13.天使と悪魔と吸血鬼とヒーロー

全員が思わず沈黙してしまう。


四者四様全く違う種族所属正体の為に、どう切り替えればいいか収拾がつかない。


明らかに悪魔の外見をしたレド。


吸血鬼の翔太君は認識阻害を突破して誠の姿を見れている。


天使も同様で、見るからに悪魔な外見をした悪魔に驚愕、邪悪なオーラを纏った少年も居り、意味がわからずフリーズ。


ヒーローもその特殊なスーツによって認識阻害を防ぎ、悪魔の姿を視認。明らかにやばいオーラを纏った少年にも注意する。


そしてレドは、新たに襲来した天使とヒーローという意味不明な組み合わせだが、吸血鬼も合わせて新しい出会いにちょっとワクワク。


ただ今は急いでるので、とりあえずレドが口火を切る。


「あ〜と、俺様はとりあえず急いでるから、また今度でいいか?」


無難に立ち去ろうとする悪魔。


「だから僕の話聞いてたかなぁ?逃がさないって言ってるよね?」


「・・・どうやら悪魔の仲間が3人に増えた様ですが、丁度いいです。まとめて斬り殺します」


天使はそう言って、巨大な鎌を振って構える。


「天使のお姉さんは勘違いしてるようだから言っておくけど、僕は悪魔じゃなくて吸血鬼ね」


「俺も悪魔じゃなくてただのヒーローで〜す」


「俺様も悪魔じゃねぇぜ」


「「「いやお前は明らかに悪魔だろうが!!!」」」


レド以外は全員一致の意見であった。


レドはスマホを見て時間を確認する。


「余裕持って出たはずなんだが、もうそろそろ時間だな。俺様と戦いてぇなら早くしな。じゃねぇと俺様もう行くからよ」


そう言ってレドは片手を軽くあげて、ゆっくりと後ろを振り返って歩き出す。


ちょっと遠回りだが、面倒なので反対の道からハルの仕事場に向かおうとする。


「逃がさないって・・・、言ったよね!!!」


鮮血槍ブラッド・スピア


虚空から赤黒い槍を三本空中から解き放つ少年。


その槍は真っ直ぐにレドの方へと向かい。


確かに当たった。


当たったのだが・・・、砕け散った。


バキバキバキィッ!と確かな音を立てて砕けた。


「・・・・・・・・・は?」


少年は確認の為、先程よりも多い10本の【鮮血槍】を放つ。


当たる。


だが、全ての槍が砕け散った。


レドはそのまま無言で立ち去っていく。


少年は目を丸くしてポカンと立ち尽くした。


「そこの悪魔も逃がしませんよ!!!!!」


今度は天使が巨大な鎌を斜め下から、レドの身体を貫くように思い切り振る。


そして・・・。


バキィィィイイインッ!!!


とガラスが割れるように、その鎌も粉々に砕け散った。


「は・・・ぁあ・・・!?」


天使は驚愕したが、まだ攻撃を終えるつもりは無いようで、今度は空に飛び上がって、右手を空に掲げて詠唱を始める。


「天を裂き空を統べる神の道、悪を滅する光は天より落ちる!裁きを与える極光よ、導け!【天刑】アイテール」


高出力の極太レーザーがレドの頭上から降り注がれる。


「うおっ!?」


「ッ…!!?」


直視できないほどの光量に、誰もが目を覆う。


揺れる大地、震える大気、激しい暴風に輝く極光。


十秒ほど天から光が降り注いだ後、光や揺れがゆっくりと収まる。


果たして光が堕ちた場所には、直径10mほどの空洞が生まれていた。


底が見えないほどの暗闇。


レドの姿は見えない。


「なんつうエネルギー量だ・・・。計測出来なかった・・・。ていうかやっぱあれマナエネルギーか」


ヒーローはそう呟く。


これはあの悪魔も消滅しただろうと、誰しもがそう思ってしまったが、もちろんレドは普通の悪魔では無い。というか悪魔では無い。


ぽっかりと空いた空洞から、ひとつの影がゆっくりと浮かび上がる。


着ていたアロハシャツが消滅したレドが、腰に手を当てながら戻ってきた。


「・・・おい、どうしてくれるんだよあの服。結構お気に入りだったんだぜ?」


どうせ0円で、しかも作ろうと思えば無限に作り直せる物を、あたかも大事にしていたものだったかのように言う。


「裸になる覚悟は出来てんだろうな・・・?」


ギロリと天使の方を睨む。


「馬鹿なっ!?アイテールを食らって生きているだと!?」


天使は動揺した。


天使の使った技、【天刑】アイテールは、悪魔を滅する最上級の技である。


口上がそこそこあり、空というワードから上を警戒されればあまり当たらない微妙な技であるが、直撃さえすれば基本相手は消滅するという絶対的な技であった。


更に、周囲の被害も考えて、一点集中で範囲を狭めた高威力型にしたのだ。


これで無傷という事有り得ない。あり得るとすれば、相手が天使か神という善の存在でなければ、耐える事など不可能。


だがあの見た目で善の存在なわけが無い。


そもそも善の存在だとしても、耐えられるのは極わずかで…。


「有り得ない・・・。一体何者なn・・・」


天使は確かめるべく両手で輪っかを2つ作り、その輪っかから悪魔を覗き見る。


(ちょっと見せびらかすか)


瞬間、目に飛び込んでくる圧倒的極光。


先程の技とは比べ物にならないほどの輝き。


光の奔流が天使の目を焼き付ける。


ジュッ


「ぐあああああああああああああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!??目がぁ!!!目がああああぁぁぁっっ!!!!!」


天使は目を両手で覆って、地面に堕ちて転がり出す。


悪魔、つまりレドが光っている訳では無い。


勿論光を出す類の魔法を使った訳でもない。


天使が間違えて太陽を覗いた訳でもないが、実質太陽を覗いたに等しい。


レドは神ではないが、悪魔でも無い。


そして神ではないものの、その魔力は普通の神を圧倒的に凌駕している。


天使が見たものは魔力そのもの。


普通の魔力を見る分には何も問題は無い。


相手の魔力を見れば相手が善か悪か、はたまた神か人間か、天使は簡単に見極めることが出来る。


魔力を見るという行為は、部屋を明るく照らす電気を直視するという行為に近い。


普通の魔力を見る分には何も問題は無く、悪性の魔力の場合、吸血鬼が可視化させた黒いオーラのように見えるだけである。


例え善性で普通に魔力が強いだけの者や、普通の神を見た程度でも、それはLEDライトを直視するくらいで済む。


俗に言う後光のようなものに近い。


それでも充分眩しいのだが、レドの桁違いの善性魔力を見るという事は、部屋の電気をLEDどころか、太陽に置き換えたような程の違いがある。


それはまるで熱を幻視するほどの圧倒的な違いがあった。


それを直視した天使の目は、ちょっと溶けた。


天使以外の3人は、急に目を覆って地面に転がり出した天使に、なにやってんだこいつという視線を向けている。


「ぐっ!光魔法で私の目を潰すとは、中々やるわね・・・!でも残念ね!あんたみたいな邪悪な魔力、目で見なくとも感覚でわかるのよ!!!」


そう言って天使は、新しい巨大な鎌を魔力で生み出し、目を瞑った状態で襲いかかった。


邪悪な魔力を纏った・・・、吸血鬼に。


「うおおおおおぉぉぉぉおおおお!!!???」


間一髪でしゃがんで回避する吸血鬼。


あの瞬間しゃがむのが少しでも遅れていたら、首が切断か、脳みそがぶちまけられるところであった。


天使の猛攻は止まること無く、次々と連続で斬りつけてくる。


それを何度もスレスレで躱していく。


天使は目が見えないにもかかわらず、その斬撃の精度は極めて正確だった。


そして速い。


「な、なにするんだこの女!!!僕は悪魔じゃないぞッ!!!」


「声を変えた!?なんと卑劣な・・・!!幼子の声を出したところで、私は容赦しない!!!」


「あ!おい悪魔が逃げるぞ!!何すんだ!!あっちが悪魔だろうが!!!」


レドは興が削がれたのか、「まぁいいか」と呟いて亜空間から弁当の入ったバッグを取り出し、ハルへと届けるために足早に道を歩いて遠ざかっていく。


気持ち的には色々と会話したいところではあるのだが、今日はハルのお弁当を届けるのが主目的の為、流石に遅れるのはハルに申し訳ない。


その為レドは、普通に歩いて去っていく。


「あ?また怪人が出たぁ?面倒くせぇなぁ・・・。まぁでも、ここにいる方が面倒そうだ」


ヒーローもまた、通報の連絡が来たのか、どこかへと高くジャンプして飛び去って行く。


「しねぇぇぇええぇぇえええええ!!!!!!」


目が潰れた天使は、目が見えないにも関わらず、何度も首を狙った正確なスイングで、ブンブンと鎌を振り回してくる。


(クソ、なんなんだコイツ!天使の羽が生えてる癖に死神みたいな鎌振り回しやがって!あ、)


お気に入りの帽子が斬られた。


「クソ!!そんなに悪魔が倒したいなら、こいつらとでも遊んでろ!!!【悪魔の兵士ディアブル・ソルダ】」


1度大きくバックジャンプした吸血鬼は、地面に着く際にダンッと強く踵を踏みつける。


すると吸血鬼から伸びる影が異様なほど膨らみ、数メートル範囲が真っ黒い地面になる。


「来い!悪魔共!あの天使もどきをぶっ殺せ!!!」


地面の暗闇から頭の無い痩せこけた様な黒い悪魔が十数体生み出され、天使へと殺到する。


「はぁ!?もどきじゃありません!!私はれっきとした大天使です!!!」


襲いかかってきた悪魔を宙に浮遊しながら迎撃し、吸血鬼へ反論する天使。


「僕だって悪魔じゃなくて!れっきとした吸血鬼だよ!!!喰らえ!【鮮血短剣ブラッド・ダガー】!!!」


赤く染ったナイフを虚空から無数に空中へ生み出し、天使へと飛ばす。


天盾てんたて【イージス】!!!」


半透明な荘厳な盾を目の前に展開する天使。


【鮮血短剣】は全て【イージス】に防がれる。


頭の無い悪魔がその盾を回り込み奇襲するが、天使は手に持つ鎌で瞬時に切り伏せる。


(くっ、邪悪な魔力が複数に増えている。目を回復させなければ)


治癒クラティオ!」


空いた手を目元に当て、回復魔法をかける。


手を離しゆっくりめを開けて、攻撃を避けながら目の状態を確認する。


「よし!見える!」


そう言って頭の無い悪魔を、空中でひたすらに狩り続ける。


その光景を地面から見つめる吸血鬼は思考する。


さっきのタフな悪魔は明らかにヤバいのだが、それを置いてあの天使も結構ヤバい。


先程の光の柱のような攻撃は、自分がまともに喰らえば恐らく消滅してしまう。


(さっきの悪魔への攻撃、自分が食らっていないのにも関わらず、あの光の余波を浴びただけで、全身が勢いよく焼け爛れた。急いで血の膜を周囲に張って防いで回復したが、あの攻撃を自分に撃たれたら確実に負ける・・・)


「逃げ一択」


吸血鬼は高速道路の影へと飛び込み、姿が消えた。


「さぁ!悪魔もどきは全部倒しましたよ!第2ラウンドといきま・・・。あれ?あの悪魔は・・・?というかさっきの赤いスーツを着た悪魔も、邪悪なオーラを纏った子供もいませんね・・・」


(確か子供の方は吸血鬼と言っていた気がしますが・・・。あれ?さっき戦っていた相手も吸血鬼と言っていたような・・・。いや、あの悪魔が子供に化けて、戯言をほざいたのでしょう。おのれ悪魔め!)


天使は拳を握りしめ、空を睨んだ。




【TIPS】

善性、悪性の魔力が有るのだが、それは単なる魔力の色違いなだけであり、言うなれば黒人と白人などの人種の違いのようなものに過ぎない。

要はこの天使の差別意識が強いだけであり、悪性の魔力を持っていても、優しい者はいるし、善性の魔力を持っていても、悪い性格の者もいる。




ーーーーー




(近づいて来ている・・・。なにかとんでもない者が・・・)


佐藤リネは、先程から魔力の波動を感じ取っていた。


怪しい気配が4つ集まっていたと思ったら、その内の1つがゆっくりとこちらへ近づいてきている。


それもその中で一番ヤバい奴がだ。


一瞬だけ桁違いの魔力を感知したが、その桁違いの魔力を発した化け物が近づいている。


今は押えているようだが、アレはやばい。


私の存在が気付かれた?


いや、私の魔力は視認できないほど微弱に抑えている。


気付かれたとは思えない。


たまたま・・・?


偶然こちらに来たという可能性は・・・、無さそうね・・・。


膨大な魔力の根源が、このビルの真下にまで来ていた。


「あ、丁度来たみたい。それじゃあちょっと下に行ってくるよ」


そう言って隣の山田先輩が、わざわざ私に伝えてくれる。


(いや今は危ない!!!)


「や、山田先輩!」


「ん?どうしたの?佐藤さん」


「あ、いえっ、そのっ、ええと、その・・・、わ、わたしもついて行きます!」


リネは覚悟を決め、何があっても先輩だけは守り抜くと心に誓った。



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