第3話 慣れと新たな感情の芽生え
悠人の下宿生活は、葵という予測不能な要素によって、常に波立っていた。毎朝の添い寝、突然のキス要求、そして風呂場での攻防。最初はぎこちなく、羞恥心に苛まれていた悠人も、葵がまるで呼吸をするかのように自然にそれらの行動を繰り返すにつれ、次第に「慣れて」いった。
ある朝、目覚めると隣に葵がいた。彼女の柔らかなショートヘアが悠人の頬をくすぐる。昔はこんなにも近くに肌を感じるだけで心臓が破裂しそうだったが、今ではその温もりが、むしろ当たり前のように感じられるようになっていた。葵の寝息が聞こえ、悠人はゆっくりと彼女の寝顔を見つめる。無邪気で、どこか幼さを残したその表情は、日中彼を翻弄する大胆な葵とは別人のようだった。
(慣れるって、怖いな……)
悠人は心の中で呟いた。同時に、この「慣れ」が、単なる諦めではないことに気づき始める。彼の心の中に、葵への警戒心や困惑とは異なる、温かく、そしてどこか切ない感情が芽生え始めていたのだ。それは従妹としての親愛の情だけではない、異性としての「特別」な意識だった。すらりと伸びた手足、Cカップの胸、ショートヘアの健康的な印象。バレー部で鍛えられたしなやかな体は、見るたびに彼の目を惹きつけた。
五月に入り、葵の誕生日が近づいてきた。悠人は大学の授業の合間や、家庭教師の準備の傍ら、葵へのプレゼントについて考えるようになった。彼女がどんなものを喜ぶだろうか。アクセサリーや服飾品も考えたが、それでは少し「異性」を意識しすぎているように感じられた。あくまで「従兄」として、そして「家庭教師」としての立場を守らなければならない。彼の誠実で内省的な性格が、そう訴えかけていた。
結局、悠人が選んだのは、葵が以前「これ、可愛い」と呟いていた、デザイン性の高い文房具セットだった。普段使いできる実用性と、葵の好みに合う可愛らしさを兼ね備えている。これなら、彼女も純粋に喜んでくれるだろう。
誕生日当日、夕食後、リビングで健一と朋子が見守る中、悠人は葵にプレゼントを差し出した。
「葵、誕生日おめでとう。ささやかだけど」
「え、悠人さんが!? ありがとう!」
葵は目を輝かせ、包みを開けた。中身を見て、ぱっと笑顔が弾ける。
「わあ! これ、欲しかったやつ! 悠人さん、覚えててくれたんだ!」
彼女は心から喜び、そのまま悠人に抱きついてきた。悠人の胸に、Cカップの柔らかな感触が押しつけられる。甘いシャンプーの香りが鼻腔を満たした。
「ありがとう、悠人さん!」
そう言って、葵は悠人の頬に感謝のキスをした。そのキスは、これまでの挑発的なディープキスとは異なり、純粋な喜びと親愛の情がこもった、柔らかなものだった。悠人の心に、温かいものがじんわりと広がっていく。
この温かい感情と、これまで葵の過剰なスキンシップがもたらした複雑な感情の間で、悠人の心は揺れ動いた。彼女の無邪気さ、明るさ、そして時に見せる大胆さが、彼の心に深く根を下ろし始めていた。戸惑いながらも、彼の中に、彼女を「守りたい」という庇護欲と、誰にも渡したくないという微かな独占欲が芽生えつつあることを自覚する。悠人は、自分がもう、単なる従兄として葵を見ることができなくなっていることに気づき始めていた。
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