47 反射不能の軍勢
一週間後――。
「……来たか」
俺は魔族の襲来を感じ取っていた。
【カウンター】の効能なのか、それとも俺自身の生物的な本能なのか。
禍々しい気配が王都に現れたのを感じる。
そして、その気配が王城に近づいているのを。
「ジルダ様、王都に高位魔族の気配が現れたそうです! 高速でこちらに接近中!」
と、数名の騎士が俺の元にやって来た。
「分かってる。いくよ」
すぐに俺は装備をまとい、城門の前に出た。
そこにはずらりと騎士団と魔法師団が並んでいる。
「ジルダ」
「ジルダ様」
団長を務めるレナと副団長のカミーラが俺を出迎えた。
「魔族の軍勢がここに迫っている。数は千を超えるそうだ」
と、レナ。
「中核は下位と中位の魔族だが、高位魔族も数体混じっている」
「高位魔族――」
魔族の中でも別格の強さを誇る、精鋭中の精鋭だ。
ゲーム内でも他のモンスターに比べ、異様に高いHPやMP、そしてすさまじい攻撃力に苦しめられたものだ。
「私たち魔法師団も全力を尽くすわ」
と、こちらは魔法師団の黒い制服を身にまとったマルグリット。
入団してからわずか一か月あまりの間に、猛者ぞろいの魔法師団の中でエース格の扱いを受けるようになっているそうだ。
さすがは魔法学院首席の天才といったところか。
「魔族との実戦は初めてなの」
と、マルグリット。
「未知の敵との戦い――また新たなデータが得られそうね」
「はは、お前らしいな」
魔族との戦いすら、彼女にとっては己の魔法を高めるためのデータ集めに過ぎないのかもしれない。
頼もしい味方だ。
と、
「――いけそうか、ジルダ?」
レナがたずねる。
「なんだよ、俺の実力は知ってるだろ? 不安なのか」
「……お前にだけ本音を言うが、少しな」
俺は驚いて彼女を見た。
常に泰然として百戦錬磨を感じさせる彼女でも――不安を感じることがあるのか。
「前回はバレルオーグを集中的に狙ってきた魔王軍だが、今回は違う。すでに世界のあちこちで同時侵攻が確認されている」
そう、初戦での完敗で向こうも本気になったんだろう。
つい数時間前、世界各地で同時に魔王軍の襲来が確認された。
バレルオーグに集まっていた英雄たちの超ドリームチームもいったん解散し、世界各地に散った。
だから、この国の防衛は俺やレナ、マルグリット、ルシアたちが中心だ。
もちろん彼女たちは強いけど、やっぱり前回に比べれば心細さは否めない――。
「私は王女であり騎士団長だ。仮に不安があったとしても、周囲にそんな顔は見せないさ」
レナがフンと鼻を鳴らした。
「……お前にだけ、特別に話したんだ」
「ありがとう。今のは俺の胸の中にしまっておくよ」
俺はうなずいた。
「いつも、そうやって不安を隠しているのか?」
「当然だ。それが上に立つ者の責任というものさ」
言って、チラリとカミーラを見る。
「私はそれを彼女から教わった」
「レナ様には最初からその資質が備わっていましたよ。あたしは少しだけ後押しさせていただいたのみです」
くすりと微笑むカミーラ。
応えるように微笑を返すレナ。
結構キツい性格の彼女だけど、カミーラの前ではこういう柔らかな表情を見せるんだよな。
きっと二人には深い信頼関係があるんだろう。
と、
「――来た」
俺はキッと前方を見据えた。
かつ、かつ、かつ……。
軍靴の音を鳴らして歩み寄る、影。
長い銀髪を揺らし、片目の周辺を仮面で覆った女魔族だった。
黒いローブの胸元には魔王軍幹部の紋章が刻まれている。
「私は【幻惑】のシャロル。魔王直属の六将【
SSRキャラクターの一人『魔将シャロル』か。
ゲーム内に出てくるキャラだから、当然知っている。
その戦法も、な。
さらにシャロルの背後には千を超える魔族兵が控えていた。
ただ、全員がその場で動かずにとどまっている。
どうやらシャロルによって完璧に統率されているようだ。
単体の戦闘能力はもちろん、将としても卓越している――というわけか。
「では、始めましょうか? 【跳ね返しの勇者】さん?」
……やっぱり魔王軍にも浸透してるんだ、その名前。
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