48 【幻惑】のシャロル

「みんなは下がっていてくれ。奴らはまず俺と戦うつもりらしいからな」


 俺はいつも通り剣をだらりと下げた。


「レナ、他の魔族たちが散開したら騎士団の方で対応頼む。魔法師団にも」

「分かっている。残りは任せろ。悪いが、あいつはまず貴様に任せるぞ」


 と、レナ。


 その視線の先にはシャロルがいる。


「ああ。奴は俺が抑える」


 俺は剣を下げたまま、無造作に進み出た。


「いつでも来い、シャロル」


 その瞬間、


 ずずずずずず……っ。


 足元が揺れ始めた。


 小さな揺れは、すぐに激しい地震となり、周辺の地面が割れ始める。


 ぷしゅーっ!


 そこから濃い紫の霧が吹きだした。


「……っ!?」


 視界が一気に歪む。


 何も見えない――。


「ふふ、違うわ。見えているはずよ……あなたには」


 シャロルの笑う声が聞こえた。


 すぐ背後から。


「……!」


 反射的に振り返る。


 本来なら俺は【カウンタ―】を備えているんだから、振り返る必要なんてなかった。


 何せ体が勝手に反射で【カウンタ―】を繰り出してくれるんだからな。


 にもかかわらず振り返ってしまったのは、この異様な雰囲気に呑まれたからだ。


「ここよ」


 背後にはシャロルがたたずんでいた。


 ごうっ!


 差し出した右手から黒紫色の光弾を放つ。


 その光弾に俺の【カウンタ―】は発動せず――。


 どんっ!


 胸を、貫かれた。


「っ……!」


 一瞬、激痛が走る。


 ――いや、違う。


「幻だ……」


 俺はキッとシャロルをにらみつけた。


「お前の攻撃は【幻惑】が主体。実体のある攻撃じゃなく対象に幻術でありもしないダメージを与えたように見せかけているだけ――」

「あら? 初見で見切ったの?」


 そうじゃない。


 俺はお前の戦術を知っているんだ。


 ゲームで何度も戦ったから、な。


 ただ、一つ問題がある。


 奴の攻撃は俺の【カウンタ―】スキルでは対応できない。


 何せ実際に当たっていないんだからな。


 物理でも魔法でも、俺の肉体にはいっさい接触していない。


『攻撃』じゃないんだから【カウンタ―】の使用条件を満たさない――。


 だけど、油断をすれば奴の攻撃に惑わされ、俺は幻の痛みを『本物』として認識し、ダメージを受けるだろう。


 今までにないタイプの敵だ。


 こいつがいずれ現れるであろうことは予測していた。


 けど、有効な対処法を見つけられなかったんだよな。


 それにしょせんは幻覚、そうと分かっていればダメージは受けないだろうと考えていた部分もある。


 実際には、少しでも気を抜けば、それを『本物』として認識してしまう厄介な攻撃だったわけだが――。


「さあ、どうするかな」


 俺はひるまない。


 むしろ、心の片隅ではこの戦いを楽しむ自分を認識していた。


 自分でもそれは軽い驚きだ。


 異世界に来て精神がタフになったのか。


 それともゲームの延長線上の感覚で、この戦いに臨めているのか。


 どちらにせよ、俺はリラックスして相手の攻略法を頭の中で編み始める――。


「ふふ、打つ手がないという顔ね」


 シャロルは余裕の笑みを浮かべた。


「さあ、苦しみなさい。あなたの【跳ね返し】は現実の攻撃に触れてこそ効果を発揮するのでしょう? 私はいわば、あなたの天敵よ」

「そいつはどうかな」


 俺はニヤリと笑った。





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