【第13話】ギャルの親友、気づき始める恋の予感の件



 最近、ひなたの様子がちょっと変だ。


 そう思い始めたのは、ある放課後、クレープを食べながら一緒に帰った日のことだった。


「でさー、昨日マヒローとデート“未遂”だったのよ〜」


「未遂って、なんだよそれ。結局行ったんでしょ?」


「うん。でもバイト時間間違えてたっぽくて、途中で帰っちゃった!」


 ひなたは笑いながらそう言ったけど、あたしにはわかる。


 あの子、あの笑顔、ちょっと照れてた。


「で? マヒローと何話したの?」


「んー、なんか……ふつー? でもさ、なんか……こう、落ち着くんよね。アイツといると」


「ふーん……」


 ひなたがマヒロに好意を抱いてるのは前からわかってた。


 でも最近のひなたは、ちょっと“本気すぎ”る感じがする。


 そうなると、ギャル仲間としては──ちょっとモヤモヤする。


 あたしは恋愛とか面倒だし、今は誰かを好きになるつもりもない。

 でも、ひなたの隣にいるマヒロを見ると、なんかこう、胸の奥がザラッとする。


 ──なんでだろ。


 翌日、マヒロがひなたの席にしゃがみこんで、笑いながら話しているのを見た。


 ひなたは嬉しそうに笑ってた。あたしに向けてるのとは、ちょっと違う顔で。


 それを見て、あたしは思った。


 ……ああ、これが「気になる」ってやつなのかもしれないって。


「はあ……マジで、何やってんだろ、あたし……」


 思わず独り言が漏れる。


「ん? なんか言ったー?」


「なんでもないっしょ〜。てかマヒロ、今日も一緒に帰ってやって」


「え、俺?」


「ほら、ひなたがさっき“買い物つきあって〜”って言ってたし。な?」


 あたしはあえて、背中を押すように言った。


 ──たぶん、そのほうが自然だから。


 自分の気持ちには、まだ名前をつけたくないから。


 夕焼け色に染まる帰り道。ひなたとマヒロが並んで歩いているのを、ちょっと後ろから眺める。


 ――こういうの、前なら何も思わなかったのに。


 あたしはスマホをいじるふりをしながら、その背中を見ていた。


「なーんか、今日はテンション低くない? リサっち」


 ひなたが急に振り向いた。


「別に。いつも通りだけど?」


「ふーん……ま、なんかあったら話してくれていいからさ」


「……ありがと」


 言いながら、自分でも驚いた。


 こういうとき、もっとサバサバ返すはずなのに。

 ちょっと弱いトーンで返しちゃったのは、何かが引っかかってる証拠なんだと思う。


 ──それが何かは、まだよくわからないけど。


 その晩、家に帰ってからも、なんだか落ち着かなかった。


 お風呂に入って、髪を乾かして、ベッドに寝転がっても、ずっと頭の中に残ってる。


 マヒロとひなたが並んで歩いてた、あの姿。


(……マジで、なにやってんのあたし)


 そう思って、枕に顔を埋めた。


 翌日。


 マヒロが教室に入ってくるなり、ひなたに話しかけられてるのを見て、

 また、あのモヤモヤが胸の奥から湧き上がってきた。


「おはよ、マヒロー。今日さ、放課後ちょっと付き合ってくんない?」


「いいけど、何かあるの?」


「服屋! 秋物見たいの〜!」


 その光景を見てる自分の視線が、ちょっと冷たくなってるのを、あたしは自覚してた。


 ……でも、どうしようもなかった。


「……ったく、なにヤキモチ焼いてんのよ、あたし」


 心の中で吐き捨てるように呟いた。


 マヒロが気づいてないのはわかってる。ひなたも、きっと気づいてない。

 でも、あたしの中では、確かに何かが始まってる。


 それが“恋”って言葉で呼べるようになるまでには、もう少し時間がかかるかもしれないけど。


 でも──。


「……次は、あたしのターンかもね」


 そう呟いて、あたしは席を立った。

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