第9話 天井のシミは数える必要がない(ユリ)
※下ネタ注意
世界最古にしてもっとも尊い女神様。ミュー様を知らない者は一人としていないことでしょう。
しかしどんな尊い神様も、何もしてくれなければ忘れ去られていくだけ。
いつの間にか教会は朽ち果て、シスターのなり手もなく、街の女神像が壊れても気にする人もいません。いえ、あの像は少しばかり刺激が強すぎて困るのですが。精通像とか呼ばれているので、とっても困るのですが。
そんな教会に、訳あって一人で勤めている私の人生は、昨夜突然滅茶苦茶になりました。
騎士団長様がわざわざ連れてきてくださったデカ女は、自分は女神だとあり得ないことをほざき、ズカズカと神聖な教会に上がり込んだ挙げ句、外の便所で信じられないことをしました。
信じられないこと…でした。
股間から見てはいけないものが生え、そして翌日の朝には自分で取り外して――――。
夢でも見ていたに違いありません。
私は職安で自称ミュー様を騎士団長に突き返すと、ほっとしながら教会へ戻りました。
歩いている途中で、やたら視線を感じたのはなぜでしょうか。確かに、自称ミュー様が何かわめいたら汚れがなくなってスッキリしましたが。
はぁ。
悪夢のような押し掛け女がいなくなって、一息つきながら水を飲みます。お金がないので水しか飲めません。
それもこれもあの自称女神様が悪いのです。せっかく出した食事を鳥の餌と言った怨みは生涯忘れないでしょう。
はぁ。
………。
…………。
その時、部屋の隅でガタッと音がしたのです。
まさか泥棒? ここにお金なんてあるわけないのに…と、音のした方向を見て、そしてすぐに目を背けました。
いえ、私は何も聞いていません。知りません。
………。
…………。
今度はさっきよりも大きな音が。
同じく部屋の隅、引き出しが置かれた辺りから何か聞こえたような気がしましたが気のせいだと思います。
………。
…………。
「あーもう!!」
三度目の音に、さすがに自分をごまかしきれなくなったのです。
はぁ。
重い足どりで、ほんのちょっとの距離を歩いて引き出しの前に。
そして、目を背けながらガタつく引き出しを開けました。
「ひいっ!!」
思わず悲鳴が。
………。
…………。
引き出しの中には、自称女神様が股間から外してしまって御神体とか言いやがった御神体が寝転がっています。
切り離されたのに血もついてなく、それどころか今にも小便が出てきそうなほどにそのままです。信じられません。こんな不浄のかたまりを、よりによって神聖なる教会に放置していくなど。
………。
…………。
動いています。
小便の出口の辺りが少し濡れていて、打ち上げられた魚のように時々ガタンと動きます。いったい何でしょうかこれは。さっさと捨てるべきではないでしょうか。
だけどあの自称女神は呪いの言葉を残して行きました。できれば触れたくありませんしせめて静かにしてもらえないでしょうか。
頭の部分にそう呼びかけてみましたが、返事はありませんでした。
バタンと引き出しを閉め、無視することに決めました。
動揺して日々のお勤めもできていません。
女神像の前の祭壇に水を供えて、跪いてただ無心に拝むのです。
そう、無心に拝んでいることが大事なのです。
ガタガタガタッ!
ものすごい音がしました。
なんでしょう、聞こえませんね。
え。
なんということでしょう。
引き出しが光っているではありませんか。そんなことありえませんよあるわけないですよ。
何度か深呼吸をして、一大決心をして引き出しを開けると、そう、御神体は目も開けられないほどに光り輝いていたのです。
ここに至って、私も覚悟を決めました。
「女神様、これはきっと女神様をご不快にさせる穢れた汚物でございます」
泉のように湧いてくる言い訳をブツブツ口にしながら、私は御神体を手に取って、そして祭壇に置きました。
御神体は生温かく、触れただけで身体の中まで穢れてしまいそうなおぞましい姿なのに、神々しい光を放っています。
「ど、どうすれば良いのでしょう。困ります…」
祭壇に置いてみたら、まるで女神様へのお供え物のようです。遠目には大きな芋虫のようですが、まさか女神様はお召し上がりになるはずもございません。
仕方なくまた持ち上げてみます。
だんだん光が弱くなってきて、おぞましい姿がよく見えるようになり、そして思わず手が震えました。
………。
お、落としてしまいました。
汚れた床に落ちた穢れた汚物を慌てて拾い上げて、どうしようやっぱり外の甕に捨ててしまおうかそれとも…と慌ててしまい、またポロッと落としてしまいます。
もう万策尽きた私は、元の引き出しに戻そうとまた拾い上げて、仕方がないので埃を落とします。
直接触れると何かうつりそうなので、台に載せて箒で汚れを落とそうと掃いてみます。
転がして向きを変えては掃いて、さあいよいよ引き出しに戻そうとした、その時でした。
私はあの瞬間を忘れることはないでしょう。
教会の悪夢として、できればなかったことにしたいのに。
「ヒッ、ヒイイイイイイイイイイイイッ!!!」
何度かのたうった御神体が台に生えたように立つと、その先端から白い液体が噴き上がりました。
とてつもない勢いで噴き上がった白いものは、天井に穴を開けそうな勢いで届き、少し遅れて教会内に降り注いできたのです。
イカ臭い教会を、私はただ逃げまどいました。
そして教会には大きな天井のシミが残ったのです。
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