4度目も勇者!?

八刀皿 日音

オープニング

いや何で日本に、魔獣やら魔法少女やらがいるの!?

 ……俺の見据える先で繰り広げられている、魔獣(っぽいの)と魔法少女(多分)の戦いは、魔法少女が防戦一方になっていた。


 今はまだかろうじて凌いではいるけど、このままだといずれ押し切られるのは間違い無いだろう――。



(――ここだな)



 魔法少女が、棒術に使うような長い杖状の武器で、魔獣の攻撃を受け止め――何とか距離を離した、そのタイミングを見計らって。


 一気に跳躍した俺は、両者の間に飛び降りた。



「え……? だ、誰――っ!?」


「下がってろ」



 俺という第三者の登場に驚く魔法少女に、そう言い放ちつつ前を見れば。


 魔獣は、いきなり割って入ってきた俺を敵と認識したんだろう――その赤く輝く眼が、鋭く俺を見据え……。

 そうかと思った次の瞬間には、とんでもない速度で飛びかかってくる。

 それは、普通の人間なら、きっとただでは済まない強烈な一撃。


 だけど――相手が悪い、ってやつだ。



「これ以上は……見過ごせないんでな」



 空を裂いて襲い来る魔獣を見切り、最低限の動きでかわしながら――すれ違いざま、聖剣を一閃。


 魔獣は、飛びかかった勢いのままに……俺の脇を抜けながら無数の光の粒子と化し、宙に消え散った。



「うそ……そんな、一撃で……?」



 構えを解き、そうつぶやく魔法少女を振り返る。

 俺の仮面越しの視線と、魔法少女のヘルメット越しの視線が――交わる。



「……あなたは……何者ですか……?」






     *     *     *



 ……そこから時間を遡ること、数分前――。



「……えええ、何これマジかよ、ありえないだろ……」


 やっと帰ってきた平和な日本……その久し振りの日常を満喫しに、ちょっとコンビニまでと夜の散歩に出かけてみれば。

 人気ひとけの無い高架下の空き地で――


 ゾウ並みにデカい、真っ赤なライオンて感じの〈魔獣〉っぽいのと……。

 近未来的というか、ちょっとメカっぽい衣装に身を包んだ〈魔法少女〉っぽいのが……。

 火花を散らし、戦う場面に出くわしたのだからたまらない。

 盛大なタメ息も止まらない。



「いやいや、ウソだろ……?

 じゃこういうの、創作物だけなんじゃないのかよ……」



 いっそスルーしてしまおうか、なんて考えが一瞬過ぎるものの……。

 多分中学生だろう小柄な魔法少女が、いかにも凶暴そうな魔獣相手に苦戦しているのを見てしまうと――。



「ま、見て見ぬフリは出来ませんよね~、勇者様の性格上」



 いきなり投げかけられた声に、俺は肩の辺りを見やる。

 そこには、少女騎士といった感じの格好した小さい妖精が――。


「ああん? 妖精じゃなく聖霊です、聖・霊! say! ray!

 ――たるんでるぞキサマ! 復唱しろ!」


「いやお前、ラップかぶれか鬼軍曹かキャラハッキリしろよ……。

 ――ああはいはい、せーれーな、聖・霊」


 妖精――もとい『聖霊』が、光る蝶の羽(これがまた妖精っぽい……言わないが)を使って浮かんでいた。


「何なら、敬意を込めて『大佐』とか呼んで下さってもいいんですよ勇者様?

 いやしかし、『軍曹』という響きも捨てがたい……むむむ」


「このゆるミリオタめ……誰が呼ぶか」


 黙ってりゃ十二分に美少女だけど、その容姿以外、色んなものがザンネンそうなコイツは――名をアガシオーヌという。

 何かの間違いみたいだが、俺が異世界で戦った際、さんざん世話になった聖剣……その力の行使を司っている、ホンモノの聖霊サマだ。



 ――そう。俺、赤宮あかみや 裕真ゆうまは――。

 こう言うとまたザンネンな人っぽいが……実は、異世界を救ってきた〈勇者〉だったりする。

 ……それも、何の因果か3度も。


 なので、もういい加減このテのトラブルとは無関係の、平穏な高校生活を送りたいわけなんだが……。



「――あの魔法少女っぽい子、助けに行くぞ、アガシー」


「イエス、シャー!」


「噛んでる噛んでる。サー、な。

 シャーてなんだ、ネコか」



 しかし……助けに入るとなれば、それはそれで問題がある。


 平穏な生活を望む俺にとって、厄介事に表立って関わるのは遠慮したいところで……そうなると身バレしないよう、顔や姿がすっぽりと隠れる全身装備を使いたいんだが――。


「……けどなあ……」


 何かないかと、異世界で『勇者用に』と与えられた、俺自身と同化している魔法の道具――『異世界のモノなら自由に出し入れ出来る』という、こっちの世界に戻ってくるとまるで役に立たない〈異次元アイテム袋〉を(感覚として)覗き込むも……。

 こぼれ出るのは、タメ息だけ。


 なぜなら……。

 世界を救ったあと、その再建費用の足しになれば――と、めぼしい装備や道具は軒並み寄付したので、中身はほぼほぼ空っぽだからだ。

 なので、入っているのは、ヘタに金に換えられないような貴重品か、ガラクタか、あるいは――売りようのない『呪われた品物』だけ。


 そして……俺の求める条件を満たせるのは、まさにそんな『いわくつき』の一品だけだったのである。


 ――異世界を冒険していたとき、何度も俺の前に立ちはだかった、名前も正体も不明な謎の魔剣士……。

 そいつが身につけていた、頭のてっぺんから爪先まで全身を覆う漆黒の戦闘衣だ。



「……それ、呪われまくってますけどいいんですか?

 一度でも身につけたら外れない――なんてことは無いですけど、装備中は状態異常に極端に弱くなるし、時間経過で体力をゴリゴリ削られますよ?」


「って言っても、コレしかないんだからしょうがないだろ。

 呪いは、聖剣のチカラで多少は緩和出来るだろうし――な!」


 俺は、アイテム袋に意識を向けて装備の変更をイメージ……それこそ変身するように、一瞬で全身に漆黒の戦闘衣をまとうと。

 続けて右手に、〈聖剣ガヴァナード〉を具現化する。そして――


「頼む、アガシー」


「シャー、イエッシャー!」


「……だからサーな、サー」


 〈剣の聖霊アガシー〉が、光となってその刀身に同化するのと同時に――魔獣と魔法少女が戦う戦場へと、向き直った。



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