13 勇者ゼオルは最強を求める(ゼオル視点)

 SIDE ゼオル


 王都へと続く街道を、一頭の馬が駆けていく。


 騎乗しているのは、王立騎士団の制服をまとった金髪の美しい少年だった。


 ゼオル・ガルシオン。


 騎士団に入団してわずか半年で、王国最強の騎士であるレナ王女と双璧と言われるようになった天才騎士であり――。




『勇者』と呼ばれる十七歳の少年だ。




 ゼオルは数日間の偵察任務を終え、王都に戻るところだった。


「ようやく終わりか。報告書を書くのは面倒だが、王都に戻れば美味いメシが食える――」


 安堵感と喜びが大きくなっていく。


「――ん?」


 そのとき地平線の先で、細く立ち上る黒煙に気づいた。


 しかも、血の匂いもわずかに漂ってくる。


 ゼオルは馬を急がせ、煙と血の匂いの出所までやって来た。


 小さな農村だ。


 村の奥から断続的に人々の悲鳴や獣の雄たけびが聞こえてくる。


「村がモンスターに襲われている!」


 ゼオルは馬を降りて村の中に走った。


 十数体の黒い狼型のモンスター……【ブラックウルフ】が村人たちを襲っている。


「やめろ!」


 ゼオルは剣を抜いた。


 勇者のみが扱えるという聖剣【ルーンゼア】。


 この世界に数本しかない聖剣の中でも最高峰に位置する、ゼオル専用の武器だ。


 魔力の輝きをまとい黄金に輝く聖剣を手に、ゼオルは【ブラックウルフ】の群れに突っこんでいった。


 があっ!


【ブラックウルフ】たちは即座に散開する。


 ゼオルの実力を一瞬で悟ったのか、警戒するような陣形だ。


【ブラックウルフ】はモンスターの中でも上位のスピードを誇り、スキルを使ったときは亜音速で動くことができる強敵だ。


「――【縮地】」


 が、ゼオルがスキルを使ったときの速度は、それすら置き去りにする。


 ざんっ! ざんっ! ざんっ!


 戦闘時間、わずか3秒。


 ゼオルが駆け抜けた直後、すべての【ブラックウルフ】が両断されて地面に転がった。


「す、すごい……!」

「あの騎士様、たった一人で魔獣の群れを……」

「あのキラキラ光る剣って、もしかして聖剣……?」

「じゃあ、あの方が勇者様――」


 村人たちがゼオルを見て、驚いた顔をしていた。


 彼らを救えてよかったという気持ちが湧き上がる。


 同時に自分が称えられていることで、胸がすくような気持ちもあった。


 勇者として活躍すればするほど、『もっと称えられたい』という気持ちが大きくなる。


 やはり、褒められるのは気分がいいものだ。


 かつては何も持たない平民の少年に過ぎなかったゼオルにとって、勇者として選ばれてからの日々は、まるで夢のようだった。




 ――村を襲う【ブラックウルフ】は他にも十体ほどいたため、ゼオルはそれらすべてを狩り尽くした。


 強敵モンスターといえど、彼の【縮地】と聖剣の前にはしょせん敵ではない。


「勇者様、ありがとうございました」


 老人の村長がやって来て、ゼオルに深々と頭を下げた。


「すべての村人を救うことはできませんでしたが、命が助かった方々がいるのは何よりです」


 ゼオルの顔に笑みはない。


 ここに到着したときに、すでに殺されていた村人が少なからずいたからだ。


 自分がもう少し早く来ていれば――。

 戦いぶりを褒められた高揚感も、その後悔の前に色褪せていく。

 と、


「お兄ちゃん、さっきはありがとう……」


 先ほど【ブラックウルフ】の群れから助けた一人が近づいてきた。


 まだ小さな少女である。


「気にするな。俺は勇者として当然のことをしたまでだ」

「……でも、お父さんもお母さんも……うっ……」


 こらえきれずに泣き始める少女。


「……そうか」


 ゼオルの心に痛みが走った。


「今はゆっくり休むんだ。ご両親はきっと天国から君を見守ってくれる……」


 言いながら、どうしようもない無力感が湧き上がってきた。


 もっと大勢の人を救いたい。

 もっと力が欲しい――。


 と、そのときだった。


 ずううううんっ。


 地響きが、響く。


「なんだ……!?」


 ゼオルは眉根を寄せて、周囲を見回した。


 村の外に巨大なシルエットが見えた。


 先ほどの【ブラックウルフ】を何倍も巨大にしたような狼型のモンスターだ。


 しかもその頭部は二つあった。


【ツインギガウルフ】。


 S級に位置する最強クラスのモンスターである。


 その戦闘能力は魔界の魔獣にも匹敵するという。


「あんなものが辺境に現れるとは――」


 ゼオルの表情が険しくなった。


 最近、モンスターの活動が急激に活発になっている。


 それはやはり――『邪悪なるもの』がこの世界に近づいている影響なのだろうか。


 そう、伝説にある魔王ルーデルの軍勢が。


「……いや、今は考察しているときじゃない」


 ゼオルは聖剣を抜いた。


「俺が奴を倒してきます。みんなは安全な場所に隠れて!」


 と、周囲の村人たちに叫ぶ。


「勇者様……」


 少女が彼を見つめていた。


「大丈夫。俺が君たちを守る」


 ゼオルは微笑んだ。


「もうこれ以上、誰一人傷つけさせやしない」


 ゼオルは村の外まで駆け抜け、【ツインギガウルフ】と対峙した。


 さすがに大きい。


 全長は10メートルを超えているだろう。


 だが相手がどれほど強かろうと、彼に不安も恐怖もない。


 己の力には絶対の自信がある。


 王国最強の姫騎士レナにだって、俺は負けない――。




 ゼオルは一瞬にして【ツインギガウルフ】を討伐した。


 戦闘時間、わずか10秒。


 村を救った勇者ゼオルはふたたび王都に向かう。


 その道中、一つの噂を耳にした。


 あの姫騎士レナが、ただの中級騎士に敗北したという。


 それも一度ではなく、何度となく。


「許せない……レナ殿下に勝つのは、俺のはずだったのに」


 初めて出会ったときから、強く凛々しく美しい姫騎士に憧れていた。


 恋を、していた。


 だが彼女の眼中に自分はいない。


 だから認めさせたかった。


 レナよりも強くなって。


 なのに、その目標は横手から奪われてしまった。


「レナ殿下より強い騎士がいるだと――」


 ゼオルは悔しさを噛みしめながら、王都に向かっていた。


 レナ殿下に強さを認めてもらうのは、自分の役目だ。


 許せない。


 そんな騎士がいるなら、俺が苦も無く叩きのめしてやる。


 その噂の騎士は――。


 ジルダ・リアクトという名前らしかった。





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