第3話 捨て身
死ぬかもしれないと思いながら迎える朝は、案外、普通に始まる。
ユウは制服の襟を直しながら、鏡の中の自分を見た。
肌は青白く、目の下にはクマができている。
今の残り時間は──39時間26分。
(終わりが近づいてる)
学校への道を歩きながら、ユウは昨日まとめたメモを何度も読み返していた。
---
捨て身プラン:
「感情誘導型接触計画」
目的:つかさの“心を動かす”
条件:無理に距離を詰めない/共感を強調する/自分の弱さを見せる
作戦:「一日一つだけ、彼女の“考え”を聞き出す」
→ 思考共有=信頼構築=心の揺れ=延命
---
(恋愛じゃなくていい。まずは、興味を持ってもらう。それだけでも──死なずに済むかもしれない)
そう考える自分が、悲しいほどに切羽詰まっているのも分かっていた。
でも、そんな見苦しい感情すら、命のために使うしかない。
教室に入ると、柊つかさはいつも通り静かに席に座っていた。
カバンを机の横にかけ、無音でノートを開く。
教科書の端にふせんが並んでいて、どこか整然としたその姿に、やっぱり少し見惚れてしまう。
でも、今日は見てるだけじゃない。
ユウは思い切って声をかけた。
「……柊さん、さ。朝、テレビとか見る派?」
つかさは、少しだけ首をかしげた。
「唐突だね」
「いや、ちょっと気になっただけ。あんまり人に興味ないタイプって、何を日課にしてるんだろうって」
つかさは少しだけ考えてから答える。
「テレビは見ない。音が多すぎるの、苦手だから」
「そっか。じゃあ、朝は?」
「お茶淹れて、日記つけて、静かな音楽流す」
その瞬間、何かがひっかかった。
「日記……つけてるんだ?」
「うん。……記録は大事でしょ。何を考えたか、どこに違和感を覚えたか。忘れるの、もったいないから」
(……この人、自分の心をちゃんと見てるんだ。表に出さないだけで)
「……俺さ、最近、いろいろ考えてるんだよね。
“誰かを大切に思う”って、どういうことなんだろうって」
「……」
「例えば、誰かの言葉で一日が少し変わるとか。
誰かの存在が、自分にとって“特別”に変わっていく感じとか。
……そういうのって、つかささんはどう思う?」
名前を呼んだのは、初めてだった。
つかさは目を伏せるようにして、少しだけ唇をかんだ。
「……よく、わかんない」
「そっか」
「でも……そういうの、ちゃんと“ある”なら、ちょっといいなって思う」
その言葉に、胸が締めつけられた。
(今の、今の一言。間違いなく“揺れ”だ)
頭の中で、カウントダウンが止まるような感覚がした。
“延命”──成功。
---
放課後、ユウは帰り支度をするつかさに声をかけた。
「今日はありがとう。いろいろ話してくれて」
「……別に、話したってほどじゃない」
「でもさ、俺にとっては大事だったよ」
つかさは立ち上がって、ユウの顔をじっと見た。
「……天ヶ瀬くんって、ちょっと変わってるよね」
「変かな?」
「うん。でも……」
そこで、言葉が途切れた。
「……ま、いいや。じゃあ、また明日」
ユウは見送るつかさの背中を見つめながら、小さく息を吐いた。
(作戦は、一歩進んだ。あと、何歩必要かは……分からない)
──残り時間:38時間10分。
(To be continued...)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます