【40,000PV突破御礼】古医術で診療所やってたら医術ギルドに潰されそうになり、闇バイト先が魔王軍で魔族たちに溺愛されてます(R15)
第56話 最強の軍神が寂しがり屋すぎて、俺は今日も彼女をぎゅっと抱きしめる
第56話 最強の軍神が寂しがり屋すぎて、俺は今日も彼女をぎゅっと抱きしめる
魔王軍第七戦団の竜将軍、アスリナ・ヴァル=ゼグラードからの手紙が届いたのは、ヴェレムの訪問からさらに二日後、リリスの婚姻の儀が間近に迫っていた頃だった。
「大事な用事がある。すぐきてくれ」
それだけの短い文面。
俺は思わず呟くように声に出した。
「大事な用って……一体何があった?」
頭上から、飛竜レオナルトのくぐもった声が返ってくる。
『わからん。そこまでおかしなことはなさそうだがな』
「再編は?」
『順調だ』
けれど、それだけで十分だった。
アスリナは大事な──
どうカテゴライズすべきかは、正直よくわからない。
けれど、俺にとって大事な存在であることに、変わりはなかった。
飛竜の鱗が風を裂く。
真紅の大翼を広げ、レオナルトが空を駆ける。いつものように、俺を乗せたまま――律儀に竜将軍の本拠地までの空路を辿っていた。
砦が見えてくる。空にそびえる尖塔と、整列する兵士たち。
さすがは軍神の居城。
息を飲むほどの威容。
着陸と同時に、衛兵たちが一斉に敬礼を送ってくる。
驚くべきは、その種族の多様さだった。
黒き角を持つ重装歩兵に、蝙蝠のような翼を広げた斥候。
水棲型の魔族が水路を守り、獣人の小隊が地を駆ける。
中には半透明の身体を持つ幻影種や、精神干渉に長けた高位悪魔も混ざっていた。
性質も、外見も、言語すら異なる魔族たちが――
アスリナの指揮のもと、まるで一つの意志のように動いている。
(……やっぱすげえな、こいつ)
ただ強いだけじゃない。
これだけ異質なものをまとめあげる力が、あいつにはある。
鋭く、無駄のない動きだった。
整然と動く兵士たちだけではない。無駄のない導線。竜の厩舎も、弓兵の塔も、隙のない配置で完璧に機能している。
その中央。真紅の甲冑を纏い、風の中に立つアスリナの姿があった。
彼女は何も言わず、少し得意げな視線だけをこちらに送ってきた。
──自慢げなのがバレバレだ。
それがまた、可愛いと思ってしまうあたり、俺も相当毒されているらしい。
だけど、やっぱすごいな、こいつ。
「よく来たな、セレン」
二人きりになったところで、ようやく聞いてみる。
「……大事な用って?」
「寂しくて死にそうだった」
か、可愛い……!
誰より強く、誰より不器用で、誰より──寂しがり屋な女だ。
俺はそこまで、誰かの仕草や言葉にころっと落ちるようなタイプじゃない。
でも、こいつのギャップだけは、どうしても刺さってしまう。
思わず、にやけそうになった口元を手で押さえた。
やばい、ちょっと顔が緩んでる。
そのまま、彼女は手を引いて俺を奥の部屋へと導いた。
厚い扉が音を立てて閉じると、外の喧騒がぴたりと消える。
鎧を脱いだアスリナは、驚くほど静かな手つきで、俺のために椅子を引いてくれる。
「……今日は忙しくないのか?」
「忙しくない時間を作った。お前のために」
そう言って、彼女は隣に腰を下ろす。
金色の瞳がこちらを見つめてきて──俺の心臓が、どくんと鳴った。
「ほんとに、寂しかったのか?」
「うむ。何をしていても、お前の顔が浮かんで集中できなかった」
「それ、戦団の再編中に言うセリフじゃないぞ……」
「再編はもう済んでいる。今は、お前の顔を見る時間だ」
そんなことを真顔で言われたら、もう何も返せない。
ふたりの距離がじりじりと近づいて──
「……触れてもいいか?」
囁くような声に、こくりと頷いた瞬間。
あたたかな指先がそっと頬に触れた。
その温度だけで、全身がとろけそうになる。
けれど、俺の中にある熱は、いつものそれとは少し違っていた。
こいつは今、発情期じゃない。
ただ、抱きしめようと思った。
ゆっくりと、俺は腕を伸ばして、彼女の身体をそっと引き寄せた。
「……どうした?」
戸惑いの混じった声。けれど、拒まない。
俺はそのまま、彼女を抱きしめた。
「ありがとう」
その一言に、アスリナは静かに頷いた気がした。
最後に、頬にそっと口づけを落とす。
やわらかくて、あたたかくて、名残惜しくなるほどのキスだった。
そして俺は、静かに立ち上がる。
「そろそろ戻るよ。次は――リリスの婚礼の儀かな」
「……そうだな」
短く、けれど深い言葉。
ぽつりと、声がこぼれた。
「早くリリスを奪還して……みんなでのんびり暮らしたいな」
その背に、静かな声が返ってくる。
「必ず、取り戻す。──そのあと、お前の隣で眠る」
振り返ると、扉の向こうに立つアスリナの姿があった。
その目は、誰よりも強く、そしてあたたかかった。
***
もし面白ければ、★をつけていただけると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます