#16 ほぼ拉致
交信で動くってことは、あのUFOっぽい銀色の球体はああいう形の生物なのだろうか。
そうじゃなきゃヨツデグレイさんたちは高度な文明を持っていて、交信で動くよう調整された人間の知らないテクノロジーなのかも。
しかし自然を大切にしていたよな。
人類ももっと文明が進んだらあんなふうになれるのかな。
ただヨツデグレイさんたちは交信があるから、薬もスマホも勘違いも無用となっているだけで、人間にはちょっと無理かも。
そんなことをつらつらと考えているうちに久々に自宅へ通じる「壁」の前へと到着する。
だがすぐには近づかない。
姉貴たちが居るかもしれないし。
手近な樹の上に隠れたまま、交信で周囲を探る。
生物が居れば筋肉などを動かすための微弱な交信が体内に流れている。それをキャッチできればそこに生物が居ると認識できる。
ハイイロたちは交信を介してハネイモムシの飛ぶ方向を見定め、無駄のない動きで先回りして捕まえてた。
しばらく探してみたが、付近に人は誰も居ないっぽい。
しづさんと別れてからこっちでは40日くらい経っている。
こんなに過ごしたってのに
というか逆にちょうど一日経過したくらいだから、何か新しい動きがあってもおかしくないかな、とは思う。
しかしこの時間差、改めて考えると凄まじい。
本とか図鑑とか持ち込めたらなぁ。
一日中眺めていても
ふと不安になり、自分の頬をつねってみる。
本気でギュッとやったのでけっこう痛い。
夢じゃないと信じよう。
じゃないと俺は、姉貴とか知り合いとかの裸を夢に見るくらい妄想してるヤバい欲望男になってしまう。
意を決して全裸に戻る。
草布の貫頭衣やサンダル、ピリリ運搬専用だったバッグとその中身の大量の草布、紐代わりのヒモツタなどをすべて樹の上の方で幹に縛り付ける。
そこから地面へと飛び降りて気付く。
これマズいかもな。
このまま広くない実家でちょっとのつもりで移動して壁や天井にぶつかりました、なんてのはシャレにならない。
だからかねてより練習していたアレを発動する。
自分の筋肉へ交信して運動性能を控えめにする――急に体が重くなる。これでもかつての自分よりは動けているはずなんだけど。
茂みが動いてハッと振り返る。
ゴムガエルだ。こちらが両手を上げるとそれだけで逃げてゆく。彼らは自分の口に入らない生き物からは逃げる性質がある。
というかあまり全裸でウロウロしていたくない。
早速つま先から「壁」の中へと踏み込んだ。
水の中に潜る、あの感覚。
呼吸ができない空間でさらに一歩踏み出す。
ほら、戻ってき――え?
ここ、どこ?
真っ青な部屋だった。
でもこの目の前の青い障害物は――カウンターキッチン?
キッチンもリビングも、動かせる物は全て片されていて、引っ越しのときの養生シートみたいな青い何かで覆われている。
俺の着替えは残されていたが、ノートは見当たらない。
しかも今の俺の耳には聞こえる。
家の玄関のほう、そう遠くない場所でアラームがガンガン鳴っている。
慌ててトランクスを履き、Tシャツをかぶったところで重たい足音が真っ青リビングへと乗り込んできた。
迷彩服にヘルメットにゴーグル、靴を履いたままで恐らく防弾チョッキを着ている――銃を構えた。
俺を狙ってんの?
誰?
自衛隊?
俺は持ち上げかけた中学時代のジャージ(下)を床へ落とすと、両手を上げた。
「ご自身の名前を言ってください」
野太い声を出したのは先頭のゴツい人。
緊張感が伝わってくる。
「
「向こうで何日経過したか、数えましたか?」
この人たちも時間差のことを把握しているのか。
しづさんと別れてからの時間で良いのかな?
「最後にここから
リビングの壁にかけてあった時計も今は養生シートで見えない。
俺とのやり取りを片耳に装着したインカムで誰かと小声でやり取りしている様子。
「……あの、今って、いつの何時何分ですか?」
ゴツい人は全員に銃口を俺から外すように指示した後、腕時計を確認する。
「2025年8月9日8時22分だ」
しづさんをこっちに連れてきたときが確か8月8日の9:40くらいだったから、そこから
「国館川詩真くん、我々と一緒に来たいただいてもよろしいかな?」
皆さんニコリともせず俺をじっと見つめている。
これ拒否権なさげ。
ただジャージを履くのは待ってくれた。
「はい」
彼らに囲まれたまま玄関へ向かう途中の壁や床にも養生シートで完全ガードされている。
下駄箱も養生されていたが、めくって自分の靴を取り出して履く。
外へ出ると、すぐ目の前には自衛隊のくすんだ緑色の物々しい車が停車していた。
長さも高さもうちの車の1.5倍はある。防御力の高そうな装甲で覆われていて、窓が小さい。
「乗ってください」
こんな状況ながら、こういう普段乗れない車に乗れることにちょっとワクワクする。
窓から外を見せてもらえなかった、というより内部は座席が向かい合わせになっていたので、景色を眺められる感じではなかった。ハリウッド映画で兵隊が軍用車に向かい合わせに乗ってるけど、あんな状態。
だから20分ほど揺られて到着したのがどこなのかはさっぱりわからず。
車の後部にある重たいハッチが開かれると、目の前には巨大なカマボコ型テントの入口。
かなり広いし、高さもある。
すぐにその巨大テントの中へと移動するよううながされ、それに従う。
周囲の様子を確認できる隙間はほぼないが、空が晴れているのだけはわかった。
「色々お聞きになりたいこともあるでしょうから、そちらについては私、三等陸曹の
すらっとした長身で眼光鋭い眼鏡美人――って言っちゃうと、姉貴の学校の眼鏡さんとごっちゃになりそうだな。俺の語彙の少なさよ。
ミカタさんが、テントの奥にあるもう一つの出入り口へ誘導する。
そこからぴったりくっついて繋がる別のテントの中には、何かの測定機器が並んでいる。あと空調設備もあって、ちょっと涼しい。
「さあ、ナニから測ろうかッ!」
突然、すぐそばに控えていたマッチョなお兄さんがメジャーをビーッと引っ張り、爽やかな笑顔を見せた。
### 簡易人物紹介 ###
・
主人公。
・ヨツデグレイ
いわゆるグレイに似た四腕の人型種族。交信能力を持ち、平和的で親切。子供には母乳ではなく素嚢で整えた甘い液を与える。
・ハイイロ
ヨツデグレイの若者。異邦人、詩真の世話係。日本語への理解と駆使ぶりがハンパない。銀色の球体に乗って帰郷した。
・デンキトカゲ
交信能力を持つ六足トカゲ。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けたが、群れが蛹を経て一個の生物に。
・姉貴
羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。
・
母の元同僚。姉以上にご立派な童顔ゆるふわ女子。
・
すらっとした長身で眼光鋭い眼鏡美人の三等陸曹。色々教えてくれるらしい。
・マッチョなお兄さん
ナニかを測ろうとしている。
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