第2話 ジョブツリー

 授業を抜け出し、トイレの鏡に映る自分を見る。


「若返ってる……本当に過去に戻ったんだ」


 運動を全くせず、堕落した自分を反映するかのようにだらしなかった肉体。

 それが目の前に映る自分の姿は、引き締まったいい体をしているではないか。

 無駄なぜい肉はほとんどなく、ハンターとしての特訓をしていたので筋肉質で、自分の理想体型そのものだ。


 昔ってこんなだったのかな……と懐かしい気持ちを覚えると同時に、過去に戻ったことを冷静に思案し始まる。


「過去に戻ったってことは、あの力は本物……俺の【ユニークスキル】か?」


【ユニークスキル】――それはごくまれに目覚める特殊な能力のことで、これを所持しているかどうかで人生が左右されると言っても過言ではないもの。

 持つ者と持たざる者、二つに分類されるほど大きな力を有していると言われている。


 元々俺は【ユニークスキル】に目覚めていなかったのだが……突然変異のようにある日いきなり力を手に入れることもあると聞いたことがある。

 あの時……俺の感覚からすれば数分前。

 俺の中で力が目覚めるようなことが起きたんだ。


 理由は分からない。

 だが現実として過去に戻ることができた。

 これは朗報だ。

 まさに奇跡のような出来事。

 腐った毎日から抜け出すことができる、新鮮で貴重な超常現象!


 失ったはずの右拳を握り締める。

 この感覚も本物……俺はできるはずだ。

 未来を変えることが、俺のこの手で。

 だからこそ過去に戻ることができたんだと、俺は信じたい。


「あれー誰かいるじゃん! こんな時間にサボリですかぁ?」


 心臓が跳ねる。

 この声を忘れたことは無い。


 癇に障る甲高い声。

 無駄に騒がしいバカでかい声。

 物事を考えない、脊髄反応で喋るこの声。


 鳥醜武蔵……

 とさかのようなモヒカン。

 坊主にしている部分は黒髪だが、とさか部分は赤く染めている。

 背は高くも低くも無く、吊り上がった目が特徴の男。


 こいつこそが俺が右腕を失った原因になった一人。

 鳥醜の顔を見ていると怒りがこみ上げてくる。

 だがそれと同時に、確かな恐怖が俺の全身を支配した。


「何やってんのー?」

「いや……トイレに来ただけで」

「そうなんだ。まぁ興味無いけど! ぎゃははははは!」


 俺をバカにするような喋り方。

 全然変わっていない。

 いや、過去の出来事だから変わってないのは仕方ないのだが。


 とにかく、一刻も早くここから離れたい。

 こいつと一緒の空間にいるのは、俺の心が持たないようだ。


「じゃあ」

「ちょっと待てよ」


 ギクッと心臓が跳ねる。

 動けない……こいつらにやられたことを思い出すと、どうしても命令に逆らうことができない。


「これ」

「え……?」


 何か落としたのかと思い振り返ると、鳥醜は蛇口を指で押させて、俺の方に水を噴射させた。


「うっ……」

「ぎゃはははは! 顔色悪かったから洗っておいてやったぞ!」

「…………」


 水浸しになる顔。

 俺はそのまま黙ってその場を後にした。


 トイレを出て、廊下を歩く。

 その途中で足を止めて俺は俯いてしまう。


 怖い……やつらにやられたことを思い出すと震えが止まらない。


 屋上で俺を見下ろす7人の目。 

 悪魔のような笑顔で、俺を痛めつけるのを楽しんでいる様子。

 幾度となく繰り返される暴力。

 どうすることもできず、俺は屈服するのみ。


 およそ三か月にも及ぶやつらからの暴行。

 今も忘れられない記憶。

 苦く、苦しく、地獄のような時間。

 その恐怖は俺の心の中にこびり付くようにして残り続けている。


 だけどどうにかしたい。

 弱い自分を変えたい。

 あんな未来に続くのは耐えられない。


 どうにかしてやり直せないものだろうか。

 俺は震える手を見下ろし、何度も深呼吸をする。


「そうだ……自分の能力を確認してみよう。【ユニークスキル】以外に変化があるかもしれない。まずそれを視認してみよう」


 俺は教室に戻ることなく、訓練場へ向かうことに。

 訓練場とは、普通の学校で言う所の体育館のようなものだ。

 ただしスポーツをするための道具も機材も無い。

 あるのは訓練用の模造武器。

 そしてもう一つは、『ステータス測定器』だ。


 訓練場……今はどのクラスも使用していない。

 俺は訓練場に入り、端の方に置いてある『ステータス測定器』を確認する。


 人の腰ぐらいまでの高さのボックス。

 色は白く、液晶画面が上部にはめ込まれている。

 俺はその測定器に手で触れると、機械は静かに反応した。


 ――――――――――――――――――――


 功刀真央


 Lv:7

 HP:56/56

 MP:21/21

 攻撃力:21 防御力:14

 魔力:21 素早さ:20


 ユニークスキル

 セーブポイント ジョブツリー

 

――――――――――――――――――――


 「【ジョブツリー】……って何だ?」


 学校で鍛えてきたので、一応レベルは7。

 【セーブポイント】があるのは分かっていたが……【ジョブツリー】というものまで習得している。

 二つも【ユニークスキル】があることに俺は興奮し、鼻息を荒くしていた。


「どんな能力か分からないけど……【ユニークスキル】が二つ。もしかしたら、俺でも強くなれるのか?」


 自分の能力は簡潔に言えば『平凡』。

 特別悪いこともなければ、特に良いところもない、普通ぐらいだった。

 だがそんな俺が【ユニークスキル】を二つも所持している……これは『平凡』を超えることができる可能性があるということだ。


 力があれば、あの連中にも勝てるかもしれない。

 あまりにも強すぎた7人だからこそ、逆らうこともできなかった。

 でもあいつらに並び立つことができれば……未来を変えることも夢じゃない。


 全身が熱くなるのを感じ、喜びが胸を弾ませる。

 まずは『ジョブツリー】のことを調べないとな。

 しかしどうやってそれを確認すればいいのか……測定器で調べられるのはステータスだけ。 

 それ以上のことは不可能だ。


「どうすればいい……【ジョブツリー】の説明を誰かしてくれよ」


 俺がそう呟いた時だった。

 【セーブポイント】と同じようにして、眼前に【ジョブツリー】の説明する画面が表示される。


 いきなりのことで俺は驚いてしまうが、だがこれはありがたい。

 今知りたいと思っていたことを知れる、俺は画面に目を通すことにした。


 【ジョブツリー】とは、ジョブポイントを好きなジョブに振り分けることができる能力。

 ジョブポイントはレベルが上がると手に入れることができ、現在7ポイント所持している。

 ジョブにポイントを振り分けることによって、様々な恩恵を受けることができるようだ。


「ジョブって……ゲームみたいな設定だな」


 面白いことに、【ジョブツリー】の能力で、ステータスも確認できるみたいで、これがあれば、測定器でわざわざ調べる必要も無いと。

 

 現在ポイントを割り振れるジョブの数は――4つ。

 戦士、僧侶、魔術師、盗賊。

 この中から好きな物にポイントを振り分けることができるというわけか。


 まず戦うためには力が必要。

 戦士は純粋な力を強化すると共に、敵の能力を弱体化させるスキルも習得できるようだ。

 これに割り振りするとしようか。


 俺は戦士に4ポイント振り分けることにした。

 すると文字がポップアップされ、俺はその文字を読んで飛び上がって喜びを爆発させる。


『攻撃力上昇率が40%になりました』

『防御力上昇率が20%になりました』

『パワーブレイクを習得しました』


 ポイントを振り分けるだけで能力が上昇した。

 これを続けることができれば……俺は未来を変えることだってできる。

 不思議とそんなことを感じ、笑みを浮かべて頷く。

 

「まだまだこれからだ……俺は、あいつらに負けないぐらい強くなてみせる。待ってろよ、俺の未来。最高のものにしてやるからな」


 最悪な未来を回避するため、俺は強くなることを決意する。

 強くなって、失ったプライドも取り戻すんだ。

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