対峙①

雨が小さな針のように頬を刺す夕方、佑太は駅のベンチに座っていた。

傘も差さず、濡れた髪から水が滴り落ちている。

だが、佑太にとっては寒さで震える身体よりも、心の奥に巣食う冷たさの方がずっと厄介だった。

「おい、風邪ひくぞ」

顔を上げると、安藤が立っていた。

相変わらず、黒いコートに無精ひげ。ただ、依然と違っていたのはその顔に張り付いていた笑みはすっかり消え、代わりに鋭い目が佑太を見下ろしていた。

佑太を見下ろす視線には、同情も嫌悪もなく、ただの好奇心だけが光っているように見える。

「行くぞ。あんまり時間とれないってさ」

安藤から連絡があった際、佑太は記事について問い詰めてみたが、なしのつぶて。

結局、状況をかき回すことだけが安藤の目的だったようだから、その目的は果たしたということだろう。

正体が知れてからの安藤からは、初めて会ったときの礼儀正しさはなくなっていた。

これがこの人の本来の姿なのだろう。

そう気づきながらも安藤の提案に乗り、今回ここまで来たのには理由がある。

安藤に導かれ、二人は駅前の小さな喫茶店に入った。

客はほとんどいない。

安藤は店内を軽く見やると、窓際に座る一人の中年女性に声をかけた。

浅井由紀あさいゆきさん……ですね」

そう呼ばれた女性は、湊の妻・千景の大学時代からの友人。

佑太と安藤は、彼女の向かい側の席に腰かけた。

まもなくコーヒーが届くと安藤の「では、」という声に呼応して、

彼女は弱々しく笑い、深く頭を下げた。

「こんなこと、本当は話すべきじゃないのかもしれないのですが……」

そういってかしこまる由紀を、安藤が宥める。

「どんな些細なことでもいいんです。少しでもなにか情報があればと……」

そんな安藤の様子を見て、由紀は「わかりました」と小さく頷いた。

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