第10話『文化祭と、推し候補人気投票』
「みんなー! 今年の文化祭のメインイベントが決定しましたー!」
生徒会長の紫月ユウが、全校集会で高らかに宣言した。
「その名も『推し婚約候補No.1決定戦』! 我が校の黒薔薇の聖姫・綺羅星ルナさんの契約候補たちが、それぞれブースを出展! 来場者の投票で、一番人気の候補を決めちゃいます!」
体育館がどよめいた。特に女子生徒たちの歓声がすごい。
「キャー! アオイ様のメイド喫茶!」
「レイジ先輩の占いの館も楽しみ!」
「シュウ君のピアノコンサート絶対行く!」
ルナは真っ青になって立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私の許可なく勝手に……」
「大丈夫大丈夫!」
親友のさくらがルナの肩を叩いた。
「だってルナちゃん、契約しちゃったら皆のこと忘れちゃうんでしょ? だったら、忘れる前に楽しい思い出作ろうよ!」
「そうそう!」とみどりも頷く。「それに候補の人たち、ルナちゃんとの思い出を形にしたいって言ってたよ」
「思い出を……形に?」
「とにかく! 準備期間は一週間! 皆さん、張り切っていきましょー!」
こうして、黒薔薇の聖姫学園始まって以来の、奇妙な文化祭準備が始まった。
* * *
文化祭当日。
校門には巨大な看板が立てられていた。
『推し婚約候補に投票しよう! あなたの一票が、ルナ様の運命を変える!?』
「運命は変わらないんだけどなぁ……」
ナクがぼやく横で、ルナは各ブースを回ることになった。
まず最初は、アオイのメイド喫茶『天使の休息』。
「いらっしゃいませ、お嬢様!」
金髪をポニーテールにして、メイド服を着たアオイが出迎えた。男子なのに、なぜか違和感がない。
「えっと……アオイ君?」
「今日は皆さんに、ルナ様との思い出の味を届けたくて」
アオイが運んできたのは、ミルクティーとスコーン。一口飲んだ瞬間、ルナの目から涙がこぼれた。
「あれ? なんで私……」
「初めて会った日、ルナ様が分けてくれたミルクティーの味を再現したんです。覚えてないと思いますけど」
アオイは優しく微笑んだ。
「でも、僕は覚えてます。ルナ様の優しさも、温かさも、全部」
店内の女子たちが「キャー!」と黄色い声を上げた。アオイブースには長蛇の列ができていた。
次は、レイジの占いの館『記憶の書庫』。
薄暗い部屋で、レイジが水晶球を見つめていた。
「君の未来を占おう。いや、君の『忘れた過去』を」
水晶球に手をかざすと、そこに映像が浮かんだ。図書室で一緒に勉強するルナとレイジ。レイジが作った暗記カードを、ルナが笑いながら読んでいる。
「これは……」
「僕の完全記憶能力で再現した、君との思い出。君は忘れても、この水晶球には永遠に残る」
来場者たちは、切ない二人の思い出に涙していた。
シュウのピアノコンサート『聴こえない音楽会』では、驚きの演出が。
「今日は、音のない演奏会を開きます」
シュウがピアノに向かうと、音は鳴らないのに、なぜか心に旋律が響いてきた。
「これは、ルナさんが僕にくれた『心の音楽』。耳では聴こえなくても、心なら聴こえる」
不思議なことに、ルナの指が勝手に動き始めた。空中でピアノを弾くように。そして、その動きに合わせて、会場に本物の音楽が流れ始めた。
「ルナさんの心が、僕の音楽を覚えていてくれたんですね」
感動の拍手が巻き起こった。
リオの紅茶専門店『氷解』では、特別ブレンドのアールグレイが振る舞われた。
「これは、ルナが教えてくれた『温度』を表現した紅茶です」
一口飲むと、冷たさから温かさへ、徐々に変化していく不思議な紅茶。まるで、リオの心が溶けていく過程を表現したかのよう。
カナタのクレープ屋台『甘い記憶』は、女子に大人気。
「期間限定! ルナ様スペシャル! なぜかいちごクレープが食べたくなる魔法付き!」
実際、ルナもなぜか無性にいちごクレープが食べたくなり、三つも平らげてしまった。
「あれ? 私、甘いもの苦手なはずなのに……」
カナタは意味深に微笑むだけだった。
ユウトのブースは『契約拒否の部屋』。
「入場料は、『ルナを忘れない』という誓い」
重い内容かと思いきや、中は意外にも明るい雰囲気。壁一面に、ルナと候補たちの楽しい写真が飾られていた(もちろん契約前の)。
「忘れることも、忘れられることも、本当は怖い。だから今を大切にしよう」
深いメッセージに、来場者は考えさせられた。
ハルの演劇『本音と建前』は爆笑の渦。
「本日は、もしもルナ様に本音しか言えない呪いがかかったら、という即興劇を!」
「生徒会長、実は苦手!」
「ナク、毒舌すぎてムカつく!」
「カレーパン、実は嫌い!」
ルナ役の女子生徒の熱演に、本物のルナは赤面した。
「これ、まさか本当に私が……?」
ハルがウインクした。
レンの写真展『見えない君を探して』は、なぜか雨の写真ばかり。
「雨の日にしか撮れない、特別な一瞬を集めました」
よく見ると、すべての写真の端に、同じ青い傘が写り込んでいた。まるで、誰かがそっと見守っているような。
ジンのブース『百年の恋文』では、古い恋文が展示されていた。
すべて、歴代の黒薔薇の聖姫に宛てたもの。筆跡は違うのに、想いは同じ。永遠に報われない、でも諦めきれない恋心。
「重っ!」と言いながらも、女子たちは涙していた。
月影ソウの企画は『爆笑! ものまね大会』。
候補たちの特徴を掴んだものまねで会場は大爆笑。特にナクのものまねは秀逸だった。
「『また恋してる……呪いなのに懲りないなぁ』」
「そっくりすぎる!」
ルナも久しぶりに心から笑った。
夕方、メインステージで結果発表が行われた。
「第一位は……全員同票で引き分けー!」
会場がどよめいた。
「なんと、来場者全員が『全員に投票』したんです! 『一人なんて選べない』『皆がルナ様を幸せにしてる』って!」
感動的な結果に、候補たちも満足そうだった。
最後は、全員参加のダンスパーティー。
ルナは照れながらも、候補たち一人一人と踊った。不思議なことに、誰と踊っても、足が勝手に相手のステップに合わせて動いた。
「私、ダンスなんて習ったことないのに……」
「心が覚えてるんですよ」
誰かがそう呟いた。
夜空に花火が上がる。
ルナは思った。忘れてしまっても、この瞬間の幸せは、きっとどこかに残る。
心の一番柔らかい場所に。
「来年も、やりたいね」
さくらの言葉に、ルナは複雑な笑顔で頷いた。
来年、自分はまだここにいるのだろうか。
そして、今日踊った彼らのことを、覚えているのだろうか。
薔薇時計の花びらが、月光に照らされて黒く輝いていた。
残り、十一枚。
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