「どうしたら たった一度のこの身体を使い切れるだろう」
矢井田瞳氏の「マワルソラ」という歌のこのフレーズが大好きだ。
早死にしていった名優や文豪、ロックスター、研究者や歴史上の偉人や命を賭して国を守ってくれたご先祖さまたち。彼ら彼女らは須く自らの使命や運命と共に命と身体を使い切った英雄だ。
とてもとてもかっこいい。
無能で怠惰な一般ピーポー代表みたいな僕にはまったく関係のない世界の話だけど。それでも産んでもらったし。
結婚願望もなく、やりたいことは自分の無能な不器用さに重ねて親の顔色を伺いすぎて否定され続けたと感じていたから夢は年々ぼんやりさせて腑抜けていくばっかりだ。
たまたま旦那さんが見つけてくれて娶ってくれて本当にラッキーだった。
彼が妻と母という仕事をくれたおかげで、自暴自棄で人の顔色を伺ってフラフラグニャグニャなぼくを少しでもまっとうな人間に戻してくれた更生施設のような人だ。うまくいえないけど感謝をこめて褒め讃えております。
彼女のことは大変な事が多かったけれど、理解して協力してもらえる家族に恵まれたことはとてつもなく大きい。
なにせ重度軽度関わらず障害児の親御さんは離婚や困難が多い。各ご家庭の事情は知り得ないけど、家族や旦那様の理解が得られず一人で闘い子供を守り潰れそう潰れないように孤軍奮闘のお母様のなんと多いことか。
その点でぼくはほんとうに恵まれていた。
義実家も心を寄せてくださるし、実家も近く日々協力してもらい、ご近所の皆様もみんな優しく家族まるごとみまもってくださっている。
そしてこれは彼女の能力だと思うけどとにかく関わってくださる人にとにかく恵まれた。
病院も療育も学校もお役所も社会福祉サービス関連も嫌な思いをしたことはほとんどない。
彼女は症状や状態悪く予後不良は確定しているから、何を申請しても最重度、最重症の判定がつく状態だったからいろいろとスムーズだったのもあるだろうけど。
グレーな状態がいちばん大変だ。
もっとも彼女自身が天才的に可愛らしく魅力的だったし。これはただの親ばか。
半年前にぼくの初めて“身体の使い切りのタイミング”を迎え始めたのだとしたら彼女の去り際はなんて完璧だったのだろう。
もちろんもっと一緒にいたかった。
彼女もそう思ってくれていたらいい。
だけどぼくは明らかに弱り続けていたし、彼女も弱り続けていた。
お互いに限界を迎える前に彼女が一歩前に出たのだ。
彼女がICUに運ばれたときは、ぼくのステロイドを少し減らしてもらえて少し動ける時期だったから毎日面会に通えた。
小児科に戻ってくれたときは、ぼくの点滴も要らなくなっていたから僕の通院は間隔あいていて迷うことなく付き添い入院ができた。
世界を騒がせた新型感染症がすこし落ち着いたのと、彼女の主治医さんのおかげで旦那さんと彼女の姉と弟も最期の瞬間は彼女の病室でそばにいさせてもらえた。
ひと月早ければICUも小児科も面会謝絶の時期だったのだ。
身体を使い切りそうになるまで尽くさせてくれるなんて最高じゃないか。
無能で怠惰な一般ピーポー代表みたいな僕には体験できなかったはずのものだ。
何をとっても彼女は完璧すぎる。
すべてを知り尽くしているかのようだといつも旦那さんと話していた。
人生何周目だったのだろう。
彼女に聞きたいことが山ほどある。
ちなみに思春期をこじらせて人見知り陰キャの王道を闊歩してきたぼくは人との関わり方も知らず世間話なんて出来ない人間だった。
今は初対面の人と少しは普通に話せるしある程度の世間話はできる様になってきたと思う。
ここの病棟のみなさんがプロフェッショナルなお陰が大きいけど現にこの入院生活で出会う方々との意思疎通には全く不便していない。
人との関わり方やコミュニケーションの取り方は彼女との生活から学んだ。
またひとつ彼女の偉大さを知る。
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