某月刊誌 2020年4月号掲載「不気味な家族」

※この雑誌は毎月テーマに沿った怪談を実体験、創作問わず募集していて、2020年4月のテーマは「家族」だった。


 これは、私がつい先日体験した出来事です。

 私は兵庫県の田舎に住んでいる普通の会社員です。ただ、少し理由があって住んでいるマンションから駐車場まで5分ほど歩く必要があります。とはいえ、そろそろお腹の贅肉が気になってきた頃だったので、これも運動と思い不便さは感じていませんでした。

 その日、私は残業のせいで24時を回るくらいに駐車場に車を停めました。マンションには家族連れが多いですが、私のように独り身で遅くまで働く、いわゆる社畜はそういません。普段よりも重く感じる鞄を持って車から降りました。

 駐車場からマンションまではほぼ一本道で、開発を諦めたのか何なのかはわかりませんが、空き地が多いです。

 そんな中、ある一つの空き地だけは、その入り口に交通安全の人形が置かれています。黄色い帽子に黄色いシャツ、赤い長靴を履いた君の悪い人形です。右手を挙げて旗を持っていることから、おそらく元々は横断歩道脇に設置されていた人形でしょう。しかし、ここには横断歩道もなく、場所が合いません。元々は別の場所で使われていたものの撤去されることになり、もしくは誰かがイタズラで持ち出して置いたのでしょう。個人的には、夜道で見かけると怖いので好きではありません。

 話を戻します。その日も私は交通安全の人形の前を通りかかろうとしました。すると、そこに4人の人が立っています。24時を回るというのに、ここで何をしているんだろう。4人ともフードを被っていて性別は分かりませんでしたが、明らかに小学生くらいの子供も混じっています。それらのうち3人が人形の隣に立ち、もう一人がスマホを向けています。こんな時間に、こんな場所で家族写真?

 明らかに不気味で、私は知らんぷりをして過ぎ去ろうと思いました。でも、本当に少しだけ気になってしまって、家族の方に視線を向けました。彼らが同じマンションに住む人々なら、まだ恐怖心が薄れるかもしれないと思ったからです、

 ですが、その選択は間違いでした。人形の横に並んでいたのは男性、女性、小学生くらいの男の子でした。彼らは皆一様に笑顔を浮かべていたのですが、その目が真っ黒だったんです。フードを目深に被っていたからではありません。確かに白目があるはずの部分が、闇のように黒かったんです。

 唯一の正解といえば、何も見なかったようなそぶりで、そのまま帰宅できたことです。家には誰も来ませんでしたし、それ以来、その家族を見ることもありません。

 ですが、今でも帰り道に人形を見ると、あの黒い目を思い出してしまうんです。どこかから、彼らが私を見ている気がして。

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