24 俺は歌姫に心酔される
「ジルダ、あなたは何を……?」
マルグリットが驚いた顔で俺を見ている。
「ん? 俺はただ歌を跳ね返しただけだが?」
「【呪歌】を……跳ね返した!?」
マルグリットがさらに驚いた顔になる。
「私でさえ抵抗できなかった【呪歌】を……どれだけハイレベルな防御術式ならそんなことが可能なのか――」
「いや、なんとなく」
「まだまだ、あなたの術の研究が必要ね」
マルグリットは俺を見て、目を爛々と輝かせた。
「私の探求心を刺激してくれる人ね、ジルダは」
「――待て、顔が近いぞ」
と、レナが俺たちの間に割って入った。
「とりあえず、礼を言うぞ、ジルダ。私たちは奴の怪しげな歌のせいで昏倒していたらしい」
「まさか、歌のコンサートだと思ったら、いきなりみんな眠らされるなんてな」
俺は苦笑した。
「ああ、正直、少し気のゆるみがあったかもしれない……不覚だ」
「同じく。ただ、彼女の【呪歌】は本当にハイレベルよ。魔王軍戦では強力な武器になってくれるはず」
と、マルグリット。
「ぜひ研究したいわね」
「なんか、片っ端から研究対象になるんだな……」
ローレライの【呪歌】によるハプニングはあったものの、決起集会はその後も続けられ、各国の士気は大いに上がる結果になった。
その辺りはバレルオーグ国王の仕切りの上手さも大きかったと思うし、レナも美貌の姫騎士として紹介され、会場を大いに盛り上げていた。
そうして、会もお開きに近づいてきたとき、
「あの、勇者様……先ほどは大変ご無礼をいたしました」
ローレライが俺の元にやって来た。
すっかり、しおらしい態度だ。
「いや、まあ……」
どう答えていいのか分からず、俺はあいまいな笑みを浮かべる。
「研究対象、来たわね……!」
隣でマルグリットが目を爛々とさせていた。
「ねえ、あなたの【呪歌】はとても面白いわ。ぜひ研究させてほしいの」
と、俺を押しのけるようにしてローレライに話しかけるマルグリット。
「け、研究……ですか?」
ローレライがキョトンとしている。
「ほら、いきなりそんなことを言ったら、ローレライが戸惑ってるだろ」
「む……あまり性急な態度は、交渉をこじれさせるかもしれないわね」
と、引き下がるマルグリット。
「?」
ローレライはますますキョトンとしている。
「はは、マルグリットは知的好奇心や探求心が旺盛なんだよ」
俺がローレライに説明した。
「そんなことはどうでもいいんです。あたしの眼中にあるのは、あなた様だけですので」
ローレライがキラキラした目で俺を見つめる。
「あなた様こそ世界最強の勇者様……それがよく分かりました。まさか、あたしの【呪歌】が通じないどころか、跳ね返されるなんて」
ローレライはすっかり感嘆しているようだった。
「世界一の歌姫などとおだてられていましたが、あたしも身の程を知ることにします」
「いや、歌そのものは綺麗で素敵だったと思うぞ? そこは自信もっていいんじゃないかな。それに【呪歌】だって、マルグリットがすごくハイレベルだって褒めてたし」
俺はローレライに言った。
「まあ、お優しいお言葉をありがとうございます!」
彼女の顔がパッと輝いた。
「ふふ、あたし……これからは勇者様のために歌いますね」
「えっ」
「よろしければ、あたしのことは勇者専属の歌姫ということにしていただけませんか? あなたの英雄譚を、あなたの一番側で歌いたく存じます」
言いながら、ローレライは俺にべったりと寄り添ってきた。
「い、いや、その……」
これだけ密着されると、さすがに意識してしまう――。
「ち、ちょっと待て! いきなり出てきて、何を馴れ馴れしくしている!」
レナが割って入った。
なぜか焦ったような顔だ。
「ジルダはバレルオーグが誇る勇者だぞ! 貴様一人が独占していいわけがなかろう! 私が独占するならともかく――」
ん? 最後はどういう意味だ?
「あら、ヤキモチですか、姫騎士様」
「だ、だだだだだだ誰がヤキモチか!」
からかうようなローレライの口調にレナの顔は真っ赤になった。
「と、とにかく勇者専属など許さん!」
「独占欲の強い姫騎士様ですわね」
「独占欲というか、その……」
「ふふ、でもその態度は可愛らしいので、姫騎士様に免じて専属は諦めますわ」
ローレライが微笑んだ。
「来たるべき戦いに備えて、あたしも歌の力を磨くこととします――では」
言って、去っていくローレライ。
「まったく……」
レナはまだ憤然としている。
――と、壇上にふたたび呼ばれたローレライが会場の出席者に向けて歌いだした。
「むっ!?」
さすがにレナやマルグリットは身構えている。
ただ、俺は――素直に聞きほれていた。
うん、やっぱり綺麗な歌だ。
今回は会場の人間を眠らせるようなことはなく、戦意を鼓舞し、同時に見る者の気持ちを安らげるような――そんな歌だった。
この歌が戦場に響き渡れば、きっと俺たちは無敵だ。
そう思えるような、魔王軍と戦う人間すべてに送る応援歌のようだった――。
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