《第一章》第四節:仕組まれたデート計画
従業員たちが、桃と真司の恋愛成就に向けて動き出した。
その兆候は、すぐに現れた。
ある日の夕方、仕事を終えようとしていた桃が、ふと顔を上げた。
「あ、そうだ、真司さん。来週末なんですけど、新作ゲームの資料探しに、ちょっと遠出の資料館に行きませんか? 結構、面白そうな展示があるみたいで」
桃がそう切り出すと、真司はいつも通り、落ち着いた声で返事をした。
「ああ、いいですね。僕も行きたいと思っていました。いつがいいですか?」
一見すると、なんてことない仕事の話だ。
だが、俺は知っている。これは、従業員たちが仕組んだものだということを。
休憩室での会話を思い出せば、その意図は明白だった。
「どうだ、これなら自然だろう?」
「二人きりになれる時間が増えるぞ!」
そんな声が聞こえてきそうだった。
実際、俺が桃の肩から見下ろすと、山田や佐藤たちが、まるでコントのように、顔を見合わせてニヤニヤしているのが見えた。
田中だけは、仏頂面で自分のパソコン画面を見ているが、その口元がわずかに緩んでいるのを、俺は見逃さなかった。
なるほど、彼らもグルか。
翌日、桃は朝から浮かれていた。
肩に乗る俺に、職場に向かう道すがら、ずっとそのことばかり話していた。
「ねぇ、モモスケ。来週末、真司さんと資料探しに行くの。ゲームの資料探しなんだけど、なんだか遠足みたいで楽しみだわ!」
彼女の頬は、いつもより一層ピンク色に染まっている。
仕事のためと言いつつも、真司との「遠出」が嬉しいのだろう。
本当に分かりやすい人間だ。
会社に着くと、従業員たちはすでに、その話題で盛り上がっていた。
彼らは、桃と真司が資料探しに出かけることを、まるで自分たちのことのように喜んでいる。
「桃社長、どこか美味しいお店、調べておくといいですよ! ほら、資料探しって、お腹空きますから!」
佐藤が目を輝かせて桃に詰め寄る。
「そうそう! 帰り道に、ちょっとしたお土産屋さんとか寄っちゃったりして!」
山田も加勢する。
彼らは、遠足に行く小学生が、お菓子をどうするか相談しているかのようだ。
桃はまんざらでもない様子で、「えー、そうかなぁ?」と、照れくさそうに笑っていた。
真司は、そんな周りの盛り上がりを、いつものように無関心を装って聞いている。
だが、彼の耳は、いつもより赤かった。
そして、時折、桃の方をちらりと見るその視線は、普段よりも熱を帯びているように感じた。
彼もまた、この「資料探し」を、単なる仕事だとは考えていないようだ。
おそらく、彼もまた、内心では浮かれているに違いない。
彼らの仕組んだ計画は、確かに巧妙だった。
仕事という大義名分のもと、二人きりの時間を設ける。
そして、遠出という特別なシチュエーションを作り出すことで、普段とは違う雰囲気を演出する。
この流れなら、引っ込み思案な桃と真司でも、もしかしたら何か進展があるかもしれない。
俺は、彼らの試みが成功するかどうか、静かに見守ることにした。
この「遠足」が、彼らの関係にどんな変化をもたらすのか。
俺のひねくれた好奇心は、最高潮に達していた。
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