、何か目的が?

 だが……幾ら強くてもあの連中が魔族と繋がっているようには思えないし、そういう報告もされていない。精々各地の盗賊やあらくれ共を束ねている程度だった。


 治療の為、俺はガントレットを外していたのだが、治療を受けている耳を切られた子が、こちらの手を触れ、そして他の鎧の部分を触り、不思議そうな顔をしていた。


「これは鎧だ。私はこれを脱がない」

「…………」


 もしや……何も知らない? 洗脳うんぬんではなく、知識や記憶まで失われている?

 そうして、この不思議な子供達を保護した俺達は、応援がやってくるまで、奇妙な集団行動をすることになった。

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