12 最強騎士団の挑戦


 ルシアは最初こそ本気で命を狙ってきていたけど、毎回【カウンタ―】で返り討ちにしていた結果、『暗殺するために俺を研究する』という名目で俺に付きまとうようになった。


 で、それから一週間――。


「……なあ。お前って、もう俺を暗殺する気ないだろ」


 俺の隣を歩くルシアは、最初に出会ったときとは全然違うにこやかな笑顔だった。


 っていうか、ここは王立騎士団の訓練場なんだが、なんで一緒についてくるんだよ。


「あたし、見習いの騎士として仮入団したから。一緒に訓練しよ?」


 ルシアはニコニコ笑顔で言った。


「そして、お前の動きの癖をすべて見切り、必ず暗殺するのさ……ふふふ」

「ニコニコ笑顔のまま物騒なこと言うなよ」

「だって殺し甲斐があるんだもん。えへ♪」

「可愛い女の子っぽいノリにしても可愛くないからな」


 台詞が殺伐としすぎている。


「ほら、行こう行こう」


 そんなツッコミなどどこ吹く風で、ルシアは俺の手を引いた。


 最近は――彼女と一緒に訓練することが増えた。


 まあ、彼女の動きが騎士のそれとは全然違う。


 ノーモーションから繰り出される高速攻撃は予測不可能。


 いくら俺に【神速反応】があるとはいえ、俺自身の戦闘能力も上げておくに越したことはない。


 今後、どんな敵と相対するかは分からない。


 なにせ、ここはゲームの世界だからな。


 本編シナリオ通りの流れなら、いずれはゲームに登場した敵――【魔王ルーデル】とその軍勢が攻めてくるはずなんだ。


 その時、俺も戦場に立つことになるだろう。


「何をボーッとしてるの? 隙を見せたら殺しちゃうぞ?」

「さらっと殺伐な台詞言うのやめてくれる?」

「ふふっ♪」


 猫耳を揺らしてクスリと笑うルシアを、最近は可愛いと思い始めていて……いやいや、相手は暗殺者だぞ!? と正気に返ることも増えてきた。


 なんだか妙な関係になっちゃったなぁ……。




 そうこうしているうちに訓練場に到着する。


 と、


「お前か! レナ殿下を始め、名だたる猛者に勝ったという中級騎士ジルダというのは!」


 一人の騎士が近づいてきた。


 胸元に輝く青い紋章――。


 王立騎士団の中でも最強を誇る【波濤はとう騎士団】の一員である証だ。


 確か……しばらく遠征に出ていて、最近帰ってきたんだっけ。


 だから、俺のことは噂でしか知らないってことか?


「お前のような奴がレナ殿下に勝つとは信じられん」


 彼は俺をジロジロと見ている。


 うさんくさい者を見るような目で。


「何か小細工をしたのではあるまいな?」

「あー……またその手の疑惑か」


 しょせん俺はカマセの悪役剣士だからな。


 どうしたって、外見は強そうな雰囲気を持ってないし、これまでの戦績を疑われてしまうのは仕方がないことかもしれない。


「俺の剣で噂の真偽を確かめてやろう」


 と、いきなり剣を抜く青年剣士。


「【波濤騎士団】で最速の剣を誇る、このフレイディスがな!」


 あ、なんか聞いたことがあるな、その名前。


 確かSRあたりのキャラにいたような――。


 まあ、キャラクターが多いゲームだから、URやSSRはともかく、SR以下だと全員覚えてないんだよな。


 SRならそこそこは強いってことだろうけど――。




 ぱきん。


 俺の【カウンター】を食らい、フレイディスの剣が砕け散った。


「な、何っ!?」

「ただ相手を吹っ飛ばすだけじゃない。【カウンター】によって反射する力を『どこに食らわせるか』を選択することで、相手の武器破壊をすることだってできる」


 俺は淡々と説明した。


「……うん、最近試してる戦法だけど上手くいった」

「ば、馬鹿な――この俺が」


 フレイディスはその場にガックリと崩れ落ちた。


「完全に負けた……」

「ならば、次は私の番だ!」


 と、進み出たのは、涼し気な顔立ちをした青年騎士。


「私は【波濤騎士団】随一の魔法剣士メロドーガ! 魔法と剣のコンビネーションは無敵を誇る! さあ、勝負!」

「お、おう……」


 でも最強剣士のレナも最強魔術師のマルグリットも完封してるんだけどな、俺……。


「くらえ、【水流斬】!」


 刀身に渦巻く水をまとい、斬りかかってくるメロドーガ。


「はい【カウンタ―】」


 水を跳ね返し、剣を砕き、そのままメロドーガを吹っ飛ばす俺。


「剣も魔法も使えるのはすごいけど、俺はその剣でも魔法でもお前より強い奴に勝ってるからな……」

「うぐぐ……」


 メロドーガは悔しげな顔のまま起き上がれないようだ。




 ――そして、さらに。


「ワシは【波濤騎士団】最強のパワーを誇るホッジ! このワシのパワーですべてを打ち砕く!」

「はい、【カウンタ―】」


 だんだん面倒になってきたので、扱いも雑になってしまう。


 当然のように吹き飛ばされ、ホッジにも完勝したのだった。


 ――で、その後に挑みかかってきた【波濤騎士団】の騎士たち(全部で二十人くらいいた)を全員吹っ飛ばしたところで、それ以上は誰も挑んでこなくなった。


 そして王都には新たな伝説が生まれた。


 最強の【波濤騎士団】をたった一人で完封した男がいる――と。








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