Scene21:転落

視界が真っ赤に染まっていた。

口の中に広がる鉄の味と匂い。


込み上げる嘔気で吐き戻していた。


頭が割れるように痛い……


―――落ちたのか……谷底に。


「……息が……吸えない」

肋骨が折れているのか、息を吸うたびに胸の奥が軋んだ。


小さい砂利が身体中に食い込んでいるのが分かる。


近くでバイクの車輪がガタガタと歪な音を響かせていた。

ふっと目を向けると傍に倒れている和真の姿がみえた。


「……か……かず……ま」


僕は精一杯口を動かしているつもりだったが、掠れて声にならなかった。

ゆっくりと指先を這わせて和真を触ろうとした。


―――あの高さから落ちてまだ意識があるのは、和真が庇ってくれたのか。


では、和真は……?


指先が触れようとするも届かない。


ぐぅっ。砂利を掴みながら近づこうとするも思ったようには動かない。

そして、ぴくりとも動かない和真に恐怖を覚えた。


―――和真。


その時、小さな砂利の間。その小さな間から蠢く蟲のように影が集まり始めた。

徐々に和真の周りを囲んでいく。


「や……やめろ……」


―――漣、漣。


何度も内側に向かって叫んだ。だが、ここは何かしらの力が働いているのか。


届かない。


倒れた身体を包み、今度はゆっくりと地面に埋もれていく。


ずずずず……


砂利の間を沈みゆく音が響いている。

僕は這いずりながら和真の身体に覆い被さった。


黒い影は和真の口や耳、鼻の中までも入り込んでいく。


「やめろ……」


思い通りに動かない手で叩くように取り払おうとするも、湧き出る影は嘲笑うように大きくなっていく。


ひび割れたスマホの画面が、闇のなかで青く点滅している。


《 Kaleido:KING SET 》


青い点滅が輪のように広がり、僕と和真はそのなかに吸い取られた。

重力の感覚が消え、身体が反転するような浮遊に呑まれる。


すべての方向感覚が壊れた。天と地が反転し、自分の“裏側”が引き剥がされていくような――そんな感覚。


目を閉じたわけでもないのに、すべての景色が暗転していった――

僕は、異様な空間に立っていた。


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