#10

しばらくして脱衣場の扉が開く。

シャンプーとボディソープの混ざった香りがリビングに広がる。

俺は彼女を直視しないようにスマホに視線を落とす。

そっと彼女が隣に座る。

『さっきはありがと…助かりました…』と言う。

「あ…いや…とんでもごぜぇません…」緊張でまた言葉が変になる。

『ふふ…ねぇ、ドリップコーヒー飲みません?』と言う彼女。

「あ、お願いします…」と緊張で更によそよそしくなってしまう。

数分後、コーヒーが運ばれてくる。

「いただきます…」

また2人の言葉が被る。

一口飲み『ふぅ〜』と息を吐く。

時計の秒針の音と、コーヒーの匂いが部屋を包んでいた。


ほぼ同時にマグカップが空になる。

「俺が洗うよ、そろそろカレーも熱が取れたから鍋を冷蔵庫に入れるから、そのついでに…」と彼女からマグカップを受け取り洗う。

洗い終わった後にカレーの入った鍋を冷蔵庫に入れる。

「よし!終わり!」と言い彼女の隣へ戻る。

相変わらず部屋は時計の秒針の音が響いている。

何をするわけでもなくただ静かな時間が流れる。

彼女をチラ見するとウトウトしている。

「寝るかい?」と声をかけると

『うん……寝る……』と言いベッドへ向かう。

その時に俺の手を引く彼女。

「あ……俺はソファで……」と言いかけた時彼女の細い指先が、喋るのを阻止するかの様に俺の口元に触れる。

『お願い…何も言わずこっちへ来て…』と手を引っ張られる。

『はい、そっち行って』と角へ追いやられる俺。

彼女は俺の隣に来ると俺の腕を伸ばす。

そのまま腕枕にして眠ってしまった。


…その日俺は、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

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