第1話「墜ちた者」

 目が覚めたとき、天井は格子のような木組みで編まれていた。焚き火の残り香と乾いた草の香りが混ざったような匂いが鼻をくすぐる。


 「ここは……」


 声を出すと喉が痛んだ。身を起こそうとすると、脇腹に激痛が走り、呻いた。


 戸が開き、白装束の男が現れた。


 「無理をするな。あばらをやっておる」


 男は宮司と名乗った。ここは社の一角で、神職の住まいとのことだった。


 数日後、ようやく歩けるようになり、外に出て村の全体像を目にした。


 山の斜面にへばりつくように、茅葺きの家々が並んでいた。中央には小川が流れ、子どもたちがはしゃぐ声が谷に響いていた。薪を割る音、風に揺れる洗い物、鶏の鳴き声。


 だが、その平和な風景の中で、悠に向けられる視線には明確な違和感があった。好奇心と不安、あるいは畏れ。


 彼らの常識の外から現れた“異物”。


 夜、寝床の中で天井を見つめながら考える。


 「俺は本当に……時代を超えたのか?」


 スマホは圏外で、時刻も表示されない。


 唯一使えるのは、ケースに入れていた業務用ドローン、折りたたみ式の太陽光発電パネル、そして予備バッテリー数本だった。


 幸運だった、としか言いようがない。


 この時代の全体像を掴むために必要なのは、まず“空からの視点”だった。


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