第27話 あの柔らかさに動揺しつつ証拠を集めていたら、気づけば魔王軍に連行されていた件

──これで、ようやく医術ギルドと魔族戦争派の癒着を証明できる。


焼け跡から見つかった万能薬セラノクスと、仕入れ記録。

俺は勇んで診療所に戻った。


それらはすべて、《アンドルム交易商会》へと繋がっていた。

人間と魔族の中立商会──その実態は、利権の隠れ蓑。


診療所に戻るなり、ラナが俺にぴたりと寄ってきた。


「……なんか、人間のにおいがする〜」


そう言って、俺の胸元に顔をうずめるようにして、深く息を吸う。

柔らかな感触が、無防備に押しつけられて──一瞬、思考が止まった。


「せんせぇ、なんか隠し事してない?」

「……してない」


声が少しだけ裏返ったのに、ラナは気づいていない様子で、

胸に顔を押しつけたまま、じと目で上目づかいに睨んでくる。


その仕草が妙に可愛くて、でも困るくらいに近くて、

息を整えるのに、少し時間がかかった。


「……せんせぇ、ちょっと顔赤いよ?」

俺は無言でラナを引きはがした。


気を取り直して、俺は調査の最終確認にとりかかった。

この証拠があれば、誰も言い逃れはできない。


──そう、信じていた。

──その瞬間だった。


背後に、気配。

振り向くより早く、数人の魔族兵に取り囲まれた。


「古医術師セレン、そなたを反逆の疑いにより拘束する」

「……へ?」


思わず間抜けな声が漏れる。


そんなはずはない、と頭ではわかっていた。

証拠はある。

真実は、俺の手の中にある。


──それでも、喉がひゅっと狭まった。

手足が冷え、背中を嫌な汗がつたう。


死ぬ、かもしれない。

そんな予感が、首筋を撫でた。


俺は、かろうじて胸ポケットの薬瓶に触れる。

震える指先に、現実だけが冷たく突き刺さる。


抵抗しても無駄だろう。


「……わかった」


自分でも驚くほど弱い声だった。


すぐ背後には、ラナの気配。

だが、俺はそちらを振り返らず、ただ静かに首を振った。


──来るな。これは、俺一人で行く。


ラナは気配を殺すようにその場に留まり、俺もまた、両手をゆっくりと上げた。


***


連行される途中、ふと視線を上げる。

岩丘の高み、木立の間──そこに、飛竜レオナルトの影があった。


ラナがその背にまたがり、こちらを見ていた。

視線が合い、彼女はそっと、小さくうなずいた。


──任せて、というように。


胸の奥に、かすかな灯がともる。

恐怖に支配されかけていた心に、わずかなぬくもりが戻ってきた。

俺は足元を見つめ、ひとつ深呼吸してから──


ゆっくりと、歩き出した。


***


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