その11:夢に出てくるぐらい好きって言ってみよう!

夜。

帰り道の坂を並んで歩く。

部活も委員会もない月曜の午後。ふたりの影だけが伸びていく。


「……今日、ちょっと静かだね?」


「……べつに。いつも通りだけど」


夏奈は前を向いたまま、ちょっとだけ早足だった。

私は、ふふっと笑って追いつく。


「じゃあ、夢に出てきたのは本当なんだ」


「はぁっ!? な、なに急に!?」


「ううん、昨日ね。紗帆、夢見たの。かなが出てきてさ、笑ってて」


「っ……」


「制服のままで、校舎の屋上。ふたりきり。風が気持ちよくて、髪がふわって揺れてて。紗帆、言ったの。“かなのことが、大好き”って」


夏奈の歩く速度が、ふっと止まる。

背中がぴくりと揺れる。


「……バ、バカじゃないの……夢にまで出てくるとか……っ」


「うん、バカかも。でもね、かなのこと考えてたら、自然に出てきちゃったんだもん」


私は、そっと夏奈の手に触れる。

今度は、彼女は手を引かなかった。


「……かなも、夢に出てきた?」


「……出てきたら何よ」


「出てきたら……それって、運命かも♡」


「……う、うっざ……ほんっとに、うざい」


でもその声は、震えていた。

耳が真っ赤で、口元が微かにゆるんでいて──


私の心のノートに、またひとつ、成功の記録。


『技その11:夢に出てくるくらい好きって言ってみる。

→ ツンデレ心を“無意識領域”にまで侵食。照れ+喜びの複合反応あり♡』


「じゃあさ、明日の夢も、一緒に見よ?」


「……見るわけないでしょ……ばか」


でもその声は、どこか期待しているようだった。

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