第2話 女神は住処を見つけた
「くそぉ…ひでえ目に遭った」
話しかけただけで盗賊に襲われた上に、盗賊と一緒に捕まった俺は、そのままタニワとかいう街に連行された。
なお目隠しして荷車に放り込まれたので、楽しい道中は普通に地獄だった。というか、自分を襲ってきたゴミクズと一緒に護送って何の冗談だっての。
「すまない、どうやらこちらの勘違いだったようだ」
「謝って済めば医者はいらないんだよ!」
馬に乗っていた野郎――女だった――は、なんか偉い人の護衛で、あそこを通りかかったらしい。
その辺の話を聞いて、ようやく俺も事情が分かってきた。
要するに、その偉い人とやらを狙って潜んでた野郎に、背後からフレンドリーに話しかけたわけだ。つまり俺様が偉い人を救ったと言っても過言じゃなかった!?
「ま、まぁ…、賊が自分たちから姿を見せたことは良かったが」
「それどころか減ってただろ!? 俺は困った奴らを放っておけないタチなんだ」
「とてもそうは思えなかった」
「見る目がないってことだな」
「見る目はともかく、申し訳ないがいろいろ見えるのでどうにかならないか」
「あ……。そんなものは気にするな。女の裸なんて見慣れてるだろ? 俺は見慣れないけど」
「???」
鎧兜の女にしかめっ面をされて、仕方なく自分の身体を見たら、岩男Tシャツが破れてだいぶメロンがこぼれていた。
いやいやいや、これってほとんど縛られたせいだろ? 俺のせいじゃない…という言い訳は無理そうだ。
畜生、俺はこれでも女になったつもりはこれっぽっちもないんだ。絶対に男でござる。
「それで、貴殿は何者なのだ? 身分証明を持っていないようだが」
「身分証明? マイナカードは行方不明だぞ?」
「何を言っているのか分からない」
そりゃそうだろう、俺だって何言ってんのか分からない。なんだマイナカードって? 勢いでしゃべったのに記憶にないって、マジありえねー?
「聞いて驚け! 俺はなぁ、女神だ」
「すまない、しばらく監禁させてもらう。騎士団を前にこんなふざけた真似をする奴は初めてだ」
「俺だって人助けして捕まったのは初めてだぜ! 人助けしたのも初めてだ!」
「それは自慢することではないだろう…」
結局、犯罪者ではないが身元不明の不審者だというので、どこかへ移されることになったらしい。
おかしいな、天から落ちて来た女神という、これ以上ねぇぐらい身元はっきりなんだが、何度言っても騎士たちは聞きやがらない。
こんなばいんばいんな身体見たら女神だって分かるだろ? なあ? 岩神Tシャツだぞ!? Jリーグなめんなよ!?
「おい、あれは誰だ?」
前後を騎士団の連中に囲まれて、石畳の道を歩かされていると、見過ごせねぇ仏像があった。いや仏さんじゃなかった。
「おおおおお前、女神様を指差すなどなんたる不敬!」
「お前は婦警じゃないだろ。で、誰だ」
「ミュー様だ」
広場の中央に立つお大師さんみたいな像は、近寄ったら坊主どころか女だ。
脚が長いし胸はばいんばいんだし、なんかものすんごく見覚えがあった。
「なるほどな……そうか……」
「な、何をブツブツ言っている? 気味が悪いな」
「よし分かった!!」
「なっ、い、いきなり大声出すんじゃない!?」
「うっせえうっせえうっせえわ…って何だっけ、まぁいい、俺様はミュー様だ! 今すぐ跪け!!」
得意げに言い放ったら、なぜか汚物を見つめるような視線に晒された。
いやいやいや、そっくりだろ? あれは絶対に俺だ。俺じゃなくて女神だから俺だ。
そんなこんなで揉めているうちに、隣の鎧兜女が第三騎士団長だと判明したが、どうでもいいので省く。
とりあえず俺は、教会に行けば分かるとにこやかな顔で説得した。
クソ女神教会は、監禁先への道中にあるということで、渋々騎士団長様はお認めになられたわけだ。
「ここだぞ」
「はぁ!? 騙して監禁するつもりなのか?」
「似たようなものだ」
指差された先の教会は、石とか煉瓦とか鉄筋コンクリートの豪勢な建物のはずだったが、そこにあるのは風が吹けば桶屋が儲かるどころか普通に倒壊確実の欠陥建築だった。
………。
いや、自分にも分かったさ。
こんなぼろ家では監禁すらできないって。
「仕方ない、挨拶してやるか」
「本気だったのか」
「冗談言ってるようにみえるか?」
「ああ」
………。
俺はどうやらこの高貴な騎士団長様とは相性が悪いようだ。兜を外したら俺に匹敵する美人の可能性は否定できないが、ここまで被りっぱなしという時点で印象は最悪だ。こちとらメロンどころか股ぐらまで公開しそうだったというのに。
やれやれ、女神には生きづらい世の中だ…と、建て付けの悪い扉をそろりと開けた。
なんということでしょう。
みすぼらしい外観から一転、中は………、薄暗くてよく見えない。カビくさい。恐らくは予想を裏切らない。
「ど、どなたでしょうか」
そこにか細い声が聞こえた。
仕方ないな。
「女神だ!」
大声で叫んでやる。挨拶はいつでも大きな声で元気よく、だ。
「め、女神様ですか…」
若い女の声が聞こえた後、しばらく中は静まりかえった。
というより、背後で笑いをこらえてこらえてない音なら聞こえてくる。うるせぇ、女神が女神って叫ぶのは当たり前だろ? むしろ他にどう叫べって言うんだ。
やがて亡霊が現れた。
嘘だ。
燈明を掲げて現れた女の顔だけ、暗闇に浮いていただけだ。普通に怖い。
「あ、あのー、女神様でしたら間に合ってます。うちにはむしり取るような金もありませ…おわっ!?」
そうして近づいて来た女は、俺に向かって燈明をかざすと、いきなり慌てだしたのだ。
「めめめめめめめ」
「はなはなはなはな」
おかしなことを言い出したのでつき合ってみたら、後ろから小突かれた。
小突くなら俺じゃなくてめめめ女の方だろう、騎士団長め。
そうして。
「よし、今日からここに住むぞ!」
「な、何を勝手なことを! 貴方のようなううう…美しい方……」
「あの石仏そっくりだろ? 本物だぜ? ありがたやありがたやだぜ?」
「そ、そそそんなことはあり…あり……あ………るかも」
相変わらず慌てん坊の女を説き伏せて、ここを新たな住処とすることを決意した。
女神の家なんだから当たり前だのクラッカーだ。クラッカーって何?
「騙されてるぞ、シスター」
「時には優しい嘘も必要なんだ」
「お前が監禁されたくないだけだろう」
騎士団長は俺を拘束する気まんまんだったが、残念だったな諸君。女神に不可能はないのだよ。
なお、明日の朝には崩れて生き埋めになってそうなのはどうにかしたい。
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