#8 第一村人(?)発見

 森の中を駆け抜けながら、さっきの姉貴たちとのやり取りを思い出す。

 なんつーか売り言葉に買い言葉っぽいところはあった。あのクソたまのガキっぽい言動に乗る必要はなかった。

 そこは反省している。

 でも改めて考えても、珠や姉貴たちと一緒に行動する気にはなれない。

 イヤでも姉貴との差を思い知らされて凹むから。

 ガキの頃からずっと姉貴と比較され続けてきた。俺のちっぽけなプライドが何度も姉貴にへし折られ続けてきたのは仕方ない。姉貴がデキるのだから。

 両親も俺と姉貴を比較するようなクソじゃなかったのは救いだった。

 でも周囲の連中は違う。得に学校の教師を含めた連中の無自覚な俺へのダメ出しが、しんどかった。

 連中は自分を比較の対象から外しておいて、勝手に人を批評する。卑怯者だ。

 しかもムカつくのはあいつら、人を傷つけているという認識がまるでないこと。

 きっと俺を、姉貴につながる道か何かだと思ってんだ。平気で土足で踏みつけていきやがる。

 そんな連中を俺がわざわざ姉貴と繋げるために紹介してあげる、みたいに本気で考えているなら愚かだし、繋がれたらラッキー程度の軽い思いつきでやってんなら性根が腐ってる。

 そんなのが四六時中、どこもかしこも湧いてきやがる。

 疲れるに決まってる。逃げるに決まってる。

 なのに連中は教師に告げ口する。で、「なんで仲良くしないの」と言われる。自分たちは俺自身とは仲良くするつもりがないくせに、俺にだけ要求するのかよって思った。

 自分の価値観を押し付けるのは「仲良くする」ってのとは違う。「支配する」だ。そういう「仲良くする」って表現を使うのは反社だけなんだよ。

 それがあまりにも息苦しくて、でも当時はそれを言語化できなくって、教師も連中の擁護ばっかりだったし、俺は小学生の後半から引きこらざるを得なかった。

 運良くって表現はアレだけど、タイミング的に世間に蔓延した感染症のせいでリモート授業が増えて、出席扱いにしてもらえたのは救いだったが。

 勉強自体は嫌いじゃなかったし、ネットにあふれる情報から身になりそうなものを選んで独学で色々と学んだ。だからテストの点は悪くなかった。姉貴と比べなければ、だけど。

 当時はまだじいちゃんの介護を家でしていたから、それも積極的にやった。

 じいちゃんの世話を、学校へ行かない言い訳にしていたことについては反省している。

 でもじいちゃんのこと大好きだったから、介護は大変だったけど俺が本気でやりたかったのは事実。

 俺の憧れだったじいちゃんは昔は水族館に勤めていて、色んなことを教えてくれた。

 俺が生き物好きになったきっかけはじいちゃんだ。

 じいちゃんは「生き物は世界の先生だ」ってよく言っていた。

 その生息環境や生存戦略から得られる情報はとても多いって。

 だからこの世界でも、ここに暮らす生き物たちのことを調べれば、もっともっと理解できると思うんだ。

 考え事をしていたらあっという間に着いた。

 姉貴たちと遭遇する前に見つけておいた壁の中こちらの拠点の一つに。

 息が全然切れていないのは、我ながら驚き。

 今なら多分、この大樹のてっぺんまでも簡単に登れそう。

 見上げた大樹は立派で、枝葉はこんもりと大きく広がっている。地球のシイノキに似ているが、俺はイエノキ(仮称)と呼んでいる。

 その根元にドーム状の空間があるからだ。

 空間は、高さは1mくらいだけど幅は最大で2mくらい。十分に寝っ転がれる。

 雨風をしのげそうなのがありがたい。あと単純にここ、落ち着くんだよな。

 癒やされるっていうの? フィトンチッドみたいなのが出てるのかも。

 それでもここで寝るかと言われるとすぐには「はい」と言えない。

 まだ出遭ってないだけで、俺を襲ってくるような生き物が居ないとも限らないから。特に夜は。

 遭遇済みのやつらだって、寝ている間にニセヒモツタに血を吸われたり、ミズネコに皮膚を溶かされたりするかもしれないし。

 危険を避けるためには知識と経験が重要だけど、俺にはそれがまだまだ足りない。

 とりあえず夜がいつ来るかを知りたい。

 それによってもこの先の行動が変わってくるし。

 しかし癒やされる。この感じ、『イエノキドーム』として覚えておこう。

 そんなことを考えているときにそれは来た。

『出て行って』『お願い』

 そんな情報が、直接。

 誰から、ってのを確認する前に、俺はイエノキのドームから外へい出した。

 グレイが居た。

 あの、いわゆるグレイ。

 宇宙人ネタの番組とかでよく出てくるイラストによく似た典型的なグレイ。

 ただちょっとだけ違うのは、グレイの肩からは左右それぞれ二本ずつ、つまり合計四本の腕が出ていたってとこ。

『失礼しました』『ここはあなたの所有する場所だったのですか?』

 向こうは口を開かず静電気で会話してきたので、俺も同様の方法で返事を返した。

『違う』『ここは妊婦が訪れる場所』

 妊婦!

 言われてみれば、このヨツデグレイ(仮称)さんは下腹部が大きく膨らんでいる。

『それは申し訳ないことをしました』

 ヨツデグレイさんたちの聖域みたいな感じなのかな。

『あなたは知らなかった』『謝らないでいい』『謝るのは知ってて入ったときだけ』

 いやなんかこの人ちゃんとしてるって思った。俺の知る地球人連中よりもずっとずっと。

 それに俺、けっこう驚いてないな、とも。

 地球で会うグレイは衝撃だけど、見知らぬ六本足の生物が多い世界で出会うヨツデグレイさんは、なんというか衝撃よりも納得感の方が大きい。ピリリたちと会話してきた経験もプラスに働いているかも。

『ここの外に居る分には問題ないですか?』『それともこの樹の周囲も男子禁制みたいな決まりはありますか?』

『病人や怪我人も使ってよい』

 なるほど。リアル癒やしスポット的な場所なのか。さっき癒やしを感じたのはマジガチだったんだな。

 そういや地球の植物が出すフィトンチッド成分も防カビとか防菌とか防虫とかの効果があったはず。

 言うなれば浮浪者が病院のベッドで勝手に寝ちゃった、みたいなものか。そりゃ申し訳ない。

『××に村がある』

 この××というのは、なんというか言語化できない情報で送られてきた。

 ここからヨツデグレイさんの「村」とやらまでの道筋を、VR動画でって感じ。

 ああそうか。

 言葉を送ることしか考えてなかったけれど、イメージそのものを送ることもできるのか。

 急に世界が明るくなったような気がした。




### 簡易人物紹介 ###


詩真しま

主人公。姉と珠のいつものムーヴに辟易し、「壁」の中あちらに家出を決意。静電気っぽい能力を手に入れた。


・姉貴

羞恥心<探究心な姉。ご立派。凄まじい雷の力を入手したっぽい。


たま

元幼馴染。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。視界を奪う黒い玉を作れるようになったっぽい。


・眼鏡さん

姉貴の学校の人っぽい。良識も考察力もありそう。


・デンキトカゲ

静電気を介してコミュニケーションをとる六足トカゲ。ヌノススキの穂やハネイモムシを食べる。一番懐いている個体に「ピリリ」と名付けた。


・ヨツデグレイ(仮称)

いわゆるグレイに似た人型種族。ただし腕は四本。静電気コミュニケーションで会話可能で、平和的。


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