第6話すべてを捧げる。

それから教授はあちこち走り回った。

離婚の手続き、家具などの処分、

そして家の売却など…


教授は風呂ナシトイレ共同のボロアパートにうつりすんだ。


売却代金をカバンに詰め

A子の父親のアパートに向かう。


古そうなワンルームマンションだった。


A子の父親は

ぼさぼさの頭で出てきた。


「取材なら5万円な…。


うん?なんだあんたは…」


教授は身分を明かす。


「なるほどな。まぁじゃああがってくれ」


部屋に案内された。


部屋は酒とタバコのニオイで充満していた。


「A子はいい子だったよ。それがあんな形で亡くなるとは…」

と悲しむ父親


しかしそこには少しの演技のニオイがした。



教授は早々に立ち去ろうと

持ってきたお金を父親の前に積む。


父親の目の色がたしかに変わった。

こころなしか

口元が緩んでみえる。


教授はこれまでの経緯を説明する。


その説明に一瞬…顔が引きつったが


「なるほどな。それでこれが詫びってことだな。

気持ちはくんでやろう。

ただな。

これで許したんなら、あのこに申し訳がたたねぇ。

いちどそこで土下座しる」


教授は

狭いワンルームの土間で土下座をする。


父親は教授の頭を踏みつける。



そして…


「Ok許してやるよ。その変わりその顔を二度と見せるな。

このことも誰にもいうな。わかったな」


と怒鳴りつけた。


教授は一礼し、部屋を出た。

持ってきたカバンは空っぽだった。

それなのに――心は、まだ重かった。


そして…

教授は一応の謝罪を完了させた。


――――――――――――

その晩男はひさしぶりにスナックに通っていた。


ここ1年のつけを払うためだ。


男の住まいから2駅隣の商店街の一番奥―

目立たないところにその店はあった。


男は風呂に入り無精ひげをそり

服に汚れはないかを確認し店へ向かう。


店はカウンター席が8席と

テーブル席が2つのこじんまりとした店だった。


「ほら…待たせたな。つけ払いにきたぜ」


男は封筒に金を入れ、女に渡す。


「えーこんな大金…どういう風のふきまわし」


「いやーなに。ちょっとした臨時収入が入ったのさ」


「そうなの。ところでお嬢さん。亡くなったんでしょ。こんなところで遊んでていいの?」


「まーいいんだ。いいんだ。ほら。喪に服しているからひげもそった。それにあいつには生命保険かけてたからな。俺は困らない」


「すごい。悪い男」


「へへへ。お前はそんな悪い男が好きだろ」


「もうイジワル…」


「まー、アイツが死んだおかげで、借金も返せたしな。ラッキーだったよ」


「ひどーい!でも、男ってそんなもんかもね」


――――――――――――

その晩

教授の元妻は…

とある男とレストランで食事していた。


「すごいいいタイミングで、あれがヘマしてくれたの…。それで離婚届

書いてきたわ。これで私のほうは準備完了よ」


「ふふふ。それはよかったね。でもヘマって」


「それは秘密。あなたが結婚してくれてからね」


「あーそうか。いいだろう」


――――――――――――

その頃

教授の兄は…

ある男と料亭で談笑していた。


「しかし…本当に弟はやっかいなことをしてくれたよ。

僕の経歴に傷がついたらどうするんだ」


「しかし教授も悪いことずいぶんされてるじゃないですか。

お互い様なのでは。ふふふ」


「はは。だからだよ。あんな愚弟のせいで、私の財布がなくなっては困る」


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