第8話 絆技VS必殺技

 零奈とヤエが同じタイミングで目を閉じた。集中している様子は、息までぴったり重なるようだった。


 すると、二人を取り囲むように風が巻き起こって——


『必殺技ゲージ最大値に到達——解放条件、満たされました! 必殺技、使用可能です!』


 零奈のバトルギアからアナウンスが流れた。


 ——零奈の奥の手は必殺技か……


「零奈って本当にすごいな! 必殺技をそんなにすぐに出せるなんて、すっごく練習しないとできないよ!」

「と、当然でしょ」


 と言った零奈の顔が赤くなっている。


「……私だって、負けるのは嫌なの。ヤエが傷つくところを見たくない。だから必死に頑張ったんだから」

「俺も一緒だ! 一生懸命練習した零奈の気持ち、俺にはちゃんと伝わってる。でもそれは、ヤエが一番わかってると思うぜ」


 零奈がヤエのことを見ると、ヤエは零奈の顔を見て笑った。


「ねっ、言ったでしょ? 努力は裏切らない——ちゃんと、認めてくれる人がいるってね」

「……そうね」


 零奈は目を潤ませながらも、腕でそっと拭って、真っすぐ俺の方を見た。


「だからこそ、アンタには負けないわ!」


 零奈の気迫に身体がビリッとした感じがした。


 絆技と必殺技のぶつかり合い。


 ——すっげえ、戦いになりそうだ……


 つばをゴクッと飲み込んでから、バトルギアを見ると『絆技使用しますか?』と表示されている。


 技の名前は『絆炎斬波(ばんえんざんぱ)』。


「それは……剣城くんと僕の、強くなりたいって気持ちがひとつになった技なんだ」

「俺と……ユキトの気持ちが……」


 言葉を噛みしめると、胸が熱くなってきた。


「だから——僕と一緒に剣を持ってほしい。剣城くんと僕の絆を剣にのせて打ち出すために!」


 差し出された剣を見つめて、驚きと嬉しさが一度に押し寄せた。


 今まではユキトが戦っているのを見ているだけだった。だけど今は一緒に戦える。


 俺は、ユキトの剣をそっと握った。


 重みがある。でも、ユキトの手が支えてくれるから大丈夫だ。


 それに、すげえ——


「あったけえ……ユキトの気持ちが伝わってくる」

「後は——って、言わなくても大丈夫だね」


 俺は頷いた。


 ユキトの気持ちは、剣を通して分かる。


 後は、最後まで諦めないで一緒に戦おう、ってユキトは言おうとしていた。


 もちろんだ、って心の中で思うとユキトは笑ってくれた。


「あっちも準備万端みたいだね。ヤエ、私たちもいくよ! 必殺——」


 ヤエが構えを取った瞬間、空気が一変した。ヤエの周りに、ピンクの花びらが広がっていく。


「——百花繚嵐(ひゃっかりょうらん)ッ!」


 花びらが渦を巻いて、ヤエがその中を踊るように駆け出す。目にも留まらぬ速さで、向かってくる。


 さっきまでだったらちょっと焦っていたかもしれない。だけど、今はユキトが一緒だ。だから、全然怖くない!


 言葉にしなくても、今はユキトと繋がっている。だから、顔を見合わせて頷いた後で俺はユキトと叫んだ。


「「絆炎斬波ッ!!」」


 振り下ろされた剣から、炎が飛び出した。炎はまるで、龍のような形になって大声で鳴きながら、ヤエに向かって一直線に突き進んでいく。


 炎と風の渦が激突した瞬間、まぶしい光で世界が一度、真っ白になったかのように感じた瞬間、ドンッと体が浮きそうなくらいの衝撃が、フィールド中に広がった。


 炎の渦が消え、花びらがゆっくりと降りてくる。


 立っているのが辛くなって、ゼーゼーと息を切らして俺とユキトは地面に座り込んだ。


 対面には、まだまだ余裕そうな表情で笑っている零奈とヤエ。


「……すっごい。私たちの必殺技を受けて、まだ動けるなんて! こんなに楽しいバトルはいつ以来かしら!」


 零奈のその言葉に、俺の胸がジーンと熱くなる。


 ——よかった、零奈すっごく嬉しそうだ!


「もっと続きを——」


 頷いて立ちあがろうと思ったけど、身体が思うように動かない。


 ——だめだ、もう動けないや。


 全身がぽかぽかして、力が抜けていく。目を閉じると、ふわっと空を飛んでいるような気がした。


「……剣城くん、僕、すごく楽しかったよ……」


 隣で聞こえたユキトの声も、どこか夢の中みたいだった。


「俺もだ、ぜ……」


 零奈たちの笑い声が、だんだん遠くなっていって——

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