第18話 ジルの最愛の妹
リリスに部屋を追い出されたジルは気が気でなかった。
ネルニア王家には三人の王子と一人の王女がいる。
兄二人がいるジルの唯一の妹にして、誰よりも大事な存在であるコレット。
その妹の具合が悪くなったのは、年を越した頃からだった。
疲れやすくなり、食欲もなくなって、春にはついにベッドから出られなくなった。
もともと活動的ではなく、食も細い方ではあったが、今回の様子は明らかに異常だった。
王宮医師の診断でも原因は分からなかった。ただ、何らかの病気であることは確かだという。
可憐な小さい花のようなコレットが日に日に弱って行くのを見るのは、ジルにとって身が裂けるほどつらかった。
原因が分からないということは伝染病の恐れがある。万が一伝染病が蔓延して、その発生源が王家と知れると、民衆の不満が吹き上がる可能性がある。そのため、コレットは隔離し、病気であることは伏せられた。
そんな事情のため他の貴族を頼って医者を紹介してもらうこともできなかった。
だからといってジルは、黙っていられなかった。どうにかしてコレットを助けたかった。家族として、兄として。
ジルは行動することにした。
元々、熟考するよりも行動しながら考える。それで兄たちからよく、怒られるのだった。
じっとしていられない性格。
王宮医師でだめならば、庶民の医療に頼ってみよう。そう思い立ったジルは街へと出た。
学院に顔を出さなければならない。王家としての仕事もある。時間は有限である。早朝や夕方、休日しか治療方法を探す時間がない。それでも時間の許すかぎり従者のグイドを伴って、街を歩き回った。しかし、一向にコレットの病気に関する、良い情報は得られなかった。笑顔で門前払いをされる方が多かった。それは、ジルが貴族であることや、高圧的な態度が関係していたのだが、それが普通と捉えているジルにもグイドにもわからないことだった。
そんな中で、見ず知らずの老人を助けるリリスを見かけた。具合が良くなり、立ち去る老人を見て、なぜそれがコレットではないのか? 老い先の短い老人が助かり、これから未来のあるコレットは弱ったままなのか? そんな負の感情がふつふつと湧き上がり、思わずリリスにぶつけてしまった。正論で武装をして八つ当たりをしてしまった。
その八つ当たりをした相手が、まさか探し求めていた、妹を助けてくれる可能性がある者だとは……自分の軽率な行動を今更ながら後悔する。
だまされているのではないだろうか? 嫌がらせをされるのではないだろうか? そんな不安もある。シャーロットが連れて来なければ、おそらく怒鳴りつけて追い返していただろう。
そして、そんな相手が自分の見ていないところで、何をしているのか気になる。
だから、今、ドアに耳を当てて中の様子を聞いているのは、当然なことだ。そう言いきかせながら部屋の中に聞き耳を立てているジルにシャーロットの叫び声が飛び込んだ。
「リリスさん! あなた、何をやっているのですか!」
躊躇なく部屋に飛び込んだのは、ジルにとっては当たり前の行動だった。
「きゃー! なんで入ってくるのですか! 出て行け!」
ジルが部屋の中で目にしたのは、服を脱いでいるリリスだった。
さすがのジルも慌てて部屋を出る。
シャーロットのように女性らしいふくよかではない。しかし、どこか目を吸い寄せられる美しい肢体だった。その胸の大きな傷もどことなくリリスの強い意志をもった美しさを感じた。
ジルは脳裏に焼き付いたその姿を思い出し、胸の鼓動が早まるのを感じて戸惑っていた。
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