第6話
「――で、その名残でこの里でも一昨年からその花の椅子を飾るようになったんだ。そこが精霊の席で、収穫祭の時に遊びに来てそこに座るって伝説があるらしい」
「へー、結構変わって来てるんだねこの収穫祭も」
ケイアが外から来たパーティーを案内していた頃、リヴァとシリューは里の飾りを見て回っていた。
里の次期長として、祭の歴史や変化しつつある里についてリヴァに得意げに語るシリューであったが、あくまで知識の一端として知りたがっているリヴァに対して、シリューは『自分の話をリヴァが聞きたがっている』と受け取っていたようだった。
里長の息子という生まれの彼は、自分が里一番の美人であるリヴァを娶るのは当然だと思っている節があった。
別段、今の里長がそういう独善的なふるまいをするような人物ではないのだが、そういった環境で育ったが故に、彼は自分が特別な人間だと思っているようだ。
だが、彼には一人だけ気にくわない人物、そして心の中で『もしかしたら敵わないかもしれない男』と警戒している相手がいた。
「あ、ケイアだ! あれ誰の馬車だろう? 主都の知り合いかなぁ」
「さぁな。別に放っておけばいいだろう」
「一応挨拶してくる」
「待てよ!」
そう。彼はケイアにどこか対抗意識のような、敵愾心にも似た気持ちを抱いていた。
別段、幼い頃はそうでもなかったが、彼に物心がついてきた頃には、自分の父である里長が『時折ふらっと戻って来るだけの男を目にかけている』と感じるようになっていた。
それどころか、自分が一五になる頃には、よく自分との引き合いに出されるケイアに対して、面白くないと感じる様になっていたのだった。
やれ『神童だ』『主都で成功している』『里の経済がよく回る』等と褒められているケイアに対し、どこか劣等感を感じていたシリューであったが、その本人であるケイアが三年前に里に戻って来たことで、その危機感や苛立ちはピークになりつつあった。
だから、今年一八になったリヴァに対し『盗られる前に早いところ俺と婚約してしまえばいい』と考え、今日彼女を誘ったのであった。
何も知らずにリヴァを送り出したケイアに、内心『馬鹿なヤツだ』という思いを抱いていた訳だが……彼は考えもしなかったのだろう。
自分の求婚が、彼女に断られるかもしれないという可能性を。
「ケイアー、その人達って主都の知り合いなのー?」
「リヴァじゃないか。この人達は主都からこの辺りの遺跡を調べに来たパーティーだよ。傭兵に魔術師、冒険者に騎士、それに教団ギルドから来た混成隊だってさ」
「わ、すごい! 五大ギルド勢ぞろいだね!」
リヴァが馬車に駆け寄ると、ケイアがパーティーについてそう説明する。
主都における『戦いに関係するギルド』の代表である五つ。
それぞれがそこ出身だという話は、外の世界に憧れを持っているリヴァにはとても眩しく映っているようだった。
「今、宿まで案内しているところだよ。そっちはシリュー君と見て回っているんだね」
「うん。もうそろそろ隣村の村長さんが来るから入り口で待つんだってさ」
「ん、そうか。失礼のないようにね、じゃあまた後で」
「うん、またね」
そうしてケイアが去っていく姿に、シリューはほっと胸を撫でおろす。
邪魔が入るのではと思ったが、主都からの客の応対をしている姿に一安心する。
内心『そのままその連中と一緒に主都に戻ってしまえばいいのに』と考えながら。
「シリュー、早く村の入り口に行くよ」
「あ、ああ! なぁリヴァ、今夜……広場の踊り、来るか?」
「私は踊らないから行くかわからないけど……」
「そ、そうか。じゃあ……木剣の大会はどうだ? 俺が司会を任されたんだ」
「あ、そっちは行きたい!」
「よ、よし! じゃあまた後でな!」
そうして……いよいよ求婚の段取りを整えたシリューは里の入り口で村長を待つ。
脳裏に、周囲の人間に祝福される自分達と、どこか悔しそうな表情を浮かべるケイアを想像しながら……。
今日の収穫祭で、このパーティーは遺跡の場所を聞き出し、明日の朝には出発する。
そして好奇心にかられたリヴァが彼等を追いかけ、山奥にある遺跡へ向かい、彼等のピンチを救うというのが今後の流れだった。
だが、そこに至る前の最初の分岐が、今夜現れるはずだ。
……シリュー君をこっぴどく振るか、彼と共に里で生きる道を選ぶか。
正直、後者はどう考えても『そうはならんやろ』って選択肢ではあるのだが……。
「ねぇケイアさん? どうしたの、上の空じゃない」
「んー、祭りの空気にあてられたんですかね。それより、貴女は他の人達のように遺跡の場所の聞き込みとかしなくていいんですか?」
「しているわよ? 貴方に。お祭の見物が終わったら教えて頂戴な」
「なるほど」
先程のパーティーのリーダー的存在であるジェシカ嬢の案内、もとい逆ナンに付き合っている俺は、彼女の話を聞きながら、そんな今夜訪れるであろう運命の選択に思いを馳せていた。
「遺跡といっても、里の裏山には古い遺跡が幾つもあるからね。ただ調査の目的が宝探しなら――ほら、あっち。裏山に続く道じゃなくて、あっちの畑の奥から山に入っていくと、大きな湖に出るんだ。その畔に水没した遺跡があるから、あそこは他の遺跡に比べて規模も大きいし、人の手もそこまで入っていない。ただ、あそこだけはこの辺りじゃ珍しいくらい魔物が巣くっているから、あまりこの辺りの人間は近づかないようにしているんだ」
ゲーム時代のマップを知っている俺は、正解の遺跡がどこなのか当然知っている。
そして……そこに行けば、彼女達が危険な目に遭うことも当然知っている。
多少胸の痛みはあるが、どの道俺が教えなくても辿り着くのだし、先に教えてしまう。
が、その場所を伝えると、なんだかジェシカ嬢がつまらなそうな表情でぼやきだした。
「いきなり答えを言ってしまうのね? 祭りの後に『たっぷり満足させて』その後対価として教えて貰おうとしていたのよ? そんなに私とのデートが嫌なのかしら?」
「いや、これで何も考えずに心行くまで祭を見て回れる、そうだろう?」
「……ふふ、そんな見た目でも伊達に歳はとっていないのね。余裕のある男の人って素敵よ。じゃあ……中央の広場に行ってみましょう? なんだか催しもするみたいだし」
「そうこなくっちゃね。じゃあ行こうか、ジェシカさん」
うむ……平静を保っている風には見えるらしい。あまりおじさんを見くびらないで欲しい、今も心臓バックバクですわ。なんでローブごしでボディライン丸わかりなんですか、それ脱がしたらどんな凶器が隠されているんですか。片田舎の男連中にその凶器はちょっと刺激が強いんじゃありませんかね!
「しかしあれだね、『たっぷり満足』だとか、異性をあまり誘惑するようなことを言うんじゃありません。まったく、パーティーメンバーに呆れられるぞ?」
「いいのよ、今回臨時に作ったパーティーでしかないんだから。魔術師ギルドと教団ギルドに所属してる二人の研究者がね、遺跡と旧時代のお宝の研究がしたいからって、全ギルドに募集をかけていたのよ。それで私達が名乗り出たってわけなの」
「なるほどね。察するにあの弓使いのお姉さんは騎士ギルド、もう一人の子は冒険者ギルド、それで君は傭兵ギルドって訳だ」
「そういうこと。あっちの集まりで早速お酒飲んでる男が魔術師ギルドで、向こうで飾りつけの手伝いをしているのが教団ギルド所属ね」
「なるほどなぁ。さてと……軽く何か食べながら、その辺りのベンチに座ろうか」
「いいわよ。じゃあ……あれ! あのパンのような食べものがいいわ」
指定されたのは、なんだか昔懐かしの揚げパンのような料理だった。
この世界、結構食文化が進んでいるので、普通に蒸す、揚げる、といった調理法も浸透している。それどころか主都じゃしょっちゅう俺も石窯焼きのピザを食べていたっけ。
ちなみに好物はジェノベーゼでございます。バジル、この辺りには自生してないんだよなぁ。
「お待たせ。ついでに飲み物もはい」
「ありがと。良い香りね、なにかしら?」
「山ぶどうのジュースだね。ワインにする前に子供でも飲めるように改良したものだよ」
「へぇ、お酒で酔わそうとしないあたり、紳士なのね? ますます気に入っちゃった」
そういいながら、隣に座った俺の腕を抱き寄せる。やめなさい、人が見ている!
「にしても中央のスペースってなにかしら? あそこで踊るの?」
「踊りの前にちょっとした見世物があるね。腕自慢達が木剣で試合をするんだとさ。各村や里の自警団、腕自慢が集まっているんだ」
「へぇ……私も出ちゃおうかしら」
「現役の傭兵が出るのは流石に大人げないでしょう」
「ふふ、それもそうね。なんだか平和ね……この辺りって」
「……中央にはかれこれ三年は近づいていないけど、不穏な感じなのかい?」
「……そうね。傭兵ギルドに舞い込む依頼も増えてきているし、南の果ての大陸にいる魔族も不穏な動きを見せてきているみたい。ただ、それだけじゃないのよね。人同士も水面下で動き始めている気がする」
知っていたことだが、こうして戦の空気を知る人間に言われると、しみじみと実感する。
戦乱の前触れ、嵐の前の静けさ。人同士も、徐々に争いの火種を用意している事実を。
「あ、そろそろ始まるみたいよ。みんな自警団って言ってもなんだか優しそうな人ばかりね。実戦経験なんてほとんどないんじゃないかしら」
「そりゃ少数派だね実際。っと、開催の挨拶はシリュー君か」
広場の中央に現れたシリュー君が、里の貴重なマジックアイテム、拡声器的な道具で周囲に呼びかけていた。
あれ、割と重宝するんだよなぁ……よく里長が周囲の人間に今日のイベント『農薬を撒くから畑に近づくなー』やら『キノコ狩りで迷子にならないようにしましょう』
『明日は山から木こりのみんなが戻って来るぞー』とか、お知らせの時によく使うものだ。
実に平和である。早い話が町内放送のようなものですな。
ちなみに三年前に一度俺も使わせて貰った。
『一五年ぶりに里に引っ越してきましたので、相談があればなんでも言ってください』とかなんとか。
いやぁ……元から便利になんでも手伝える人間だったからね、里長に『戻ったことを伝えるとみんな喜ぶから』って勧められたのだ。
……翌日、里に住むの『オネエサマ』方の母親達に『うちの娘を嫁にどうだ』とか言われたのには困りものだったが。
「未来の里長だよ、あの子。こうして少しずつ周囲に顔を覚えてもらうんだろうな」
「へぇ、中々将来有望そうね。けど里長の子なら面倒だし遊びに誘えないわ」
早速ちょっかいかけるか吟味するとかとんだ〇ッチだ、なんて一瞬思ったのは秘密です。
隣に男がいてそれはさすがにないでしょうジェシカ嬢……。
『まもなく木剣試合が始まります、興味のある方はぜひ集まってください! なお、賭博行為も今日は解禁されていますので、受付のテーブルで詳細をお願いします。私のおすすめは我が里の自警団長ですね。私も彼に二〇〇〇レイン賭けています』
マジでか。賭博ありとかちょっと興味惹かれるんだが。
勝負事やゲームは、お金をかけると三倍は楽しくなるとは誰の言葉だったか。
ちなみに、『レイン』というのはこの世界の貨幣のことであり、その価値は円の一〇倍くらいだ。つまり彼は試合結果に二万円程賭けていると。
「あら楽しそう。ケイアさん、あなたは賭けないの?」
「興味がそそられるけど、一応商人だからね、俺。信用に関わるからパス」
「残念。じゃあ私もパス。詳しそうな貴方に乗っかろうと思っていたのに」
「ちゃっかりしてるなぁ君……」
そうして次第に広場に人が集い、里の人口を越える程の人間が集まって来た。
お、リヴァも来ているな。今は女友達と一緒にいるみたいだが……あ、試合の受付で断られて憤慨してる。
そりゃあ……女は出られないって決まりもあるし、彼女が最強なのは暗黙の了解だしなぁ。
『さて、私事で申し訳ないのですが、少しお集まりの皆さんに見届けてもらいたいことがあるんです!』
とその時、またしてもシリュー君が周囲に向けて話し始めた。なんだなんだ?
『この収穫祭で求婚した者は恋が実る……そういう噂があるのはご存知でしょうか!』
おい待て。まさかとは思うがお前――
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