第4話 マリウスの本性

 穏やかな昼食の時間は終わり、午後の授業のためにリリスたちが先に着替えに行ってしまった。そのあと、マリウスは昼食の片づけをしていると声をかけられた。


「おい、そこのちび!」


 声をする方を見ると、令嬢の従者たちがマリウスに近づいて来た。

 声をかけた男は伯爵令嬢カタリーナの従者、残り三人がリリスと同じ子爵令嬢の従者である。カタリーナを中心としたグループは、学院で二番目に大きい女性グループであった。

 そんな従者たちには面倒ごとの匂いしか感じなかった。そのため、マリウスは無視を決め込んで片づけを続ける。


「こら、無視をするな!」


 そう言ってマリウスの肩を掴み、無理やり振り向かせると、手に持っていた皿の上に乗ったパイくずが伯爵令嬢の従者の服に飛び散る。


「貴様! 何をする」

「すみません。でも、あなたが急に引っ張るからでしょう」


 マリウスはハンカチを取り出して、パイくずを払う。


「ふざけるな!」


 その見た目に反して妙に冷静なマリウスに、伯爵令嬢の従者は腹を立て、殴りかかってきた。

 大振りの素人パンチ。マリウスはあきれながら、それを難なく避けると、従者はバランスを崩して盛大に転んでしまった。まるでマリウスが避けるなど、彼らは思っていなかった。


「大丈夫ですか?」


 あまりに情けない倒れかたから、マリウスは心配をして手を伸ばす。


「田舎貴族の従者のくせに、伯爵令嬢の従者の私に手を挙げるとは! お前たち、やってしまえ!」


 尻餅をついたまま、取り巻く他の従者仲間に叫ぶ。それに呼応して三人がマリウスに殴りかかる。

 それを易々と避ける。そして、これ以上、付き合うのも時間の無駄だと感じたマリウスはその場を立ち去ろうとした。


「卑怯者! 逃げるな!」


 伯爵令嬢の従者は文句を言いながら立ち上がると、懐に隠したナイフを取り出す。その構えからただの脅しだとマリウスの目には明らかだった。しかし、ナイフを出された以上、マリウスも黙ってはいられなかった。やるなら徹底的にやる。マリウスは覚悟を決めた。


「お前ら、これ以上続けるなら……こちらも容赦しないが、いいのか」


 マリウスの雰囲気が変わったことに、従者達も気がついた。歴戦の戦士のような明確な殺気。従者達は明確にイメージできた。マリウスに近づけば殺されるという、未来のイメージが。


「ひぃ! こ、殺される」


 従者たちは我先にと逃げ出した。


「クソガキどもが……」


 マリウスはサリーの従者の少女がカップ類の片付けのために、この場にいないことにほっとしていた。気の弱いあの少女がこの場にいたら、腰を抜かしていただろう。その後、マリウスのことを根掘り葉掘り聞いてくるかもしれない。そうすればせっかく、リリスがマリウスに気を遣ってくれていることが台無しになる所だった。

 そしてマリウスは、あの従者達に対して、脅しすぎたと反省した。

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