14.勇者と悪魔と
(山田の近くに居るなぁ、前に感じた気配の奴。…あの天使みたいに目が溶けたらアレだし、もうちょっと抑えておくか)
ーーーーー
はたして山田先輩が待っていたのは、一匹の悪魔であった。
だがその悪魔がヤバい。
昔、1度だけ古龍という存在と戦った事があるのだが、それはもう凄まじいほど強かった。
そして目の前にいる悪魔は、その古龍よりやばい。
この魔力の圧力は、あの時古龍と戦った時と同じかそれ以上…。
そしてあの時一瞬だけ感じた魔力の高まりは、これを遥かに超えていた。
あの古龍でさえ、昔は神と縄張り争いをしていたと豪語していたので、あの古龍がホラを吹いていなければ、この悪魔はそれ以上の化け物ということになる。
古龍が全盛期でなかったから倒せたものの、この悪魔がどれ程強いかが検討もつかない。
「佐藤さん、この人が僕の家族のレドだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何を言っているんだという顔になってしまったリネ。
「おう、ご紹介に預かったレドだぜ」
気にせず片手をあげて挨拶するレド。
「あ、どうも、佐藤リネです」
ペコりと条件反射で挨拶してしまった。
いや、おかしい。
(家族と言っていたからには、人間だと思っていたのだが…、何者なんだこの悪魔は!?いやだがよくよく見れば邪悪な気配は無い…。もしかして…)
「着ぐるみですか…?」
「あ〜、そうだな。この世界ではそんな感じの体で過ごしてるぜ」
「レドはいい悪魔だよ」
笑顔でそう言うハルに、リネは若干気まずげながらも、意見を述べる。
「…先輩、この世にいい悪魔なんて存在しません。人前に出ない悪魔だけが、いい悪魔です。もしこの方が悪魔じゃなかったとしても、悪魔を模倣する者にろくな者はいません…。すぐにでも縁を切るべきです」
「そりゃあまぁ一理あるな」
言われている当の本人のレドが、腕を組みながらうんうんと首を縦に振り自分で言う。
だがハルは、そうは思わなかった。
「佐藤さん、それはなんでもレドに失礼だよ。今日だってわざわざ忘れてきた弁当持ってきてくれたぐらいだし…」
「…ッ!!!」
リネは一瞬で心臓が縮こまってしまった。
いくら悪魔と言えど、契約さえすれば基本悪魔は従順で大人しいのは広くしれた事。
そんな悪魔に世話になって、家族とまで言わしめた存在に、軽薄にも縁を切った方がいいとまで言ってしまった。
優しい山田先輩なら、今の発言で嫌われる可能性すらある失言。
もし山田先輩と付き合える契約ができるなら、自分でも悪魔と契約する可能性すらあるというのに。
(このままではまずい!山田先輩に嫌われてしまう!!!)
リネは次の瞬間には土下座していた。
「すいません!軽率な発言でした!どうかご慈悲を…!」
「え?ちょっ!そこまで謝らなくても…、は僕もレドに失礼かな…」
若干気まずげにレドへと視線を向ける。
「いや、いいぜ。まぁ安心しろ、俺様は元からこんな姿だからな。だが勘違いすんなよ?俺様が悪魔の姿を真似たんじゃねぇ、悪魔共が俺様の姿を模倣しやがったんだ。俺様の寿命は、この世界の寿命よりずっと上だからな?」
そう言ってしゃがみこみ、リネの肩を軽く叩いて顔を上げさせる。
「そ、そうなのか…?なら、神様のようなもの…、なのか?」
「俺様は最初に神と呼ばれた種族より年上だぜ」
「神…、…種族?」
会話をしながら立ち上がり、手を差し伸べてリネも立ち上がらせる。
「まぁ聞きたい事は色々あるだろうが、今は昼飯を食ってきた方がいいんじゃねぇか?ハルとの時間も短くなるぜ?」
後半の部分はリネの耳元で呟いて、顔を離した後ウィンクした。
レドはリネの言葉や動きから、リネがハルに好意を寄せていると予測したので、そう言ってみる。
リネの耳元は、レドの言葉で赤く染っていた。
ビンゴっぽい。
「それじゃ、俺様はそろそろお暇するぜ。今日の弁当は出来たての詰め込んだからよ、いつもより割増で美味いと思うぜ。なんならそこのリネさんとやらと、おかずを交換してみるのもいいぜ?俺様の料理の美味さが身に染みるからよ」
そう言って片手をふりふりしながら出ていくレド。
(山田先輩とおかず交換…!?そ、それってもはや…、夫婦では?)
「それは、佐藤さんに失礼にならないかな…。佐藤さんが手作りだったらだけど…」
苦笑いで呟くハル。
ハルの呟いた言葉に、リネは自分の弁当が手作りでは無い事に、心底後悔した。
次の日からリネは、弁当を手作りし始め、ハルと毎回おかずの交換をするようになった。
それを機に社内では、山田と佐藤が付き合っているという噂が流れ始めた。
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