最終話:名付けるなら
「・・・あれ、ここは・・・?」
目を覚ますとそこには、見覚えのある白い天井があった。
「あっ起きたよ!」
「に、兄さん大丈夫・・・?」
俺を囲んでいる6人の人物が、俺を上から見下ろしてくる。
その人物の顔と服装は俺のよく知っている制服と教員服だった。
「大丈夫かい?」
「ここは、学校か・・・?」
「ああそうさ、ようやく気がついたんだね」
頭の後頭部がズキズキする、まるで寝過ぎた日のようだ。
「・・・俺、今何してたんだ?確かついさっき、お前らと世界の崩壊を修復して・・・」
そう俺が言った瞬間、みんなが一瞬キョトンとした顔をして、笑い出した。
「あはははははっ!!!何言ってるの?異世界漫画の読み過ぎだよー!」
「兄さんはついさっき、足を滑らせて机の角に頭の後ろをぶつけたんだ。それから声をかけても反応がなくて・・・」
「・・・は?」
「まったく・・・心配させるでない!妾たちは、ずーっとここで心配しておったのじゃぞ!」
俺は困惑する。
ついさっきまでこいつらと似た奴らがいるパラレルワールドにいて、今度は元の世界に戻ってきた?
でもこいつらがいうには俺はここで意識を失ってたって言っている。
ていうことはつまり・・・。
「・・・今までの、全部夢か?」
「何の夢を見ていたのかは知らないが、それはおそらく幻想の中で繰り広げられた遥かなる物語だろう」
「そ、そうなのか」
夢にしては結構リアルな物語だった気がする、そして今思い返すとなんとなく既視感のある夢だった。
こいつらが俺の夢に出てきたのも謎だし、名前が違ったのも謎だ。
だが俺はその前に無事に元の世界に戻ってこれたと感じて少しホッとし、ため息をつき、ふと友人らの方に目を向けた。
「心配させて悪かった・・・な!?」
その瞬間、俺は一瞬で目が覚める。
「ちょ、それ!?」
「あー、このノートのことかい?君が起きるかなーと思って、僕らで読み聞かせてたんだ」
友人が手に持っていたノートとは、俺が秘密裏に書いてた異世界転移小説のノートだ。
そうだ思い出した、今までの話を知っている気がしたのは、俺が書いた小説だったからで、登場人物が知り合いの見た目をして名前が違ったのも、俺が俺たち7人をモデルにした登場人物を登場させたからだ。
そしてその夢を見たのはこいつらが俺にその小説を読み聞かせていたから。
『・・・ん?待てよ?俺に読み聞かせていたとなると、こいつらもこの物語を読んだことに・・・?』
俺は一時的に脳が停止したが、すぐに今の状況を理解し、自身の顔と耳が赤くなるのを感じだ。
「お、お前らあああああああああ!!!」
俺は勢いよく飛び起きて、俺を囲っていた友人たちから本を奪い、やがて追い回し始めた。
「お前ら!!!よくも俺のノートを!!!読むなって言ってただろ!!!」
友人らはやばいことを察し、教室内を笑顔で逃げ回る。
「あははははっ!もう読んじゃったから遅いよ〜!」
「逃げよ・・・」
いつも通り元気な少女と暗めの少女の友人が教室からそそくさと逃げていった。
「まさか優斗が小説を書いてるなんてね〜・・・よっ!妄想家!」
「ふっふっふ・・・実に興味深い書物だった!」
ニヤけてる友人とカッコつけようとしている友人が教室からささっと出ていく。
「うわああああ!?に、兄さんから逃げろおおおお!!」
「こら!狭い教室内を走るでない!」
俺にそっくりな兄弟は慌てながら、背の低い女教師はゆっくりと教室から出た。
「・・・くそっ」
俺は机を勢いよく一回叩き、その場で一旦深呼吸をした。
「スーッ・・・ハー・・・」
教室にはエアコンの音とカーテンの揺れる音が響き渡る。
今までの出来事が夢だとはいえ、無事に元の世界に戻ってこれたと感じ、心の中で少し喜ぶ。
そして少し落ち着いた俺は、環境音と比べもののにならない大声で、こう叫ぶ。
「お前ら待てええええええええええっ!!!!!!!」
俺はその瞬間、夢で見たものからここまでをを一つの物語にしようと閃いた。
この物語に名前をつけるなら・・・「俺は勇者でその他はクセつよ」とかだろうか。
想像するだけで面白い小説が書けそうだと考えたが、まずは見るなと言っていたノートを勝手に見た友人たちをしばきにいこう、そう思った。
そして俺は教室を走って飛び出した。
【カクヨム甲子園2025ロング部門応募作品】俺は勇者でその他はクセ強 ろったりか @korokoro8
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