第32話

「現場での指揮、だと?」

「はい。今回斥候の調査により判明した西の大森林にあるという廃村、および遺跡の密集地は、遠隔的な事前の作戦だけでは対応しきれないと思うのです。ですので、今回は私も巡視隊と共に現場に赴き、その場で指揮を行うのが良いと考えます」


 少し前に二人に知らせた『近々新しい任務を言い渡すかもしれない』という件について進展があった。


 やはり、近隣の野盗や主都で活動するゴロツキを束ねる組織が、西の大森林を根城にしている可能性が高いとして、騎士ギルドの主戦力を投入した掃討作戦を行うことになった。


 そこで、俺の元で秘書のような業務を担っていたノルンが、そう提案してきたのだ。


「……いつかは実戦の場にお前も出すつもりでいたが、今回の作戦で、か」


「はい。これは団長が長年追っていた事件であるということは重々承知しています。だからこそ……私はここで、貴方の弟子として、自らの力を示したい……たぶん、これは私の意地なのだと思います。クレアちゃん……第一巡視隊長クレアへの対抗心です」


「そう自覚してなお、か。いいだろう、今回の作戦への同道、許可する。私に代わり部隊を指揮、掃討作戦を成功させてみろ」


「感謝します! では、私も身支度を整え、掃討作戦隊に加わります」


 退室するノルンを見送りながら思う。

 ……これが、ある意味では卒業試験になるのかもしれない、と。


 そうだな、そろそろ俺も……グラムもこの主都から消える頃合いなのかもしれないな。

 今ならもう、クレアとノルンの二人は、十分に騎士ギルドを引っ張っていける。


 二人とも幼い頃よりギルドで働き、その実力は隊員達も十分に理解し、信頼している。

 ならば……ここでそろそろ騎士ギルドを二人に引き継いでも良いのかもしれないな。


 何よりも俺が揺らぎそうになる。これでもあれです、俺まだ肉体は二五才なんですよ、幾つに思われているのかは分からないが、あんなに可愛い部下と美人の部下に慕われると、イヤでも意識しますよ! ここは我が精神力の限界も近いということで、二人にそろそろギルドの指揮を任せて……。


 だが……それが間違いだったと、今回の相手が『本編でリヴァをデスエンドに至らせる存在かもしれない』ということを、俺は完全に失念していたのだった――








「報告は、以上か」

「……はい。ノルン総務長は現在行方が分からず、掃討作戦に参加した人間はクレア様の手により離脱することが出来ました。現在、西の砦に搬送され、治療を受けています」


「作戦は失敗、ということなのだな?」

「……はい。ですが、ノルン総務長や各巡視隊の隊長に落ち度は……なかったと皆は言っております。ただ……向こうの戦力が、桁外れだった、と……」


「分かった。この場は他の者に任せる。今回は私が出る。いや……出るべきだった」


「そんな……しかし団長は英断を下したと我々は思っています!」


「それでも、だ。私は急ぐ。お前は救護隊で手の空いている者を率いて西の砦へ向かえ。私は、私の部下達の後始末を……仇を討たせてもらう」


 失敗した。完全に向こうの戦力を見誤っていた。そうだ……何故気が付かなかった。

 向こうの規模が問題なんじゃない、問題なのは……俺のような単独で部隊を蹂躙出来る化け物の有無だろうが……。部下の成長の為なんて考え……捨てるべきだったんだ。


 俺は馬を駆り、自身の体力を温存させながら、激戦を予期させる作戦地点へと向かうのだった――






 西の街道を通り、果てにある西の砦、ヘイムダース砦に向かう道から逸れ、旧道へと入ると、今は誰も住んでいない廃村が残る、ほぼ森の一部となってしまっている場所がある。


 その手前で、俺は騎士ギルドが設営したと思われる作戦本部のテントへと向かう。

 残っているのは……誰もいない。皆、負傷者を連れて砦まで撤退したのだろう。

 ……荒された形跡からして、掃討作戦を潰す為に指揮官であるノルンを連れ去った、か。


「どうやら……クレア並に強くても敵わない化け物が相手側にいたようだな……」


 廃村を駆け抜け、遺跡群を通り抜け、敵のアジトを探す。

 激戦を繰り広げていたのだろう、その痕跡が随所に刻まれており、時折血痕や焦げ跡が見て取れる。


 それを見ると、どうしても思い出すのは、かつてアリスが誘拐され……そして途中で殺されていた従者の二人。


 まさか……クレアとノルン、あの二人まで……。

 その最悪の想像をかき消すようにかぶりを振り、森の奥へと駆け、一際大きな人の手が入っていると思われる遺跡に辿り着いたのであった。




「……なるほど、いるな」


 別に、一〇年間ただこの力に物を言わせて暴れまわっていた訳じゃない。

 強靭な土台があるのだ、出来る訓練は全てやったし、やれることは全てした。

 挑めるものには全て挑み、学べる技は全て学んだ。だから……分かる。


「手練れ三、雑魚一七、そして……化け物一と……虫の息二人、か」


 気配と魔力を探り、内部に潜むおおよその戦力を外から分析する。

 この虫の息二人はクレアとノルンだ。

 俺は潜入やらを無視し、最高速度で二人の場所へと向かうことを選ぶ。


 人質にされる? 始末される? その何十倍も早く動けば問題ないだろうが。




 壁を全て打ち壊し、文字通り最短距離で駆け抜ける。

 檻に閉じ込められたノルンと、今まさに縄で吊るされようとしているクレアが見えた。

 驚き一瞬固まる賊と、こちらを見てもピクリとも動かない人物。そうか、じゃあ――


「そのまま死ね」

「っ!?」


 クレアを倒せた自分は、俺にも十分に通用すると思っていたか? お前がこの集団のボス、化け物じみた強さを誇っていたんだろ?

 なんだ? お前程度が俺と対等に戦えるとでも思ったか? 


 口を開く前に、頭を強く殴り、まるでダルマ落としの胴体のように、頭だけが吹き飛び、壁に叩きつけられ潰れて弾ける。


 そのまま、クレアを縛るロープを持ったまま固まっている男を消し飛ばし、吊るされかけていたクレアが落下し、それをキャッチする。


「……戦おうとするな、お前は私のマントで身体を隠していろ、クレア」


 蹂躙する。何してんだお前ら、俺の部下に何をしようとしていた。

 部屋から逃げようとしていた人間全員に、近くの酒瓶やらを投擲し、それらが等しく連中の身体をズタズタに切り裂く。まさにショットガンだ。


「クレア、大丈夫か」

「……危うくお嫁に行けない身体にされるところでしたわ」

「……そうか」


 お前は……こんな時でも強いんだな。自分がどんな格好をさせられていたとしても、変わらず気高く、そして近くにあった剣を手に取ろうとするくらいなのだから。


「ノルン、お前も無事か」


 そして、牢の中で蹲り、顔だけをこちらに向けていたノルンが口を開く。


「……無事です、凄くお腹が空いていますけど……私はでも、諦めていませんでした」


 そう言いながら、彼女は懐から小さな針金を取り出して見せた。

 脱獄するつもりだったのか……だが……。


「二人とも、よく戦った。今回は私の判断ミスだ。だが……お前達のお陰で、他の団員に死者はいなかった。……本当に、本当にお前達が無事で……幸いだ」


 感情が発露しそうになるのをこらえ、俺はこの気高き乙女二人を労うのだった――

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