ある島の怪異について
あげあげぱん
第1話 放課後の砂浜で
放課後に向かった砂浜は今日も穏やかだ。
日本の本土から離れた、このクトウ島で、僕が楽しむものといえば、ネット検索か砂浜の散策くらいだ。お前は体が大きいのだから何かスポーツをするべきだと学園の先輩たちには勧められるが、どうもそんな気にはなれない。十七年間生きて、これなのだから、きっと今後も僕はスポーツと縁は無いだろう。
クトウ島の砂浜には時々、妙なものが流れ着く。五芒星の形をした石だったり、他にも色々だ。僕はそれらの奇妙な物体たちを、オブジェクトと呼んでいる。オブジェクトを見つけられた時は、宝物を見つけられた時のように、とても嬉しい気持ちになる。その日に見つけた漂流物が、宝物かどうかは僕の判断次第だ。綺麗な石を探したりするのと同じ。
そして僕は今、夕日に照らされ、砂浜に流れ着いた小箱を手に取っていた。黒くて、小さな小箱。僕はそれを宝石箱だと思った。どうしてそう思ったのかといえば、箱はすでに空いており、そこに黒光りする石があったからだ。石は、複数の赤く小さな柱によって支えられているようだ。海から流れ着いた物だとするなら、よく小箱から石が外れなかったものだと感心する。宝石箱は……失礼な言い方にはなるが、あまり高価そうなものには見えない。なんとなく、チープな感じがした。それはそれとして、このオブジェクトは気に入ったぞ! チープっぽさが良い。
まず、箱を開いたままスマートホンで撮影する。僕はいつも、拾ったオブジェクトを撮影してSNSに画像を投稿している。そうして誰かの物だと連絡があれば、後は島の交番にでも任せるし、連絡がなければ僕が宝物として預かっておく。ちなみに今まで落とし物だと連絡が来たことはない。持ち主が現れないなら、それはそれで良いのだ。
箱を閉じてもう一度撮影する。その数秒の間に、背後に気配を感じた。振り返る。が、そこには砂浜と僕の影があるだけだった。何だか、一瞬嫌なものを感じたのだけど、気のせいだったのだろうか? なんだか、落ち着かないな。
ともあれ、いつものように、オブジェクトの写真をSNSに投稿した。反応がくる時もあるし、こない時もある。そんなもんだ。僕が趣味でやっていることだし、こだわらない。
遠くに夕日を眺める。赤い太陽がゆっくりと水平線の向こうに沈んでいく。そんな景色を眺めて数分が経った頃、後方の離れた位置から「おーい!」と声をかけてくる者が居た。そちらに顔を向けると、顔馴染みの女子が歩いてきていた。隣の席の田々宵さんだ。タダヨイと読む。
「霧島くん、君さあ。今日も砂浜で漂流物探してんの? 飽きないねえ」
「ん、まあ。そんなところだよ。田々宵さん。今拾ったんだけど、見るかい?」
「おー見る見る」
僕は田々宵さんに宝石箱を見せて、それを開こうとした。だけど……開かない? おかしいな? これどうやって開ければ良いんだ?
「ん、中に黒い石が入ってるんだけど、開かないな」
「まじ? 壊しちゃった感じー?」
「そうかもしれない。元々壊れてた可能性もあるね。漂流物だろうし」
「あーねー。あ、いつもみたいに写真撮ってる? それなら私も中身確認できるじゃん」
「撮ってるよ。SNS確認して」
「おけ。確認するー」
田々宵さんはスマホで、僕がさっき、SNSに投稿した写真を確認した。彼女は「ふぅん」と面白くもなさそうに反応し、スマホをしまった。彼女の興味を引くものではなかったようだ。まあ、人それぞれだし、僕もそのことを気にはしないけどね。良いんだけどね。
「普通の黒い石って感じだねー」
「良いんだよ。僕が気に入ってるんだから。それに、石を支えてる赤い柱が格好良いじゃん」
「ほほー。それは目のつけどころがシャープ……なのかな? あたしには、よー分からん」
「分かんなくて良し。それより、砂浜に何の用? それとも僕に用次かい?」
ここまでの会話は挨拶みたいなものだろう。彼女が僕に話したいことがある時は、いつも一旦は僕の方に話を合わせてくる。さっさと本題に入ってくれても良いんだけどね。社交辞令ってやつなんだろうか?
「あ、うん。霧島くんに用事なのよー。君さあ、夜の学校とか興味ないかな?」
「興味無いね」
「うお、ばっさり!? もうちょっと興味を持ってくれても良いじゃんよー」
田々宵さんが僕の趣味にそれほど興味が無いように、僕が田々宵さんの趣味に興味が無くても、おあいこだ。そう思うがね。
「……分かったよ。田々宵さん。詳しい話を聞かせてよ。それで判断するからさ」
「おー。流石、霧島くん。そうこなくちゃ!」
田々宵さんは楽しそうに笑い「夜の学校と言えば肝試し!」なんて言う。夜の学校と肝試し。関係が無いとは言い切れないが、イコールになるものだろうか? 田々宵さんの中ではそうなるんだと、思っておこう。しかし……学校で肝試しか。ほんとに興味ない話だったな。僕幽霊とか信じてない。けど実際に怪現象を見ることがあれば信じると思う。
んー興味は無いけど、どうするかな? 夜の外出っていうのが、心配ではある。心霊とかではなく、不審者とかそういう方向で。
「……んー。分かった。来るかって言うんだろ? 行くよ。君は止めても行くタイプだろうし」
「良いねー。霧島くんは話が分かる! 道中で今日の計画を説明するよ」
はあ……めんどくさ。
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