第7話囮は愚かに時間を止める

教授は大学の学食でコロッケ定食を注文していた。

後ろに学長が並ぶ。

「いやー教授どうですか?なにか色々あったとか…。あっ僕にも同じものを」


学長もコロッケ定食が好きだ。


二人は窓側の角のテーブル席に座る。


「そうなんですよ。大変でした。私…いろいろあって離婚して。

隣の駅にあるボロアパートに引っ越しして。とんだ災難です。

それとここだけの話。

私…犯人を見たんですよ。

経緯は詳しくは言えないですけど。

そしてその特徴をかなり思い出したものですから…。

当然顔とかは見てないですけど、今の警察は特徴だけでも

かなりわかるらしく…。

ただね。まだいま体調が悪いので、今週末にでも。伺おうと思ってます。

本当に誰なんでしょうね」


「ほぉそれは興味深いですね。また話を聞かせてください」


そう学長はいうと

急に用ができたと、足早に学食を去っていった。


―――――――――――――――

教授はコロッケ定食を食べながら

教授は人生最後のステージを作ろうと決意した。

彼はその昔…

ミュージシャンになろうとしたこともあった。


しかし家系がそれを許さなかった。

いや正確には

家系に許してもらうことのできない自分を許さなかったのだ。


本気でやるなら

息子のように家を出ればいい。

そう気が付いたのは

息子たちが家を飛び出してからだった。


教授はありってかの知能をしぼり

罠を考えた。


恐怖の主を捕らえ

光のもとにさらけ出す罠


それを構築した。


かかった費用は12万5800円―――


生涯研究に費やした男の晴れ舞台は

12万5800円で組みあがった。


ネット経由で状況を録画し保存し、

なにかあれば警察に通報する仕事をネット経由で集めた。


そして計画を刑事にもメールで伝えた。

すぐさま自宅を訪れてきたが出なかった。


メールには最後にこう書かれてあった。


私のほうで状況を録画しネットで公開する。

一応監視役をバイトで雇い

なにかあれば通報するようになっているが、

バイトが見逃す危険もある。

できれば私をネットで監視しておいて

犯人逮捕の証拠にしてくれ。

別に守って欲しいとは言わない。



刑事は上層部にもこの件を伝えた。

教授と協力して犯人を捕まえる案も出たが…

危うすぎると却下された。


「民間人を巻き込んで失敗したら、誰が責任を取るんだ?」

それが大半の意見だった。


基本的に任意の協力者を囮として使う事はほぼありえない。


法的な保護責任と、安全確保の義務があるため、

たとえ本人が希望したとしても、命の危険があるなら拒否するのが

当然の帰着だ。




そして下手に教授と接触をすると

犯人逮捕を逃してしまうかもしれない。

犯行が連続で行われたものであるならば

それこそ問題だ。




内部でもかなり揉めたが

静観することとなった。

教授のたっての希望でということで

話は落ち着いた。


実際

教授は誰もあてにはしていなかった。

自分のことは自分で処理する

そういう男だった。


「男気があるのか…堅物なのかよくわからない」

刑事は言っていた。


そして

「あいつは悪い奴じゃねーよ。それは俺の勘がそうだと言ってる」

そう後輩に漏らした。



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