21.魔法少女


私は人形が好きだ。


私は銅像が好きだ。


私は、それらを作るのが好きだ。


そしてそれを使役し、操るのが私の魔法【傀儡マリオネット】。


【悪魔の兵士ディアブル・ソルダ】は確かに便利だが、やはり見た目がナンセンスだ。


過去の悪魔を甦らせ使役するという魔法で、有用性は認めるが、いかんせん頭が無いのが好ましくない。


なので私が魔法少女と戦う時は、ほとんど私が自作した人形の悪魔を使用している。


ただ私が複数体同時に操る為か、悪魔の兵士より明らかに弱い。


だが悪魔の兵士より余程美しく戦えている自負があった。


「力ある人形を操りたくはないか?」


ボロボロの外套を纏った包帯だらけの男が、そう言って近付いてきたのはつい最近であった。




ーーーーー




6体の怪人が、家屋の上からこちらへ向かってくる。


屋根をかけて走ってくる怪人が3体、空を飛ぶ怪人が3体の合計6体。


(…あれ?空の真ん中の怪人、どこかで見た気が…)


そう思ってサクラは怪人達を凝視していると、やんちーが呟く。


「おい、あれって人形使いのアルガングラじゃねぇか?最近アイツだけ妙に来ねぇと思ってたが、怪人5匹手なずけてたのかよ!?」


「知り合いなのか?」


やんちーの言葉にアキラが反応する。


「いや、知り合いだが敵だ。さくらが持ってるホマリアの輝石を狙ってる【黒の軍団アトラ・レギオ】って連中の1人だが、輝石が奪われると妖精界がやべぇんだ!クソッ!フェアな奴らだと思ってたのに、俺達がボロボロの時に来やがって!!」


「…あ、あのアキラさん」


なにかを言おうとしているサクラに対して、アキラは話を聞く前にバイクに跨りエンジンを吹かす。


「とりあえず逃げるぞ!お前らも乗れ!」


「は、はい!」


サクラは慌ててアキラの後ろに乗り、やんちーはアキラの肩に移動した。


それを確認したアキラはバイクを急いで発進させた。


「正直6体同時は俺もキツイ、さくらかやんちー、あいつら倒せる方法あるか?」


(ねぇなら青峰にでも来てもらうのが安牌だが…)


「す、すいません。今日はもう、使える魔力は全部使ってしまって…。これ以上使うと妖精界が…」


「…なぁ、アキラ。このバイクの側面にくっ付いてある筒、魔力が入ってるのか?いや、入ってるよな?」


やんちーはバイクの後部側面にくっついている4つの筒を見て確信したように聞く。


「魔力…。マナエネルギーの事か。いや、お前らが魔力って言うんなら魔力なんだろうな。元々未知のエネルギーだったし。それがどうかしたか」


「こいつを使えば、さくらがもう1回変身できる」


「変身…。魔法少女みたいな姿してたし、やっぱ戦えるのか」


「は、はい。魔法少女ですから…あはは…」


「俺のベルトのチャージ用だったんだが…、残り1本しかねぇ。1回でアイツら倒し切れるか?」


バイクの後部に4つの筒が左右2つづつ取り付けられており、淡く輝いているのは1つの筒だけ。


他の筒は光っていないので、エネルギーが入ってるのはその一つだけのようだ。


「…全力の一撃を、全員に当てられたら、たぶん…」


「一撃で魔力を使い切っちまうと思うが、その一撃が全員に当たれば、おそらく行ける」


「そうか、ならお前達に賭ける。…全員まとめて、か…。よし!アイツらをトンネルまで連れていく!頼むぞ!」


そう言って一段とスピードを上げるアキラ。


「はいっ!」


「任せとけ!まぁやるのはさくらだが」



「…あっ、青峰に先に連絡しておくか…【ラウィン・青峰・通話】…一応通行止めさせておかねぇとな」


アキラがそう呟くと、バイクのメーターが映っている液晶部分に一部、青峰と書かれた通話マークのようなものが追加される。


『…なんですか?今レドさんとの会話で忙しいんですけど…』


「レドさん?レドさんてだ…、ああ、あの悪魔の奴か」


『…!レドさんは悪魔じゃないです!むしろ神!私の救世主なの!気安く悪魔とか言わないでくれますか!!実質神様ですよ神様!!』


「え…、お前もしかして、洗脳されてる…?」


『洗脳されてないですぅ!!ていうか私は忙しいし休日出勤だし残業確定なんです!!!部長に言って下さい!!!私!忙しい!!休み無し!!!明日も仕事!!分かりますか!この苦しみが!!!私だって』


プツッ


アキラは無言でバイクの液晶をタップし、青峰との通話を切った。


「あ、あの、よかったんですか?まだ喋ってましたけど…」


「ああ、いつもどおりだ。【ラウィン・部長・通話】」


しばらくの後、部長と書かれた通話マークが、バイクの液晶に表示される。


『…なんだね?アキラくん』


「あのー、青峰が忙しいらしいんで、代わりに通行止めの仕事お願いしたいんですけど…」




ーーーーー



海沿いのトンネルがある道まで数十分かけ走って来たが、怪人達は未だにアキラ達を追っていた。


「このまま諦めてくれたらそれでもよかったんだが…、やっぱまだ追ってくるか。めんどくせぇ敵だな」


「話しかけても全く聞きませんでしたし、操られてるんでしょうか…」


「前から不気味なやつだと思ってたが、まさか本気で殺しにかかって来やがるとはな」


怪人のうち1体が、定期的に謎の遠距離攻撃を仕掛けてきたが、それはやんちーが氷の礫魔法で撃ち落としてくれた。


「まぁもうすぐトンネルだ。アイツらが全員中まで追ってきたら、作戦開始だ」


「作戦っつってもぶっぱなすだけだけどな」


「頑張ります!」


サクラはふんすと気合いを入れて返事をした。


バイクは怪人達から追いつかれない程度の距離で移動し、無事に海沿いにある道のトンネルの中へと走っていく。


バイクの筒に入っていた魔力は、やんちーが既に輝石に移動させている。


後は作戦通りにするだけだ。


「全員入って来たぜ!狙い通りだ!」


「頼んだぞさくら!」


「はい!マジカルアーツ・起動!【チェンジ】!」


サクラがそう叫ぶと、体の中心から光が溢れ出し、サクラの身体が光り輝き出す。


「ムズムズするな…」


アキラの後ろでは、サクラが発光しながら衣服が変わっていく。


「輝石の力でさくらに魔力を纏わせてるんだ。たぶんアキラが使ってたベルトも同じような魔法が付与されてると思ったんだが…」


「魔法ねぇ…。餡子…、うちの技術者は科学の結晶とか言ってたが」


「…科学か。確かにこの世界の技術力を見りゃ、いずれ魔法を科学で再現させることも可能…なのか…?電波を飛ばして通信なんて、魔法みたいなもんだしな…」


そんな事を会話している間に、サクラの変身が完了する。


手には魔法使いが持ってそうな、上部分が三日月の様な形で、中央にひし形の宝石が浮かんでいる小さめの杖を持っていた。


宝石が浮いている周りの杖部分には、綺麗な羽の飾りがあしらわれている。


「変身、終わりました!」


「よし、ここで止めるぞ!頼んだぞ魔法少女!」


「はい!」


アキラは叫ぶと、バイクを斜めに止めてサクラを降ろす。


サクラは少し歩いてから足を止める。


「いけぇ!さくら!やっちまえ!」


やんちーもアキラの肩で応援している。


トンネルの奥から見える怪人達、その一番奥にいるペストマスクのような仮面を被った男、昔「アルガングラ」と名乗った1人の人間?が、マスク越しに笑っているような気がした。


「いきます!!!マジカルアーツ・真技シンギ…ッッ!!!」


サクラが杖を両手で持って、走り向かってくる怪人達へ先端を向ける。


巨大な魔法陣が足元に浮かび、杖の先端にも似たような魔法陣が回転しながら浮かび上がる。


地面の魔法陣からは、風が回転するように発生し、アキラ達の衣服を靡かせる。


「…【メガロギア】ッッッ!!!」


サクラが満を持して技名を叫ぶと、杖の先端の魔法陣から莫大なエネルギーの放出が発生する。


その出力はとてつもないエネルギーで…。


後ろにいたアキラ達はバイクごと吹き飛んで行った。


「うおおおおぉぉぉぉ!!?嬢ちゃあああん!俺達は向こうで待ってるぞおおおぉぉおおおお!!!?」


「ぬわああああァァァァァ!!!」


「…ッ!は、はいぃぃッ!!すみませんんん!!!」


激しい嵐のような風だが、エネルギーの放出攻撃をしているさくらは、軽い風の影響は受けているが、そこまでの反動は受けていない様子だった。


数十秒間の莫大なエネルギーの放出。


その破壊エネルギーは、先程まで走っていた海道の地形を大きく変えた。


「はぁ…、はぁ…、はぁ…」


一気に魔力を使い切ったサクラは、1度ぺたんとおしりを地面に着く。


1度顔を俯かせ、もう一度目の前の光景を眺める。


サクラの目の前には、消し飛んだ山の斜面と、削れたてで発生したであろう荒々しい波の海が広がっていた。


「…ちょっと、やりすぎたかな…」




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