告白下手な美少女たちに囲まれて、僕の日常がカオスすぎる件

Novaria

【第1話】ギャルの告白練習が、俺に直撃してきた件



 放課後の教室。夕焼けが差し込む中、俺は忘れ物を取りに戻っただけだった。


「……好き……っ、じゃないし! えっと、ちが……なにこれ! 練習になってなくね!? もっかい!」


 教室の後ろ、窓際の席でひとり、誰もいないと思って声を出していたのは──三咲ひなた。クラスのギャルで、SNSでは“ギャルのカリスマ”と呼ばれているらしい。俺とは特に接点のない存在だった。


「えっと……相沢真尋、アンタのこと、前から──」


「……え?」


 俺の声に、ひなたがビクリと振り返る。


 次の瞬間、彼女は顔を真っ赤にして、手に持っていたノートを床に落とした。


「──聞いてた!? マジで今の聞いてた!?」


「ご、ごめん! 忘れ物取りに来ただけで……」


「死ぬ!! マジ無理、いったん死ぬわアタシ!」


 ひなたは叫びながら教室から飛び出していった。


 ……なんなんだ今の。まさか俺、告白の練習現場を目撃してしまったのか?


 だが翌日、何事もなかったようにひなたは登校してきた。


「昨日のこと、忘れて。てかマジで。頼んだっしょ」


「あ、うん。忘れたことにするよ……」


 だがその日から、なぜかひなたは俺の半径5メートル以内をうろつくようになった。


「今日の昼、隣、空いてる? あーべつに意味ないけど」


「明日ってさ、放課後ヒマ? とか聞いてみるだけだし?」


「……なあ、これって、もしかして……告白、しようとしてる?」


「ちげーし!!」


 ──こうして俺のカオスな日常が、幕を開けた。


 次の日の昼休み。なぜか俺の席の隣にひなたがいた。


「……えっと、ひなた?」


「ん? あー、たまたま。席、空いてたから座っただけっしょ」


 いや、たまたまじゃないだろ。俺の机に“昼休みに来る”って書き置きがあったし。


「……一緒に食べんの、嫌だった?」


「いや、別に……そんなことないけど」


「よかった〜。じゃあ、あーんしてあげようか?」


「い、いいってば!」


 隣で笑うひなたのテンションは、明らかに“いつものギャル”を演じてるようだった。俺が見たあの告白練習が、ひなたの中でどれほど恥ずかしかったのか、少しだけわかる気がする。


「で、さ……あのさ、相沢?」


「うん?」


「もし……仮に、誰かが、あんたのこと……ちょっと気になってたとして、そういうのって、ウザい?」


 え? 何その質問。


「えっと、別に……ウザくはないけど」


「そっか。じゃあ、安心した」


 その瞬間、ひなたの笑顔がちょっとだけ素直だった。いつものギャル笑顔じゃなくて、もっと……本当の、女の子の笑顔。


 その後、午後の授業が終わって教室を出ようとしたとき、ひなたが俺を呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待って。放課後、話したいことあるんだし!」


「……わかった」


 ふたりきりの教室。夕焼けに照らされたひなたが、窓際に立っていた。


「ねぇ、真尋。アンタ、昨日のこと、ほんとに忘れた?」


「うーん……ごめん、ちょっとだけ覚えてる」


「……正直でよろしい」


 ひなたは息を整えるように、何度も深呼吸をした。


「アタシ、さ。今まで誰かに“好き”とか言ったこと、ないんだよね。ギャルっぽく振る舞ってても、実際マジで奥手でさ……」


「……うん」


「だから、ちゃんと伝えたかったんだけど……いざってなると、ダメで……また今も、うまく言えない」


 ひなたの声が震えていた。


「だからさ、今日は言わない。ちゃんと伝えられるようになるまで、待ってて。勝手なお願いだけど……」


「うん。わかったよ」


「……ありがと」


 それだけ言うと、ひなたは窓の外を見て、小さく笑った。


 ──やっぱり俺の毎日は、しばらくカオスになりそうだ。


 翌朝、教室に入ると、すでに数人のクラスメイトがざわざわしていた。


「ねぇねぇ、昨日さ〜、三咲さんと相沢くんが一緒に昼ごはん食べてたんだって?」


「しかも、めっちゃ距離近かったらしいよ!」


「え〜マジで? あのギャルのカリスマと? なんで相沢なん?」


 俺は自分の席に向かいながら、会話の内容に顔が引きつるのを感じた。


 ……マジか。もう噂になってんの?


「よっ、今日も仲良くすんの〜?」


 そう声をかけてきたのは、ひなたの親友でギャル仲間の小泉リサだった。彼女はいつもイヤホンを片耳につけていて、クールな目線で周囲を見ているタイプだ。


「ちがっ……いや、別に仲良くっていうか……」


「ふ〜ん。まあ、ひなたの様子見てればだいたいわかるけどね」


「え?」


「なーんでもないっ。あ、あんまからかうとひなた拗ねるから気をつけな〜」


 そう言って、リサはにやりと笑って立ち去った。


 その直後、ひなたが教室に入ってきた。


「お、おはようっしょ」


 いつもより声が上ずっている。顔もちょっと赤い。


「お、おはよう」


「な、なんかさ、昨日の昼のこと、変な噂になってるっぽいんだけど……」


「うん。聞いた。なんか“付き合ってる説”とか」


「ちげーし!! マジでちげーから!!」


 バンッと机を叩いて叫ぶひなた。クラスの視線が一斉にこちらに向いた。


 ……うん、これでますます“なんかある感”が強まった気がする。


 その日の放課後。俺は屋上で一人ぼーっとしていた。


 最近、どうにもひなたのことを考える時間が増えている。


 ギャルって派手で騒がしいイメージだったけど、ひなたはどこか繊細で、不器用で、だけど真っ直ぐだ。


 それがなんだか、気になってしまう。


「……はぁ、俺、何考えてんだろ」


 そのとき、後ろから声が聞こえた。


「いたしー。ってか、ここにいると思ったっしょ」


 振り返ると、ひなたが立っていた。今日はいつもより髪型が少しだけ整っている気がする。


「……よかった。話したいこと、あったから」


「俺も、ちょっと考えてたよ。最近、色々あったし」


「うん……あのさ、アタシって、やっぱ、変かな?」


「変じゃないよ。むしろ……」


 ひなたがこちらをじっと見てくる。その視線が、どこか真剣で、俺は自然と口をつぐんだ。


「もー、やっぱ今はムリ。今日はこれで十分!」


 ひなたは顔を覆って、くるっと背を向けた。


「でも、また近くにいても、いい?」


「……うん。もちろん」


 その背中が、嬉しそうに揺れた気がした。

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